異世界デパート〜お客様は神様です〜

桃月とと

第1話 いらっしゃいませお客様

 いらっしゃいませ。私、当異世界デパートの1階フロアマネージャーを勤めております、御子柴と申します。


 お客様、本日はどのような異世界人をお求めで?……はい。ええ、ええ、わかりますとも……それでしたらこちらはいかがでしょう。


【◯県△市 南第三中学校 1年3組24番 戸川芽衣 天真爛漫 成績優秀 慈悲深い 美少女】


 少々お値段はしますが、お客様のお話ですとこのくらい確実な異世界人がよろしいかと。聖女に適正がある異界人は人気がありまして。こちらは特に……はいもちろん違う異世界人もご紹介可能です。


 そうですね〜……ではこちらの……、


【△県◯市 西第一中学校 2年5組3番 池崎桜子 強気 親切 意志が強い 成績は上位 美人だが少々キツめの顔】


 万人ウケはしないのですが、個人的にはこのタイプは責任感を持ってキッチリお客様のご要望を叶えてくれるかと。


 ええはい。はい! ありがとうございます! ではこちらの池崎桜子の方で。お日にちは……はい構いません。明日午後イチでございますね。承知いたしました。


 ありがとうございました! またのご来店を!


◇◇◇◇◇


 デパート店員用の休憩室は混雑していた。皆急いで昼食をかきこんでいる。通年を通して忙しくはあるが、特に異世界人の夏休み前はその比ではない。


「御子柴さんまた朝から3人も契約とったんですって? すごいですね~!」


 隣失礼します。と言いながら若い女性が御子柴の隣の席に座り、自前弁当の包みを開けた。


「西園寺さん。5Fも今日はお忙しそうですね」


 西園寺は異世界デパート5Fの紳士服売り場を担当している。

 

「そーなんですよ! いや、ありがたいですけどね。お客様には是非季節が変わる前にも来ていただけると助かるのに~」

「まあ、最近急に暑くなってきましたから」


 食後の缶コーヒーを飲みながら、御子柴はタブレットでスケジュールを確認している。


「今日もまた『聖女』ですか?」

「そうですね。最近は本当に人気で在庫の確保が追い付きません」


 西園寺は小さくため息をついた。


「今って元の世界への帰還率、どのくらいなんですか?」

「半々ですね。以前は行ったキリが多かったんですが、昨今の需要が拡大していますし、帰還可能が選択肢にある方が適正者も見つかりやすいからでしょう」


 スマートフォンが鳴る音が聞こえる。西園寺のものだ。


「はい。ええ。わかりました……はい、後ほど」


 やれやれ、といった表情でスマートフォンをきりポケットにしまう。


「転生部門からですか?」

「……わかりますか」

「珍しく顔に出てましたよ」

「まあ……あちらの方はなかなかセンシティブな仕事内容ですしね。苛立ってしまうのは理解できます」


 では、と御子柴は席を立ち休憩室を後にした。


「お疲れ様でーす」


 西園寺も急いで弁当をカラにするのだった。

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