同窓会彼女~デスゲームで始める俺の恋愛やり直し

悠木音人

第1話 俺はゲームクリエイター

 まるでイベントスペースのような空間内に、カーブしたデスクとその上に並べられたモニター類やコンピューターがまず目につく。電動ブラインドが三方向を囲む全面窓を覆い、壁側には上下階につながるガラス張りの階段スペースがある。

 ここは俺の所有する都内オフィス街にある四階建てのビルで、上二階をプライベートな住居、下二階をテナントとして貸し出している。

 オフィスビルをリノベーションした住居で、シャワールームやトイレといったサニタリーや、キッチンなどの生活に必要な装備は上の階におき、仕事スペースを広く確保している。

 主に使っている二階分は階段脇が吹き抜けになっていて解放感を演出している。

 ここを見たものは掃除が大変そうだと言うが、オフィス時代から活動していた大型の警備ロボットが掃除も兼用していて、広大な床面積を設定した時間通りに綺麗にしてくれている。


 俺はゲームクリエイターだ。

 自分で立ち上げた会社で開発したゲームは大手ゲームプロバイダーから二年前に配信が決まり、その後会社ごと売却した。今は別途立ち上げた会社で二作目のゲームを開発中だ。


 最初のゲームが売れた理由は分からない。

 いや、成功の理由はわかっている。だが、あんなクズゲームに夢中になるユーザーの気持ちはわからなかった。内容は既存ゲームのいいところを組み合わせたものにすぎないし、時代に合わせたデザインや演出によって着飾った張りぼてだ。

 世の中には既存の枠に収まらない画期的なものを作り出すことにすべてをかける奴もいるが、そういうのは人生に満足してる幸せな奴がすること。


 そう。

 俺の人生はからっぽだった。


 子供のころから何かに感動したことがないし、すでに人生を諦めていたようなガキだった。生意気なことを言うわりに自分では何もしない。もし将来自分にガキができて、それがあんな野郎だったら、俺は仕事を理由に母親に育児を押し付け、家に寄り付かない父親になるに違いない。

 自分とそっくりなガキなんて、見たくないからな。


 そんな俺でも高校の時に恋したことはあった。

 だけど俺には幼稚園と高校の記憶がほとんどない。クラスメイトにどんな奴がいて、どんな先生がどんな授業をしてたか。まったく覚えていないのだ。

 幼稚園の時は外の世界への拒絶。高校の時は人間への絶望で意識を閉ざしていたからだ。


 そんな俺にゲーム内のキャラクターの気持ちなんか分かるわけがない。

 ストーリーパートは外注していたし、俺はもっぱらユーザーを中毒にさせるようにシステムをデザインしていた。人生の時間を無為に過ごすことに関しては、俺は誰よりも精通していた。


 ストーリーパートを外注したのは当時パソコン向けのノベルゲームのストーリーを書いていた作家だった。彼がシナリオを担当したノベルゲームはほとんど売れなかったようだが、彼がその後に書いた小説はベストセラーになった。

 契約時、彼があなたのゲームの世界を広げる手伝いができて光栄だと熱っぽく語っていたことを覚えている。結局俺はストーリーパートにノータッチで実は原稿を読んでさえいない。作品としての価値などどうでもいいのだ。ユーザーの反応、数字だけがすべてだ。

 だが、俺はのちの会見で彼に心から感謝の意を伝えた。素晴らしいストーリーをありがとう、と。何事も内容ではない。相手に与える影響、そのデザインだけがすべてなのだから。


 いくつものモニターには開発中のゲームのテストプレイの様子が表示されている。

 AIのおかげで様々な工程が省力化されているし、できないところはメッセージングツールで在宅で契約しているエンジニアに作らせる。

 今作っているのはチュートリアルだ。

 ユーザーがゲームの面白さを最初に体験する部分であり、ここで引き続きプレイしたいと思わせられなければゲームは失敗だ。だからゲームの中身やコンセプトよりも、まずどれだけ面白いチュートリアルが作れるかでゲームの内容を決める。

 モニターには、次々と女の子が現れては、戦場で彼女と二人きりの緊張感のままでチュートリアルが進行していた。キャラクター、シナリオなど複数のパターンを試し、これというものが生まれなければそのアイデアはボツとなる。


 俺は画面をしばらく見つめてため息をつくと、サポートAIに音声で指示を与える。

「おい。このアイデアはボツだってエンジニアに伝えろ」

「しばらく操作がなかったためユーザー認証が必要です。お名前をおっしゃってください」

「ちっ……。烏丸からすま大輝たいきだ」

「……認証完了しました。メッセージングアプリを起動します。契約されているエンジニアにアイデアのボツとメッセージを送信します。よろしいですか?」

「ああ頼む。それからメッセージングアプリのユーザー認証は不要にしろ。今後は俺の指示があればメッセージの送信はお前がやるんだ」

「了解しました……。ところで、間もなく昼食に設定した時間となります。本日のランチはいかがいたしますか? 火曜日に設定したサラダとピザでよろしければ注文しておきますが」

「ああ、それで頼む」

「了解いたしました」

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