4 白壁大学

それから数日後、ツクシはこの村に引っ越してくることとなった。村長にまずは村人登録をするように言われ、ツクシは、合併した地区のひとつ、倉河地区に来ていた。

「へえ、なんか風情のある、いと美しの町ね」

白壁の土蔵が立ち並ぶ古い町並みの中に、いくつもの運河が流れている。ツクシは運河沿いの柳並木の下をたどりながら歩いていった。石の端や、昔からの木造の橋が、揺れる柳越しに見える。

「うわあ、見事な錦鯉が本当に泳いでる」

甘酒横丁に通じる水路には、大きな錦鯉がゆらりと泳いでいる。大川に近い水門通の運河には、自然のままの川魚が泳ぎ、ホタルが見られることもあると言う」

ツクシの目の前を、女子大生の一団が横切り、白古い蔵の中に入って行く。何だろうと覗きこむと、古い蔵を改装したおしゃれなパフェや和風雑貨の店だった。昔は醤油や清酒造りで栄えた倉河だったが、最近は古い町並みを生かしたおしゃれな店があちこちにできているようだ。

やがて人だかりのある甘酒横丁の中心に入る。地ビールや冷たい玄米甘酒などが名物で観光客も多い。醤油蔵が造ったニンニクやショウガ、玉ねぎなどのもろみ漬やイクラやウニ、コンブを使った海鮮もろみ漬も人気だ。さらにおいしい醤油を生かした堅焼きせんべい、激辛せんべい、濡れせんも大人気だが、中でも目の前で、油で揚げて醤油をまぶす、揚げ餅の実演販売は人が押し寄せている。そしてこの辺りの特産のジャガイモを使った変わり種のポテトサラダや種々のチップス、スウィートポテトは絶品らしい。

「おっと、ここでひっかかってちゃだめだわ。危ない、危ない」

ツクシはそこをスルーして先へと進んで行く。すると緑に囲まれた広い敷地に白亜の殿堂が姿を現す。白壁大学の倉河キャンパスだ。

「ええっと、この中にあるOECという窓口は…」

村長が組織したOECという非営利団体の本部が、なぜかこのキャンパス内にあるのだと言う。スマホでキャンパス内の地図を出す。すぐに場所がわかる。

桜山村にはいわゆる村役場とか市役所というものがない。村人登録をすると、住民票や戸籍などのあらゆる公共サービスの手続きはネット上で人工知能が行ってくれる。この制度を取り入れた時、たくさんの事務職員が一次的に職を失うことになり、大騒ぎになったという。村人登録をする場所は、村の中に数か所あるそうなのだが、ここ白壁大学が中心なのだ。さらに今日は、新しく村人になる人のための簡単な講座があるというので今日やってきたわけだ。

その時、小柄でアイドル系のかわいい女の子がツクシに近寄り、話しかけてくる。

「あのう、村人登録ってどこへ行けばいいんですか?」

「あら、わたしも同じよ、一緒に行きましょうか」

広いキャンパスを歩いて大きなセンタービルに出る。白壁大学は工学部が有名な理数系の大学だ。二人で入り口を入ると、窓口が10種類ほどあり、きれいなお姉さんが優しく応対してくれる。

「えっ?!」

よく見ると、お姉さん達は、一人ずつ服装や髪形は違えているが、みんな同じ顔をしている。そして全員同じ名札をぶら下げている。AI職員キズナ…。そう、窓口のお姉さんはすべて人工知能の作った立体映像なのだ。

まずはツクシが窓口に近づいてみる。

「はい、OECのキズナです。初めての方ですね、御用は何ですか。わからないことがあったらなんでも聞いてください」

ツクシはまだあまりに何も知らないので、質問してみることにした。

「ええっと、あの、OECってどんな団体なんですか?」

「OECとは、中年男村長が唱えた、OEC、おいしい主義に基づいています。オーガニック、エコロジー、クリアの頭文字をとったもので、自然を生かし、循環させて環境破壊を防ぎ、コストや経費をわかりやすく透明化した暮らしを目指す団体です」

ううむ、あのぽっちゃりした中村長はなかなかの大物らしい。

「ええっと、では村人登録をしたいんですが…」

「はい、今日はスマホをお持ちですか」

「はい」

「ならばすぐに登録できますよ。ここのQRコードを読みこんで後ろの3番個室にお入りください」

キズナさんの画面の左下にQRコードがぱっと現れ、キズナさんがそれを指差す。それを読みこむと、住所や生年月日などを打ち込むモードに変わる。

ついてきたアイドル風の女の子もこれなら簡単だと隣の窓口に進んで行った。

ツクシは個室に行って椅子に座り、いろいろな個人データを打ち込む。個室の中にも小さなモニターがあり、操作がわからないと、キズナさんが丁寧に教えてくれる。

「ではこれから、声紋と顔認証のデータをとります」

自分の名前を言って、ただ椅子に座るだけ、数秒ですべては終わる。この個室には何か所もカメラが取り付けられていて、立体写真の撮影室も兼ねているのだ。

「では、これから今週の村人カード講座を行います。時間は20分ほどを予定しています。隣の小会議室にお集まりください」

早速隣の小部屋へ行くと、今日登録したばかりの新入りの村人たちが集まって来ていた。40才くらいの優しそうなおじさんが一人、20代の女性が一人来ていた。それにツクシとアイドル風の荒川伊代が加わり、四人での受講となった。ここで高齢者や機械に慣れない人は、人間による説明を受けることもできるのだが、今回は若者中心のためか、誰も希望する人はいなかった。時間が来ると第画面にキズナさんが現れて説明が始まった。

「今日、村人登録したのは4名、あなたたちは同級生と言うわけです。これから協力して豊かな村人暮らしをしていきましょう。ではまず自己紹介からお願いします」

新入りの人たちが早くなじめるように早速ホームルームか?

まずはツクシ、美大を出ても就職がなかなか決まらず、ここの村長さんに拾われた話をして、これから部屋探しだと笑った。

荒川伊代は、ここのスーパーストアーで働くことになり、ここに来たが、倉河の街が気に行って、これから街歩きをしようと思っていると話してくれた。

そしてあの40すぎのおじさんは北石照三、父親の始めた中小企業で頑張っていたが、業績がふるわず会社をたたむことになり、奥さんと娘さんを実家に置いて、一から出直そうとこの町にやって来たそうだ。

「いやあ、商品のアイデアがいくつかあったんだけど、商品化までにはこぎつけなくてね。そうしたらこの町ではやる気さえあればうまく行くって評判を聞いてね。さっそく出てきたんだよ」

奥さんと娘さんのためにも心機一転頑張ると燃えているようだった。

「私は農業がやってみたくて、いちど田舎で頑張ったんだけど、地元の人とうまくいかなくて挫折して、OLに戻りました。でも、やっぱりやりたくて、ここに来ました」

理想に燃える農業ガールは有野マナさんだ。なんかみんなそれなりに悩みや夢を持ってこの村に来ている。話すうちに四人の間には仲間意識が芽生えていた。

さて、いよいよメインの村人登録の説明だ。画面のキズナさんが、いろいろな資料を出しながら説明してくれる。

「ここで村人登録をすると、まず、この村での住宅案内や就職情報、その他のサービス窓口にアクセスできます。その際、村人だけの特典もあります。さらに、住民票や戸籍、年金や 保険などの事務処理やいろいろな公共サービスが、ネット上で簡単に受けられるようになります。さらに、地域通貨が使えるようになり、いろいろな特典が受けられます」

住宅や就職の情報、村人の特典と聞いて、みんな一斉に明るくなった。ツクシが続けて聞いた。

「地域通貨ってなんですか?」

「スマホの中に、自働でたまる電子マネーです。地域通貨の単位は、むらびとからネーミングされたラビットです。ラビットを貯めると、道の駅の使用料、ごみ処理機代、健康診断や配送料、村内の交通費などのほか、買い物クーポンとして広く使えます。

「へえ、じゃあ、どうやるとラビットを貯められるんですか?」

「地域通貨のラビット獲得方法は以下の通りです」

0:顔認証で地域のお祭りなど、地域のイベントに行くだけでラビットもらえる。

1:公共やOECの施設の事務処理などをすべてスマホでとり行うとラビットがたまる。

2:地域の宅配システムに協力するとラビットたまる。

3:ごみの分別に協力するとラビットたまる。

4:町内会の仕事、高齢者の声かけなどをするとラビットたまる。

5:村に役立つ仕事をするとラビット貯まる。

6:村の講習会に出るとラビットたまる

「以上です」

「へえ、じゃあ、村の行事に参加したり、村のマナーを守っていればラビットは貯まるんだ」

クーポンを貯めると村の中の商品が安くなってかなりお得らしい。もちろん、村人登録したスマホをその現場に持っていかなければポイントはたまらない。

それからいくつか話をして連絡先を交換し、説明会は終わった。みんなでなごやかにお別れを言って小会議室から出ると、あの荒川伊代も出てきてツクシの方にやってきた。

「ツクシさん、どうもありがとうございました。これから私は街を少し歩こうと思うんですがご一緒にどうですか?」

だがツクシは残念そうに首を横に振った。

「ごめんなさい、これから大学の人に会わなくちゃいけないの」

実はツクシは、村長にこの人に会って来いと紹介状をもらっていたのだ。するとその時、荒川伊代の目が光った。

「大学の人って、どなたなんですか?」

「ええっと、確か、田部泰三(たべ・たいぞう)って言ったかな…。まだ会ったこともなくって…」

すると荒川伊代は、さっとスマホを取り出して確認した。

「…まちがいないわ…田部泰三(たべたいぞう)、この工学部の部長、アメリカの大学でも教えていた有名な教授で、ノーベル賞候補にも何度かあがっている大物ね。一般の人がすぐに会えるような人じゃないと思うけど…」

「え、そんな有名な人だったの?!」

なんだろう、この荒川伊代という子は?!ただのかわいい女の子ではないようだ。

「ごめんなさい、たちいったこと聞いちゃって。じゃあ、わたし、失礼します」

アイドル系のかわいいその子は、にこっと笑顔を作ると、そそくさとその場を去って行った。ツクシが紹介状を出して窓口のキズナさんに見せると、紹介状は瞬間でスキャンされて画面の中に取り込まれ、キズナさんが画面の中でそれを読みはじめた。

「中村長さんからの紹介状ですね。あ、事前にアポが取れています。15分後に味覚工学室でお待ちしているそうです。ここから味覚工学室まではゆっくり歩くと5分以上かかりますので、お気をつけください。あと、村人の登録がしてあるスマホをかざすと、入室ができますのでお忘れなく」

「はい」

なにか不思議だ。AIの作った画像だとは分かっていてもキズナさんの動きはとっても自然で、人間と話しているように錯覚してしまう。

広いキャンパスをぐるっと見て回りながら、ツクシは味覚工学室のある工学実験棟に向かう。工科大学と聞いていたから、近未来的な大学を予想していた。確かに建物の中は先進的な感じだが、建物の外は石畳に生垣、せせらぎや噴水のある自然いっぱいの安らぎの空間だ。高いビルもまったくなく、広いキャンパスに低い建物が点在している。

「ここが工学実験棟ね。ええっと、ここの17号室ね」

面白いと思ったのは、工学実験棟の脇には立派な田んぼがあったことだ。

「なんで工科大学に田んぼがあるの?」

そこにあった解説モニターに話しかけると、キズナさんとはまた違う人工知能の作った別の女性が画面に映った。

「はあい、ワカコです。何かわからないことがございますか?」

とかく人工知能の出した答えは、どうしてそういう答えになったのかが分かりにくく、思考の流れが見えないことが多い。そこでキズナさんたち人工知能の思考の流れを人間に納得できるように説明する必要が出てきたという。ワカコさんは、そのための丁寧で優しい説明のためのAIなのだそうだ。大学の方針から事務のシステムまで何でもわかりやすく教えてくれる。

「向こう側は、自然農法の畑なんですけど、こちら側は、GPS付きのトラクターロボットや種・肥料蒔き用のドローン、害虫・雑草駆除ロボット、さらにはドローンの撮影画像による稲の育成分析システムのための田んぼなんですよ。工科大学の高度なロボット技術を農業に生かしているんです」

ちなみに、隣の建物はまったく新しい栽培方法を取り入れた植物工場なのだと言う。

「へえ、農業か?!、こんなこともやってるのね」

でも、歩きながらツクシは思った。なぜ村長は、大学を出たばかりのしかも美術が専門の自分を、工学部の大先生に会わせるのだろう。

ツクシは時間ピッタリに味覚工学室の前に来てスマホをかざした。

二重になっているドアが開く。田部教授は、もう一人の知性的な女の人と話をしているところだった。

やあ、いらっしゃい。君がツクシ君だね。私が田部だ。こちらは自然農法の権威、台場七(だいばしち)教授だ。いやあ、おいしいものを食べるにはまず田んぼや畑からだからね。

「じゃあ、私はこれで」

台場教授が席をはずすと、さっそく田部教授が近づいてきた。白髪交じりの長髪、知性派の自由人、ちょっとジョン・レノンに似ている。

「ようこそ、わが実験室へ。いやあ村長が言っていた通りだ。のんびりしたやさしそうな人だね。でも、いざとなるとすごい集中力と創造力だって、うちの池橋君が言ってたよ」

ああ、そうかこの間いろいろ教えてくれた池橋礼さんはここの研究室の人だった。

「まあ、まずはここでやっている実験を見ていってくれ」

「うわあ、見たことの無い機械がいっぱいだわ」

回転寿司のようなベルトコンベアが実験台にあり、できたての料理をセットしてスイッチを入れるとゆっくり動きだす。料理は、創作料理の有名店、ロマネラの新作サラダ「サバサラダ」だ。野菜サラダの上にアボカドに乗せた〆サバとカニかまぼこが盛り合わせてあり、ライム風味のドレッシングでまとめられている。まずは撮影、画像分析のコーナーへ。そして次は香りの分析の機械の中へ。さらにマジックハンドでスプーンやフォークを使って、食べやすさの検査、続いて一口大の料理を機械の中に入れ食感の検査、最後に非常に精密な味覚検査、栄養分析などが行われるという。驚くのは、まったく人間の手を使わずに、しかもすばやくいろいろな分析が行われると言うことだ。

それに食材の採れた場所や季節、採った状態、輸送や保管の方法、料理の作り方や、料理人の名前等のデータがプラスされ、この装置全体で、カロリーや各種栄養素はもちろん、美容やダイエットに効果的な栄養素、グルタミン酸や、イノシン酸、グアニル酸等のだしの成分、甘み・塩味;酸味;渋み・うま味などの味のレベルなど、261項目のデータが上がってくる。

「肝心なのは、そのデータをどう処理していくかだ」

今研究室ではこの膨大なデータをどのように処理していくかの実験的な試みが研究されていると言う。

「この画面の中にいる三人のCGキャラを見てくれ。三人はそれぞれ別々の人工知能が操作している」

一人目は知性的な30代の管理栄養士、ミセス・リツコ。二人目は大柄で太め、でも上品な中年、黒沢。そして三人目はおしゃれな女子大生、ユウコ、といったキャラだ。

「今みてもらったサバサラダの分析データがある。これをそれぞれのキャラに分析してもらおう」

ミセス・リツコ。

「栄養バランスが意外によく、DHA、EPAも多いので血管年齢の若返りや美容効果が期待できる。糖質は低めだが、ある程度満腹感もある。彩りも鮮やかで食欲が湧いてくる」

黒沢。

「ミスマッチかと思われるアボカドの上のシメサバだが、さわやか風味のドレッシングがうまく間を取り持っている。食感もまったりとして満足感がある。また青森産のサバが新鮮であぶら乗りもよく、使われているカニかまぼこも繊維質の再現度のレベルも高い」

ユウコ。

「野菜のグリーンとアボカドのイエロー、そしてカニカマのレッドと色どりがよく、取り合わせも奇抜だし、インスタ映えもかなりの高レベル。血糖値も上がりにくく、ライムのビタミン効果もいいかも。女子は好きだと思う」

こんな感じで、違う立場や視点からの適切なコメントがそれぞれのキャラから出てくる。261項目の細かいデータも見ることができるし、三人の評価の総合点は4.03になるという。このようなデータを集め、人工知能の中にデータを集積させているのだ。

「今までは一流の料理人しか作れなかった味が、もっと簡単に作れる日が来るだろう。また、この機械はまだまだ完全ではないが、その料理の客観的な価値をひとつの基準にしてフェアトレードなども円滑に動くのだよ」

「いやあ、驚きました。私も食べるの大好きなんですけど、すぐに食べたものの価値が数字になって出てくるのがすごい役に立つと思いました。あと、それと…」

「うむ、なんだね」

「キャンパスの受付のキズナさんも凄かったけど、ここの今見た三人のキャラもCGとわかっていてもとても自然でなんだか本物の人間と接しているような気分になりました。洋服のセンスもなかなかだし、特にグルメな黒沢さんとかいい味出していて説得力があるし、視線が合うし、なんか信頼感もありますよね。すごいですね」

「お、さすが村長の見つけた美術大出身者だ」

この有名な教授はなぜかとても喜んで、ツクシに椅子を勧め、自分も座り込んだ。

「実はこの大学で動いている人工知能キャラは、あのキズナさんや今の三人だけでなく、ほかに何人もいる。最初は全員ロボットにして、実際に人間とふれあってもらおうと言う計画があって、村長にも相談したんだ。そして試作ロボットを見てもらったんだが、村長は厳しかった。だめだめ、これじゃあ資金ばっかりかかって、狙っている効果が上がらない…もっと自然で親しみが持てるものを、スピード感を持って開発しないと…とね」

…あのちょっと太めの村長が、この大先生をしかりつけていたとは…。

「すると村長は、あっという間にうちの工学部でCGアニメを作っていた連中を探してきて、彼らに任せたらどうかと言いだしたんだ。彼らは根っからのアニメマニアで、工学部の中でもちょっと浮いた存在だった」

そして彼らの仲間でもある美術専門学校 のアニメーターたちも巻き込んで、モニターの中で動く人工知能キャラ作りのプロジェクトが始まったと言う。

アニメーターたちのイマジネーションで、具体的な性格付けからデザインやコーディネートまであらゆるものが工夫され、ぐっと親しみやすいものになった。そしてロボットのた めに開発された、感情を表情に反映するシステムや、話を聞くときは視線を合わせるシステム、あと相手との距離を計算し、それに合わせた話し方をするシステムもそのままプログラムに組み込んだという。

「だから、あの人工知能のキャラたちは、CGアニメの親しみやすさ、美的センスとロボットの技術で作られたハイブリットな存在なのだよ。でも、君の言った通りだ、評判はとてもいい。われわれ工学系の人間に足りないものをあの村長はよくわかっていたのだよ。あの窓口を見たかい、同じようなキズナさんが10人ほどいただろう。理論的には、高性能コンピュータを使ったキズナは、一度に数千人の応対ができるんだ。コストの面でも村長は正しかったと思うよ」

「へえ、村長って、実はすごい人なんですね」

「わたしも村長も食いしん坊で、いつも食べ物の話題で盛り上がっているんだが、いやあ、本気になったら、私もかなわないよ。あんな優しそうな顔をして、心の中ではいつもすごいことを考えている人さ。君を雇ったのも、やっぱり何か深い考えがあるんだろうね」

田部泰三教授は、そう言うとにこっと笑った。

そういえば、私の紙工作をネットで見つけてくれたのも村長だった。そうなのか、あの中年男村長は、そんなすばらしい人だったのか、そんな人にみいだしてもらったなら自分ももっとがんばらなくちゃ…。

「本当に素晴らしいものを見せていただきありがとうございました」

「ツクシ君、きっと君はうちの研究員、池橋礼ともいろいろ仕事をしていくことになるだろう。小さなことでも協力するから、何かあったらいつでも連絡してくれたまえ。あ、そうだ、工学部のロボット技術で造られたそこの田んぼの米がいい感じで育っているんだ。秋になったらロボット収穫祭をやるから絶対来てくれよ」

「はい」

そしてツクシは田部教授にお別れを言ってキャンパスを出た。キャンパスのせせらぎ脇のベンチに座ると、さっそく村人登録を使って住宅情報を調べ始めたのだった。

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