第42話 誘拐3
「あの、今のお方は一体どなたなのでしょうか……?」
「……あの方は、バートラント侯爵様です。」
アイリスは、ダメ元で先程の御仁についてカリーナに聞いてみたのだが、意外にも彼女はアッサリと教えてくれたのだった。
しかし、悲しい事に名前だけ聞いても社交界の知識が乏しい為、彼がどんな人物なのか、何故アイリスが攫われたのかが全く分からなかった。
「……あの、バートラント侯爵様とは、どのような人物なのでしょうか……?」
「私が知る限りでは……バートラント侯爵は王太子派の中核のお人です。」
「王太子派の人ですって?!王太子派の人が、何故このような真似をしてレナード殿下と交渉をするのですか?!」
思いもよらなかった展開に、アイリスは思わず大きな声を上げてしまった。これは一体どう言う事なのだろうか。王太子派ならば、レナードの味方の筈なのに、何故このような事をするのか、益々分からなくなった。
「もしかして……味方のフリして実は敵だったのかしら?」
その問いかけにカリーナは、アイリスを眺めるだけで何も答えてくれなかった。
どうやら、これ以上は教えてくれないらしい。
仕方が無いのでアイリスは質問を変えてみた。
「貴女は、侯爵家の騎士なのですか?私はこの後どうなってしまうのでしょうか?」
「私の役目は貴女のお世話をする事です。」
微妙に質問の答えになっていない回答に、アイリスは彼女から何かを書き出す事を諦めた。
今までのやり取りから、彼女は良く訓練された騎士で、うっかり情報を漏らすとか、情に絆されるとか、そういった事が絶対にない人種であると見定めたからだ。彼女を攻略しようとしても無駄だと悟ったのだった。
「……一人にしてって言ったら、貴女も部屋から出て行ってくれる?どうせ入口はそこ一箇所だけだし、こんな高い所窓からも逃げ出せないでしょう?」
「お一人になりたいのですか?」
「そうね、出来れば。」
アイリスのその言葉に、カリーナは何も言わずにお辞儀をすると、そのまま黙って部屋を出て行った。
何が聞き入れて貰えるのかがイマイチ分からなかったが、ずっと知らない人と二人きりで気づまりしていたので、部屋に一人になれた事に、随分と久しぶりにホッとしたのだった。
一応念のために扉に寄ってドアノブを回してみたが、勿論鍵はかかっていた。
(まぁ、それはそうよね……)
殺風景な部屋に一人。
時刻はすでに夜になっているようで、窓の外には月が見えた。昨日が新月だったから、針のように細い三日月であったが、少しでも月が出ていればアイリスは加護の魔法を使えるのだ。
(本当は、この魔法が発動しないのが一番良いのだけど……)
アイリスは窓から月を仰いで自分に月の加護の魔法をかけた。有事の際に、少しでも抵抗出来るようにと。
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