世界の平和のために尽力します

-(ハイフン)

『世界最強の四人の話』

 著書を手に取っていただき心から感謝いたします。

 まず初めに四人のことを知っていただきたいと思い、私が行ったインタビューをもとに紹介文を作成いたしました。注釈—―作成の際テンションが上がってしまっていたので少々あれですが、どうか気にしないでいただきたい。



 昔々―500年くらい前、とある一人の男はこう言いました。


「兜や頭蓋骨を無視して、脳みそだけ斬れれば強くね?」


 周りにいた男の仲間たちはこう返しました。


「脳筋だ……」


 それを聞いた男は思います。


「のうきんって言う技名なのか」


 男は残念な頭をしていましたが、仲間や運、そして何よりも、執念という才能に恵まれていました。

しかし、男は自身の寿命では技を完成させられない事を悟り、技の完成を諦めました。


 男は次代に引き継ぐことにしたのです。

 自身の子に全ての経験を―そう考えた男は仲間と共にそれを為すための研究を始めました。


 そうして男は何年、何世代かかろうともこの技を完成させたい―そのような想いから、一つの魔法を作り上げました。


 そして、長い時と多くの世代、数多の闘争を経て完成に至った者が現れる。


 十七代目御剣家当主 御剣みつるぎ華也かや――世界最強の剣士なり。




 その旅人は隻腕である。

左の袖をなびかせて独り放浪を続ける根無し草。


 幼き頃に左腕を失い、その代わりに死をもたらす腕を手に入れた男。

しかし彼はその力を必要としていなかった。

彼はとても優しく、穏やかで誰かを傷つけることが嫌いだった。


 だが、そんな力を持った者を周囲が放っておくはずもなく、彼は争いに巻き込まれていく。

否応なしにその力を振るうしかなく、多くの命を終わらせていき、多くの場所を更地に返した。


 だから彼は旅に出た。

自身の力で誰かを傷つけないように。

自身の力で誰かを救えるように。

多くのものを見て、多くのものを感じ、多くのものを殺め、多くのものを生かす。


 彼は死をもたらす腕を持つ旅人。心優しき放浪者。

神薙かんなぎ夕乃ゆうの――世界最強の旅人なり。




 国と民を守るのが軍人だ。我らはそのために死に、そのために生きる。

――そんなことを言うやつがこの世で一番嫌いだ。

彼は共同墓地の慰霊碑の前でそう呟いた。


 誰もが焦がれ、誰もが目指した最強の称号。

彼はそれを若くして手に入れていたが、何も満たされることはなかった。

愛情も友情も、それこそ強さ以外の全てを捨て去って彼はそこに立っていた。


 そうしてあの日、ただ一人だけ生き残った。

皆が命を賭して彼を守る。皆が憎まれ口を言いながら彼を生かす。皆がその視線で彼に託した。

たった一日、たかが一日で、愛情も友情も苦しさも悲しさも彼は失い、手に入れた。


 だから彼は強くなった。

守り、生かし、託すために。


 誰よりも速く戦場を駆けるその姿を見て人々はこう言った。

迅雷じんらい六辻むつじ文人あやと――世界最強の軍人なり。




 汝、この書を開き、我が闇に包まれし過去を識ろうとする者よ。

何故にそれを求める。好奇心は汝を闇に誘うぞ。

まあ、よいか。識りたくば教えてやろう。心して聞くがよい。


 まずは、我の前世――いや、その前の前、始まりの刻から聞かせてやろう。

我は原初の光が生まれたとき、対となる原初の闇として存在していた。原初の闇、汝に分かりやすく言うのであれば、ブラックホールに似たようなものだ。まあ、ブラックホールほど下品なものでは無いがな。原初の闇はただそこにあり、受け入れ、呑み込み、同化する。自ら求め吸い込むブラックホールとは雲泥の差がある。

その差は言葉では語り切れないほどだ。それでもなお識りたいと言うのならば、我に会いに来ると良い。直接その頭の中に情報を叩き込んでやろう。

さて次は、如何にして原初の闇から我という自我が確立したかだが――なに?長い?まだまだ語り切れぬほどあるのだぞ。それをこんな序盤で――……もう、よい。その顔をした奴に語ることなど何もない。

では、さらばだ。


 彼は行く先々でトラブルを起こし、それを解決してはこう名乗った。


悪いが真名を教えることはできん。代わりに今世の名を教えてやろう。

赤城あかぎ未王みおう、またの名を闇天あんてんの術師――世界最強の術師なり!



 ――『世界最強の四人の話』(著者不明)より抜粋。





 同じようで違う世界――異世界の存在を認識したのはいつ頃だっただろうか。

 発見された四つの異世界は全て、元々一つ世界だったと証明したのは誰だっただろうか。

 時を経て、の世界が一つになった今、各々の最強は――


「ドラゴンで野球しようぜ華也ちゃん。 俺ピッチャーな」

「ちゃん付けするな。 文人が投げるのなら……私が打つ」

「ならば我がキャッチャーをしよう。 華麗な闇さばきによる魔球を見るがよい!」

「キャッチャーが魔球にするってルール的にどうなんだ? というか僕は? 審判?」


 ――童心に返っていた。

 もちろん、こうなるまでに多少の紆余曲折はあった。が、しかし、出会ってからたった数日でこうなるとは誰も思いもしなかっただろう。

 なにせ、それぞれが立派?に世界最強を体現していたのだ。

 何がどうしてこうなった。


「いくぞ華也ちゃん――オラァ!」

「闇よ蠢け! 冥球!」

「私はもう見切っている――せいっ! ……あと、ちゃん付けを止めろ」

「おお~見事なホームラン」


 ああ、空の彼方に吹っ飛んでいくドラゴンに涙が出てきそうだ。

 本来、こんな小学校の掃除の時間みたいなノリで雑に処理されるほど、ドラゴンは甘い存在ではない。

 ドラゴンといえば、強敵、最強種、ラスボス、的な立ち位置にいるのが普通。もちろんこの世界でもそれは変わらない。

 ただ、彼らがおかしいだけ。


「私の勝ち」

「まあまあ、ちょっと待てよ華也ちゃん。 まだ俺が打ってないだろ」

「はーい現在1-0」

「ふっ……冥球の真の姿を見せる時がきたか」


 ノリノリである。勝敗が着くまでにいったい何体のドラゴンが彼らの犠牲になるのだろうか。—―哀れなりドラゴン。


 とまあ、それは置いておいて。彼らがこうなったきっかけは、世界がくっついた日でもあり、四人が初めて出会った日まで遡る。

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