15 アイデアコンテスト
新商品の開発はまずはアイデアだが、この村ではアイデアが商品化できるいろいろなシステムが用意されている。既定の金額を払って登録すれば。
1:充実した試しクラウドファンディングシステム。一般の人々による人気やキ期待度が、高い精度でわかり、さらに製品化した時の資金調達の見通しも立ててくれる
2:登録商標や特許など、ひっかかるものがないか、専用の人工知能で、短期間で正確に判定してくれる。
3:その商品を生産できる技術力を持った地元企業の紹介、マッチングを行う。
今回のアイデアコンテストの予選通過作品には、上記の1、2、3のシステムサービスがすでに行われており、その結果を考慮したうえで、審査員たちが大賞や優秀作品を決めるのである。
さらに今回のコンテストでは、大賞や優秀作品には、村から補助金が出て、村のサイト等で全面的にバックアップしてくれるのだ。
村おこしの新商品開発だが、商品開発のスピードアップ、地元企業の仕事を増やし、さらに村全体の雇用の拡大にも寄与するコンテストなのだ。
司会の近藤多恵さんが時間とともに舞台に出てきた。
「それでは倉河夏祭り、第十回アイデアコンテスト授賞式を始めます。ではプレゼンターの審査委員会、審査委員長、ナンデモマートの桑田社長さん、お願いします」
リサイクルコーナーで働いていたツクシは思い出した。確か新入り仲間の北石照三さんが応募していたっけ。眼鏡の桑田社長が何やら封筒を持って舞台に上がってくる。なぜか大人気、すごい声援だ。
「ではこれから、9つの部門賞と、大賞を発表します」
会場が静まり、小太鼓の音が響き渡る。
「ではまず、リサイクル部門、エントリーナンバー283、間伐材を利用したスパイスタワーミニです」
どっと拍手が湧きあがる。舞台の中央の大画面に、受賞作が映る。
スパイスタワーミニは円い板が三段になったスパイスの整理棚である。一つの段には三つの面があり、一つの面に三つのスパイスが入るので3×3、9個のスパイスの小瓶が並ぶ。それが三段あるので最大27種類のスパイスの小瓶を入れることができる。そして一段ずつ横に回転するので、とても取り出しやすい。これが間伐材を利用し、素人でも組み立てられるセットになるのだ。
スパイスの小瓶は煩雑で整理しにくいが、段ごとや面ごとに分類することにより、かなり便利になるというわけだ。
「みなさんもご存知の通り、わが村の泉台地区ではスパイスの栽培をしていて、普及に力を入れております。この開店する三段構造のスパイスタワーミニブを使う事により、さらに普及が進むことでしょう」
受賞者は、朝市の里山パークの木工所の人だった。小さな間伐材でもできるものとしてスパイスの入れ物を考案したのだという。ニコニコして受賞の盾を高らかにかかげた。
「では次はデジタル部門です。…エントリーナンバー334、知的ペットロボットウィズダムアニマル」
会場がどっと沸きたつ。激戦を勝ち残った白壁大学の人工知能開発チームが舞台に上がってくる。みんな若い研究者たちだ。
舞台の大画面には、いろいろなペットの人形が並んでいる。モリの賢者フクロウ、数百年を生きたゾウガメ、水槽の中を泳ぐCGのクジラもいる。ここのロボットは、立体加工された有機ELパネルで、豊かな表情を持ち、またスピーカを持っていてよくしゃべり、人間の言葉もかなりの精度できちんと理解する。
これらのアニマルロボットは犬や猫など癒しが目的のペットロボットではなく、人間が生きがいを求めて物を作ったり学習したりするときの心強い相棒となるのだ。
これらのロボットはスマートスピーカのように、ネット上の人工知能につながり、辞書や百科事典で調べるようなことを、声で分かりやすく教えてくれる。言葉の意味などを事務的に素早く教えてくれるし、希望すれば関連知識やためになることわざや名言なども教えてくれる。「癒しのペットから生きがいのパートナーへ」がうたい文句だ。それぞれに充実した電子辞書のような知識を持つが、動物によって、さらに専門分野があるという。細かく見ていこう。
ゾウガメノテレス:特に地理や歴史に詳しく、複雑な質問もよく理解し、語源やミニ知識からオモシロエピソードまでユーモアたっぷりによくしゃべる。
マッスルゴリさん:植物の世話や各種工芸、日曜大工まで、道具の選び方や使い方、作業の流れ、仕上げ方のコツまで、具体的な作業にとにかくくわしい。また意外な料理上手で、おふくろの味から高級料理、キャンプのごちそうまでなんでも教えてくれる。
オウムのカペラ君:各国の名作から、小話まで何でも話してくれる。英会話プログラムも充実していて、小学生英語から本格的な英会話、翻訳機としても優秀。
フクロウのフレディ:ビジネスから発想まで、人生に行き詰ったときの名言・金言や啓発本、古今東西のビジネス本、あらゆる業種の社長の成功談までとにかく詳しく、いろいろなアイデアや発想法の宝庫と評される。
クジラのガウディ:物理や、生物学、医学、天文学などに強く、各種図鑑から難しい原理や法則までわかりやすく説明してくれる。
それぞれに個性的なしゃべり方で表情豊か、画面につなげばわかりやすい動画も見れるし、ざっと要点やあらすじを言ってくれるモードや、詳細モード、子供向けになぞなぞモードやお話モードなどもある。
社長が続けた。
「今、子供向けのいろいろな動物ボディを作っているそうです。そのうちウサギちゃんやカエルちゃんなど、かわいい動物がかしこくしゃべりだすそうです。また逆に、あなたのスマートフォンの中で、かしこい鯨やウミガメがしゃべるようになるアプリも近日発表だそうです。どちらも早く見てみたいですね。お楽しみに」
「すげえなあ、なんだよあの思慮深げに真理を説くフクロウのロボットは?!レベル高すぎだよ。でも水槽の中をゆったり泳いでいく巨大なクジラはいいなあ。おれの部屋に置きたいなあ」
観客の一人が、知的なペットに見とれていた。隣で娘がつぶやいた。
「パパのアイデアは何番だっけ?いつ出るの?」
「76番の自動だしポットと282番のどこでも縄跳びだよ。先にポット、最後のほうの部門でなわとびの発表なんだけど、どうかなあ、受賞するかなあ」
すると今日のためにわざわざ実家から来た妻が言った。
「平気よ、きっと次は名前が出るわ。ネットではけっこう人気あったんだから…。北石照三、期待してるぞう」
そう、その親子連れはツクシの新入り仲間の北石照三さん一家だった。
そして各部門の発表が続き、ついにその瞬間は来た。
まずはキッチン部門、自動だしポットは惜しくも受賞ならなかった。ポットに水と昆布や鰹節などを入れてスイッチを押すだけでちょうどいい抽出温度でおいしいだしがとれるというアイデアは良かったのだが、製品の完成度がまだ低かったようだ。ネットでは一部にコアなファンがいて、改良すれば実現の可能性はあるという。さらに各部門賞が続き、いよいよ縄跳びの番だ。
「では次、スポーツ健康部門です」
会場が静まりかえる。
「エントリーナンバー282、どこでも縄跳び」
「やったあ!」
北石照三がガッツポーズで跳び上がった。待ちに待った受賞だ。
縄跳びはとてもいい運動なのだが、縄を振り回すため、どこでもできるものではない。だがこのどこでも縄跳びは違う。なんと縄がなく、持ち手を跳び上がって回すだけで、ピッピと音が出て、センサーの働きで、万歩計のように跳んだ回数が持ち手に表示される。しかも持ち手の中に発電機があるので、回すだけで発電、電池も不要だ。そしてオプションのセットをつければ、二重跳びもカウントできるし、縄跳びしながら携帯の充電も可能だ。桑田社長がニコニコして話した。
「このどこでも縄跳びなら下半身を鍛えながら、体幹や瞬発力も鍛えられ、充電までできる。私が気に入ったのは、持ち手の重さや中で動く発電の操作感だ、一回着地するたびに、なめらかな振動とセンサー音がピッピと伝わり、本当に跳んだ充足感が得られるから。音も何パターンかあって、子供向き、大人向きまでいろいろ選べるし」
そして部門賞がすべて終わると大賞の発表だ。
「今年度の大賞はウィズダムアニマルシリーズです」
大きな歓声が巻き起こった。
さてこれらの受賞作品は、地元の企業とマッチングされて製造、ネットや専門店、そしてこのなんでもマートで大々的に売り出すのだそうだ。
北石照三は、受賞の盾を家族に見せながら舞台を降りていった。
早くも彼のやり直し人生が動きだしたのであった。
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