第21話 大爆発!?
翁の工房を後にしたルカ達は、街中を歩いていた。
大剣を背中に担ぎ、白い
その隣にはクレイモアを背中に担いで、
ルカは隣を歩くティアに上目遣いで見る。ティアとは、かなりの身長差がある。だからどうしても上を向かなければ、ティアの顔を見る事は出来ないのだ。仮面で表情は見えないのだが────さしずめ気にする必要はない。いつものことだ。
「重くない?」
「ん、大丈夫だ。鍛錬にもなるし、これぐらい」
ティアは右肩に担ぐ武器を担ぎ直した。
ティアが担ぐ新しい武器は、翁の工房を出る前に渡された物だ。
翁曰く、この武器は
杭を撃ち込んだら、装填しなければならない。さらにその装填用の杭の持ち運びなど、不可能に近い。一回撃ち込んだら熱が上がり、使用不可能になるなど多くの欠点がある。
欠点があるからこそ、その武器にしか出せない威力があると翁は言った。
本当にそうだろうか、とルカは思う。
「修練場に寄るか?義手に慣れなきゃだろ?」
「あ…………」突然声をティアに掛けられたルカは、口をパクパクと数回開閉させて言葉を探す。「うん」
「なら、修練場に行こう」
ティアは角を曲がり、道を変えて歩き出した。
ルカもティアの後を追従して行った。
♢
修練場に訪れたルカ達は、各々が別の行動をする。
ルカは新しい右腕に慣れるため、大剣を振って素振りをする。
ティアもクレイモアの素振りや
ルカが新しい右腕に慣れるまで、そう時間は掛からなかった。
「もう、慣れたのか?」
「うん…………一応、慣れた」
近くで素振りをしていたティアは、呆れた表情を浮かべてルカを見る。
「短時間で慣れる」ティアは羨ましがるように呟く。「いいよな」
ルカにはよく分からない感情であった。ティアと共にいるから、ある程度の感情は身に付いたが…………顔に自然と浮き出るほどの激しいものはまだ無い。
それにティアの方が武器の扱いは慣れている。今まで積み上げてきたものが違うからだ。
自分は感覚的に行っているだけ。当たればそれで良いし、当たらなければ当てようと頑張る。それでも、もっと強くなりたいという気持ちはあった。
「ねぇ」
「ん?なんだ?」
ルカの小言にティアは首を傾げた。
ティアは素振りを辞めて、ルカの方を見る。
「一緒に…………その、やらない?」
凪のような透き通る声で、ルカはティアに提案する。
ティアは口を数回開閉させてから、生唾を飲み込んだ。ティアの表情は戸惑いとも、困惑とも取れる表情をしていた。
「鍛錬を…………か?」
「うん」
「い、良いぞ?木剣を持ってくる。待っててくれ」
ティアはクレイモアを背中に背負い直して、訓練場の壁まで走って行った。
ルカは遠くなったティアを目で追った。
目覚めてから様々な事を体験した。彼女に助けられ、怪物と戦い、そしてこれから聖樹教会と戦う。
戦う理由なんて、今だ分からないけど。恩人というか────友達というか────親友だけは絶対に死なせないとルカは決意を固める。
そうこう考えている内に、ティアが戻ってきて木剣を此方へ投げて渡して来た。
難なくそれを右手で受け取り、軽く振る。
「じゃあ…………やろうか」
「うん」
お互い向き合って、目を細めた。そして互いに地面を蹴って、距離を縮めた。
最初の一撃を振るって、木剣同士が衝突して甲高い音が響く。
義手のおかげで、手が痺れるということは無い。だから、迷い無く木剣を振れる。
──────カンカンカンカンッ!
ティアが下がりながら、ルカの剣戟を受け流している。此方が優勢。
─────前は…………ティアを下がらせることも出来なかった。
成長したということだろう。鍛える事は欠かさず、毎日行っていた。その成果が出たのだろう。
「く─────…………ッ!?」
ティアは疼痛に、顔を歪ませた。
何度目かの打ち合いの末、ルカはティアの左側腹部に木剣を当てたのだ。
少し嬉しくなる。嬉しい…………?
ティアはキッとルカを睨む。体を捻って右回転し、斜めにいるルカの脚を薙ぎ払った。
ルカは身体が傾き、目を丸くした。
ティアは傾いたルカに、木剣を叩き込んだ。
「う、わぁ…………」
義手の前腕で何とか防いだが、一度傾いた身体は戻らない。ルカはそのまま、地面に叩き付けられた。
これは模擬戦。殺し合いを想定した戦闘だ。
こんながら空きになった状態を、ティアは見逃すはずが無い。
ルカは瞬時に判断して、身体を転がしてティアから離れた。そして横回転して転がったルカは、途中で止まって脚を上げて首跳ね起きをした。身軽な身体は直ぐに起き上がり、ルカはティアを見る。
ティアは何処か感心したような表情を浮かべて、固まっていた。
「辞めだ」
「え?」
ティアから突然終了を告げられ、ルカは狼狽えた。
なんで、と口に出す前にティアが口を開いた。
「強くなったな?私に一本入れるとは、驚いたぞ?」
左側腹部を抑えながら、ティアは饒舌に語る。冷や汗を流して、ティアは疼痛に耐えている表情だった。
ルカはティアの顔から、抑えている左側腹部に視線を移す。
「!」
ルカは目を大きく開いた。
ティアの左側腹部の
「大丈夫?」
ルカは落ち着いた声で、ティアに話し掛けた。
「大丈夫…………傷口が開いただけだ。包帯を巻けば、時期塞がる…………」
青ざめた表情をしながら、ティアはヨロヨロと壁際に向かって行った。
ルカは目で追い掛ける。
彼女が大丈夫と言うのだから、大丈夫なのだろう。自分に何か出来ることはあるだろうか。いや、ないだろう。何も知らないから行っても邪魔になる。
──────暇だ。
暇になる。だから、どうしようかと悩む。
腕を組み、思考を巡らせる。
「そうだ…………一回ぐらいなら、大丈夫なはず。慣れておかないと」
ルカは義手の手首にある
ルカは肘を曲げて腕を後ろへ引いた。再び、手首の釦を押して起動させる。
義手が稼働して、管の口から火が出る。
─────どれくらいが最大だろう?
ルカは更に溜めて、出力を上げる。ゴウゴウと管が唸る。
「これくらいかな?」
ルカは拳を握って、地面を思いっきり殴るように叩き付けた。
ドゴォォォォォン!!
大爆発が起きた。天に届く勢いで、粉塵が舞い上がる。視界が砂で悪くなり、地面が激しく揺れる。
天高く舞い上がった粉塵が、落ちてきて更に視界を悪くする。
「ケホケホ…………」
ルカは咳き込みながら、粉塵を手で払う。
展開している義手は、プシューと熱気を外に排出していた。
地面に向かって放つものでは無いと、ルカは身体で理解した。
粉塵が止み、視界が良好になる。改めて周囲を見渡すと、自分の足元を中心に亀裂があちこちに入っていた。
ルカはティアを見ると、ティアはポカンと口を開けて呆けていた。包帯を新しく取り替えていたのだろう。その手が止まり、しっかりと張っていた包帯が解けていくのが見える。
「…………ティア、大丈夫かな?」
ルカはティアを心配するように呟いた。
包帯の巻く手伝いなら、自分にもできる。
ルカはティアの元へ駆け出して向かったのであった。
♢
「お前…………何をしたんだ?」
ティアは呆れた口調で、吐き捨てるように言った。
ルカは床に正座をして、そっぽを向き、頬を膨らませている。その姿はまるで、親に怒られている子供のようであった。
説教しているのは事実なのだが。
ルカが修練場で起こした事を、後日改めてティアは問い詰めていた。
当日何か言えば良かったのだろうが、なにぶん負傷していた。そのため一日休んで回復を優先させていたから、その事は後回しにしていたのだ。
まったく、我ながら何をしているのやら。説教など柄でもない事をするものでは無いと、ティアは思う。
黙りなルカを他所に考え耽っていたティアは、思考を切り替え今を見る。
「翁の話は聞いていたのだろう?燃料が尽きれば、それで終いなんだぞ?」
理解しているのか、とティアは多少口調を強めに言う。
分かってる。ゴニョゴニョと、ルカはぼやく。
後半何を言っているのか分からないが、恐らく不平不満の類を愚痴っているのだろう。
ティアは溜め息を吐いて、肩を下げた。
「どうせ…………慣れなきゃと思ったのだろう?」
ルカはビクッと身体を跳ねらせて、更にそっぽを向く。
図星であった。ルカは分かりやすい。その点はとても助かっている。言われた事を確実に熟す。それは、とてもいい事だ。
ティアは大きく溜め息を吐いて、しゃがみ込んでルカの目線に合わせた。
「慣れなきゃという気持ちは分かる。けど、慣れなくて良い。無理をするな。そいつは最悪…………身を滅ぼしてしまう可能性があるのだから」
ルカの右腕である義手にそっと触れて、ティアは優しい口調で伝える。
そっぽを向いていたルカは、元戻して真っ直ぐティアを見る。ルカの藍色の瞳は、まだ汚れておらず綺麗であった。
「な、なんだ?」
そんな純粋な瞳を向けられ、ティアは首を傾げた。
「私…………ティアを、守れるように強くなる」
ルカはじっとティアを見詰めたまま、透き通るような声で言い表した。
「な────」ティアは目を点にして、口をパクパクと開閉させる。
頬が少し熱くなるのを感じる。
「私思ったの。ティアに守れっぱなしだって…………だから、ティアを守れるように強くなる。だって、ティアは私の友人?親友?恩人?家族?…………んー、」
まぁ、いっか。ルカは大雑把に括って、良しとする。
言いたかった事を言えてスッキリしているルカとは、対照的にティアはもやもやと複雑な感情を抱いていた。
というより、困っていた。突拍子の無いことを言うのだから、誰でも困惑する。
ティアは肩を下げて、溜め息を吐いた。
──────短い間でも、関係というものは築けるものなのか。
ティアは自分の中に、ルカの言われた事を落とし込む。
「名称が多過ぎるな。家族とはまた違うし、友人というのはどうだ?」
「親友は?」
「あれはもっと、互いの事を知ってからだ。まだ、お前は記憶喪失だろ?」
「分かった。じゃあ…………ティアは友人だ」
ルカは頬を緩めて、笑ったような気がした。
表情はあまり変わっていないが、彼女が自然と見せた笑みなのだろう。
それに安堵する一方、ティアはざわざわと胸騒ぎがしていた。それが何なのかは分からないが、きっと恐ろしい何かなのだとティアは思う。
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