20.手合わせ、二戦目(その2)


 〜クロウside〜


「リオ!おいどうなんだアレ!ソルジャーとリーパーが潜って行ったと思ったら地面陥没したんだが!?」


「いやー、トーリちゃんの魔眼が決まった時はこれもう楽勝だと思ったんですけどねぇ。大丈夫かな?トーリちゃーん!」


 先程崩落した地面は未だに土煙を吐き出していて、その中が見えない。


「リーパー、ソルジャー、無事カ!《風魔法》『ウィンド』」


 コマンダーが風を起こし土煙を払い、崩れた様子が幾分か見やすくなるが……


「うっわひでえ、ボコボコじゃねえか。誰が何したんだ?」


「十中八九トーリちゃんですよ。あ、ほらあそこ見てください!私の武器が!」


 リオの指さす先には俺の羽が飾りとして使われている棒。いやあれ穂先が爆発する槍じゃなかったか?


「まさかあれのせいで……?リオお前……。」


「いやいやいや無いです!そんな危ないもの渡す訳ないでしょう!?せいぜいワーカーが吹き飛ぶくらいですって!あんな穴あきませんよ!」


「いやそれでも十分危ねぇよ?」


 そうリオと話しながら穴を覗き込み、トーリを探す。半死半生のソルジャーが1匹、土をかき分けて出てきたがそれだけだ。


「なぁエイティア女王、ここは俺らの負けでもいいからせめてトーリの捜索していいか?」


「こちらはコマンダーとソルジャーが生存している。そちらが生死不明の場合ならそれでもいいが……ふむ、本人の意思を確認するとしようか。」


 エイティア女王が目線を向けた先の地面が盛り上がり、緑の兎が飛び出してくる。


「ふー、いざ生き埋めになるとドキドキするね。」


「おお、トーリ!」


「トーリちゃんだお疲れ様!まだ戦える?」


「武器振り回して疲れたし割と遠慮したいけどね、まだいいとこ見せられてないから。相手は……うん、コマンダーとソルジャーか。3匹は仕留めたと思っていいかな。」


「まだ続けるか?過半数倒されてる故ここで辞めても実力の証明としては充分ではあるが。」


「うーん、なら僕のを見せるので、コマンダーとソルジャーがそれでもまだ戦うなら続けませんか?」


「いいだろう。戦いの半分は地面の下で何をしているか分からなかったからな。是非そのとっておきとやらを見せて貰おう。」


「リオもクロウさんも驚かせますよ。よく見てて下さいね。」


「いいぞートーリちゃんやっちゃえ!」


 〜トーリside〜


 《植物操作》で体の周り保護しといてよかった、思ったほどHP削れなかったから少しは戦えるね。


「じゃあ行きますか!植物だって捨てたもんじゃないよ!」


 僕は多分3人の中だと一番弱い。けど、弱いなら弱いなりに意地があるんだよ。ハッタリでも何でも、驚かせられれば隙は出来るからね。


『悠久の蔦が螺旋を描く。一人静に雪華舞い散る。思いのままに大地と語る。目は有る。手は無い。足も無い。我が意に沿い動く身体をここに。』


 詠唱が始まると《凍結の魔眼》、《土魔法》、《植物操作》がフル稼働し、目の前に身体を生み出していく。

 よしよし、いい感じ。大きさはどうしようか、2メートルくらいでいいかな?蔦で大まかな骨組みを組んで、そこら辺に沢山ある土で肉付け。《凍結の魔眼》で補強、と。MPが足りなくなってきたら虎の子のポーションを吸って……。


「よし、できた!これで最後に僕が中に入って……。わっ!」


 胸の中央部に作った空洞に本体の球根を移した途端、MPを勝手に吸われて要所に氷の防具が出現し体から所々氷柱が突き出した。


「ま、想定とは少し違うけどこれはこれでいいでしょ。これが僕のとっておき、名付けて《氷華操術ひょうかそうじゅつ》―『冷眸の樹傀儡フローズンパペット』」


「トーリ!お前すげえよ!それ……もう!すげえよ!俺もやりたい!」


「分かります、分かりますよクロウさん!乗り込んで操作するのって男の夢ですからね!テンション上がりますよね!」


「私はもっと可愛いのがいいよ〜なんかトゲトゲしい!」


「それはちょっと僕にも想定外なんだよね。勝手に魔眼が吸って行ったから。で、どうする?コマンダーにソルジャー。やるかい?」


「ふむ、どうするコマンダー。お前が続けたいならば止めはせん。班の過半数を失って尚戦い続けるならばそれも良し、潔く負けるならそれもまた良し。」


 女王がコマンダーと休んで少し元気になったソルジャーに問う。


「我ガ王……。ソルジャードウダ、戦エルカ?私ハマダ諦メテイナイガ。」


「タタカウ。カタキウツ。」


「だそうだ。それでは、引き続き続行とする。」


「了解。ではこっちから行こうか!」


「《クイック》!ソルジャー、待避シロ!」


 少し元気になったとは言え動きの鈍いソルジャーに目をつけ、走り出す。急いで飛び立つが、さっき相手した時より遅い。


「ははっ!やっぱ人型の方が慣れてるね!それに付け加えて人間だった時にはできないことも出来る――『縛り上げ』!」


「グッ!ギィッ!!」


 腕の先から蔦を更に伸ばし、捕まえたソルジャーをそのまま力任せに振り回してグシャリと地面に叩きつける。僕の攻撃力が低くても位置エネルギーに遠心力と加わればそうなるよね。


「よっしゃこれで4匹!あとはコマンダーだけ!」


「ソルジャー!私ダケダガコノママ負ケル訳ニハイカナイ!《孤軍奮闘》《クイック》《パワーアシスト》……《狂化》!ヴヴヴァァ!」


「《狂化》?勘弁してよ……早っ!重っ!」


 自分にバフをかけたコマンダーが突撃してきたけど、リーパーやソルジャーとは比べ物にならない!何とか胸は守ったけどただの体当たりでこれ!?まっずい!この体結構重いんだよな!


「私ノ!部下ガ!我ガ王ノ勝利ガ!アアアアァ!」


「叫びながら突撃してくるな!くっ!闘牛士じゃないんだよこっちは!」


 いくら花で全方位に視界があっても早くて捉えきれない、守るだけで精一杯だよくそっ!また冷やすか?MPは少しずつ減っていくしこれが続くとまずい。どうする、どうすればいい!


 そうして突撃を凌いで体感数十秒。さすがに連続突撃で疲れ、闘志を漲らせながらも多少ふらついて飛びはじめた。攻めるならここしかない!


「チャンス!《氷華蔦剣アイシクルヴァイン》」


 体から飛び出た氷柱を一本折り、それを軸に蔦を絡ませ花を咲かせ、更に氷で覆った剣。それを右手に携えこちらから近づくが如何せん土と氷の塊。体が重いこと重いこと!人型(擬似)でも素早さ最底辺だね!


「遅イ遅イィィィ!《風魔法》『ウィンドカッター』!」


「ちょっ腕が!やっぱり格上とタイマンはキツいって!このっ!」


『ウィンドカッター』を避けようとしたけど左手に喰らって切り飛ばされた。痛くは無いけど片腕飛ばされるっていい気分じゃないね。お返しとばかりに剣を突き出すがそのまま後退されて当たらない。


「当たらなきゃダメージも何も無いっての。刺せれば勝ちなんだけど……いい事思いついちゃった。」


 再びコマンダーに近づき突き、袈裟斬り等で振り回す。


「当タラン当タランンン!間合イノ外カラソノ体切リ飛バシテクレルゥゥゥ!」


「そうだね、このままだと当たらないね!よっ!」


 剣を持つ腕と胸に喰らわないように頭や氷柱等で攻撃を受ける。その合間にこちらからも攻撃を仕掛けるけどまぁ当たらない。


「いい加減当たってくれよ!」


「ソノ突キは何度モ見タ!今更掠リモッ!?グゥゥッ!」


「よし!やっと当たったね。避けれるんじゃなかったの?」


 間合いの外へ後退したはずだったコマンダーの腹部には『氷華蔦剣アイシクルヴァイン』が半ば程まで埋もれている。


「ナ、何故……?間合イノ外へ逃ゲタ筈……。」


 重い剣が刺さったままでは飛べないのか、HPが尽きかけたのか分からないけれど地面へボトリと落下するコマンダー。


一応縛り上げと。何の為にわざわざ攻撃喰らいながら遅くて当たらない攻撃を何回もしたと思ってるのさ。間合いを把握させてこの外は安全って思わせる為だよ?」


 剣は僕の体と繋がってるし、突きの時は後ろに下がって避けるみたいだったからね。腕を伸ばして突くのと同時に蔦を伸ばして無理やり間合いを広げた。

 

「植物じゃないと出来ない芸当だっただろう?それに君の《狂化》、あんな動きするようならSP消費が馬鹿にならない筈。バフも沢山かけてたし魔法だって使った……君多分もうMP切れ目前だろう?それに剣を刺されて死にかけてるときた。降参する気は無いかい?」


「無イ。部下ヲ失ッタ時点デ貴様ノ方ガ上手。私ダケノウノウト生キラレルカ!外ナラ敗北ハ死ダ。」


「……いいんだね?傷は深そうだけど、今ならまだリオのポーションとか使えば多分治せるよ?」


「何度モ言ワセルナ。弱イ者ハ強者の糧ニナル。」


「分かったよ。なら勝った者としてちゃんと君も、君の部下も食べてあげる。君の命に感謝を。《凍結の魔眼》」


 剣の中に封じた花から《凍結の魔眼》を発動する。ゆっくりとコマンダーがその身を凍らせていき、静かに息絶えた。


「終わったな。《擬態する蔦草ミミックイビー》トーリの勝利だ。」


【経験値を獲得しました。《擬態する蔦草ミミックイビー》のLvが1から9に上がりました。】

【アクティブスキル:《土魔法》のLvが1から3へ上がりました。。】

【アクティブスキル:《模倣》のLvが1から2へ上がりました。】

【アクティブスキル:《植物操作》のLvが2から3へ上がりました。】

【アクティブスキル:《縛り上げ》のLvが1から2へ上がりました。】

【アクティブスキル:《擬態》のLvが1から2へ上がりました。】


 流石格上、5匹だけで大量レベルアップだ。でもなんだろう、スキルとかレベルとかある世界でゲームっぽい!とか思ってたし、レベル上げの為にキャタピラー狩ってた時もあったけどそれとは違って……本当に僕の一部にしたんだなって気持ちがする。

 ちゃんとソルジャーとリーパーも食べないとな。

 


 〜クロウside〜


 ボロボロになったゴーレムから分離して羊の姿をとったトーリが戻ってくる。


「お疲れ様〜トーリちゃん!勝ったね!」


「うん、勝ったよ。とりあえずいい所は見せれたんじゃないかな。」


「いや凄いかっこよかったぞ!なんだあれずりぃよ!」


「戦う為に人を象るのはいいとしてもあれ燃費悪いんですよね。動かすだけでSPもMPも少しずつ削れていきます。なので本当にとっておきです。」


「これは俺も負けられない……って言うか、もう二勝したんだから勝ち越しじゃダメか?」


 それが聞こえたのか、少し遠くに居たエイティア女王がやってくる。


「却下だよクロウ殿。貴方が戦うのを一番楽しみにしていたのだから。なにせ『邪神のお気に入り』だからな。」


「でもエイティア女王。俺はリオ達と違って空中戦が少し出来るだけでそれだけだぜ?あんたらも飛べるだろ?」


「それでも他の転生者の実力を見ておきたい。クロウ殿も何かしら奥の手はあるだろう?全力で戦って欲しい。あぁそうだ、トーリ殿、見事だった。間違いなく貴女は強さを示した。今回は勝てると思ったが種族的に暑さ寒さに弱い所を突かれたな。」


「いえ、コマンダーもリーパーもソルジャーもみんな強かったです。あ、僕が崩落させちゃった地面直しますね。リーパーとソルジャーも掘り起こさないと。リオ、ポーション頂戴。」


「はいはーい。私も行くよ。」


 リオとトーリが連れ立って地面を直しに行った。


「で?エイティア女王、なんの用だ?まさか次の試合は無し……。」


 「にはならないな。なに、気軽にやってくれれば良い。何せ相手を選んでるとは言えこちらの負け越しだ。エキシビションみたいなものだよ。」


「エキシビションねぇ……でも俺は本当にあんまやれる事ないぞ?自分が飛んでて何だが、飛べる相手が一番相性悪いんだ。で、俺の相手は?」


「そうだな、最後だし豪華に行こう。最後は――私自ら相手しよう。」


 はい、クソゲー!勝てるか!

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鳥は異世界でどう生き抜く〜雛鳥からの足跡〜 遠久 彼方 @kazamidori_0

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