9.拠点、そして助言
イトナに襲われた地点からとにかく離れるように、少しでも遠くに。リオの頭蓋骨を掴みながら最低限の休憩でSPの許す限り逃げる。
「二人とも申し訳ない。俺もイトナがああなってるとは……。」
「大丈夫です。騙されたとかは思ってませんよ。なんならクロウさんも被害者じゃないですか。」
「そうそう!それに私とトーリちゃんだけじゃ逃げれませんでしたからね!今後も何かあったら頭掴んでくださいね!」
「そう言って貰えると助かる。にしても、まだ転生してから1日も経ってないのにもう2回も進化してたんだな。どんな勢いで狩ったんだか。」
「「えっ?」」
「えっ?転生したのって今日の朝だったよな?」
「僕、一週間くらいです。目が覚めたら草になってて戦おうにも動けないからクロウさん達の声が聞こえなかったら諦めて草として生きるところでしたよ?僕の魔眼じゃ倒しきれないですし。リオは?」
「私は3日かな?びっくりしたよね!血も肉も無い骨になるとは思ってなかったし。起きてからはトーリちゃんと合流してから考えようと思ってずっと探してたよ。白骨死体のふりしながらモンスターやり過ごして、ご飯は《状態異常無効》ある上に味も感じないからその辺の草むしって食べてた!」
えぇ……俺が一番遅かったのね?イトナがどのくらい前に生まれたかは知らないが、あの様子だと数日ってことは無いのだろう。そう考えると、少し悪かった気も……しないな。普通に怖いわ。
「……とりあえずこんなもんでいいか?大分離れたしこの辺で洞穴とか探すか。」
「お疲れ様です。助かりましたぁ。安全な場所なら洞穴より木の上じゃだめなんですか?」
「リオ、木の上は鳥モンスターの縄張りだからダメだ。頭蓋骨だけで全長10メートル越えの鳥とタイマン張るなら止めはしないが?巣ごとに一定範囲で縄張りがあるっぽくて、俺が生まれた巣なら安全かもしれないけどもう場所が分からない。」
「穴なら警戒する場所が入口周辺に限られるから精神的にも楽だしね、その辺で周り全部に僕の蔦を張り巡らせてもいいけど今の所キャタピラーにすら齧り切られるからなぁ。」
「拠点をトーリやリオに魔法で穴を掘ってもらう、てのも一つの案だが、そのスキルを鍛えるのには安全な拠点が必要だ、だから洞穴とかを見つけてそこから整備していくのが一番早い。最悪は木のうろでも我慢するぞ。不幸中の幸いだったがイトナのスキルを見ることが出来たからな、魔法スキルの習得方法は見当がついてる。」
それからほどなくして熊辺りのものだったのだろう古い巣穴を見つけ、有難く占領する。天井から床まで土なので崩落は怖いが、木や草の根で比較的しっかりしているし当分はまだ大丈夫だろう。トーリやリオが早く魔法スキルを覚えてくれることを祈ろう。
「ここをキャンプ地とする!周りは土だからトーリは入口付近に根を張って蔦を頼む。入口なら《光合成》も使えるだろうし。リオは奥でまずMPの限りに体の修復だ。人体って確か200本くらい骨があっただろ?頑張れ。」
「了解です。次襲われたら逃げれる保証ないですからね、気休め程度ですけど何重にも張ってきます。」
「いざ頭だけになると寂しいですね……魔眼撃つか転がることしかできません。とりあえず背骨からかなぁ。……お、見て見てクロウさん、トーリちゃん!へび〜!」
リオは脊柱から作成したようで、頭蓋骨から伸びた背骨をくねくねと動かしながら進んでいる。
「リオお前……キモイなぁ。暗がりから出てくる格好じゃねえよ。夜道で出会いたくないタイプ。」
「うん、早く亜人になろうね、リオ。僕はなんでも協力するからね。」
「シンプルな罵倒と哀れみのコメントが骨身に染みるっ!結構動いやすいんだけどなぁ。で、私思ったんですけど、人の骨を使っていれば人型じゃなくてもいけそうじゃないですか?背骨を人の3倍くらい長くして、何本も束ねて体にした蛇型とか。骨と骨は魔力で繋がってるから大丈夫だと思うんですよね。」
「やってみるのはいいが人型のボディを作ってからしてくれ。蛇型ボディとか作ったらどう考えても亜人から遠ざかるだろ。せめて人型にしっぽ生やすとか肋骨の数増やすとかにしたらどうだ?」
「……頭と腕増やしちゃダメですか?」
「リオは阿修羅か悪魔でも目指してるのかな?少なくとも頭はひとつにしようね。」
そんなリオの暴走を止めながら3日。穴の周りにはトーリの蔦製バリケードが張られ、リオの体も完成した。ちゃんと余計な部分は何も無い人型だ。本人は不服そうだが。
俺は何をしてたかって?食料調達ついでにあと一つのレベル上げと魔法スキル習得の為の下準備だな。イトナのスキルを全部とは言えずとも見えたから並びから多少は推測できるし。俺が睨んでるのは《魔力操作》だな。
魔眼を使用する時の体から抜ける力を思い出して、自分の内側に意識を向けると確かにある。なんと例えたらいいんだろう、アメーバ?形を変えながら自分の中でふわふわと浮いている感じ。
リオもトーリも合間に試してもらったら魔力を感じる事はできたが、簡単に動かすことは出来なかった。
なので色々終わった今日から、修行フェイズという訳だな。
「早速やっていくか。俺は3日間動かすことに集中できたからな、Lv1だけど《魔力操作》を獲得した。」
「はい質問です!操作も何も、動くようにお願いしてもうんともすんとも言わずにうにょうにょしてるだけなんですが!」
「僕も同じ。両サイドから引っ張ったりするように念じてみても何にもならない。これほんとに動くのかな?」
「俺も最初そうやって動かそうとしたがダメだった。考え方はそうだなぁ、俺達って元人間だろ?それで、転生させられて鳥や骨、花になった。でも転生してから体を動かすのに困ったことあったか?まるで元から自分の体だったように動かせたはずだ。スキルのアシストもあったが俺はすぐに空を飛べたぞ。」
「そうですねぇ、そう言われると確かに。私なんて体バラバラにしてくっつけられますし、この間みたいに背骨蛇になっても普通に動けました。トーリちゃんだってスキルのアシストがあるとは言え蔦や花を自在に操作してますもんね。」
「それと同じだよ。転生して鳥や骨になったなら別にアメーバにだってなっても不思議じゃない。自分の体にわざわざお願いしたり念じて動かさないだろ?外的要因でアメーバを動かそうとするんじゃなくて、自分の中のアメーバも自分の体だと考える。そしてそのアメーバの体を使って体操する感じ……かな?感覚的なものだから参考になるか分からんが、スキルのアシストがあればもっと楽になると思うから頑張ってくれ。」
「なるほどーって思ったけど中々に難儀しますね。僕は基本球根の中に魔力の塊があるって感覚だからそこから動かすのが難しい。」
「自分の体の中にもうひとつ自分の体?私体の中身スッカスカなのに意識を向けると確かになんかそこにある感覚だから気持ち悪いぃ!」
「ははは、頑張れ頑張れ。拠点の整備には君等の力が必要なんだからな!ほんと頼んだぞ!俺は一足先に《影魔法》の練習をさせてもらう。」
魔力の扱いに四苦八苦しているリオとトーリを横目に、魔法の練習に入る。と言っても、日向に出て自分の影に魔力を流しうにょうにょ動かすだけだ。大きくしたり、狼や兎、人型にしてみたり……影絵の練習みたいなものかな。自分の影の面積以上には小さくできない。
第一、《影魔法》の説明が大雑把すぎる。自分と他人の影を操る魔法ってだけだもんな。影で相手に攻撃……?むーん。影ってどう頑張っても二次元だもんなぁ。
よく、前世で読んでた小説や漫画だと影に潜って影から影へ移動したり、影を実体化させたり影で相手を拘束したりなんかがあったが……
「うがーっ!難しい!これじゃ《影魔法》じゃなくて《影絵魔法》なんだよな!何の役にも立たねえよ!何だ?何が足りない?」
【邪神ちゃんプレゼンツ!邪神ちゃんの邪神ちゃんによる神託の時間だよ!何が足りないって、そりゃあイメージだろうね!エリュシオンにも勿論物理法則はあるけれども、そこはほら、魔法だよ?普通こうなるはずがない、って常識に囚われちゃダメさ!魔力を使って通常ではありえない物事を引き起こすのが魔法だもの。】
いつもの板が現れ、文字が表示され、頭の中に邪神の声が響く。
「イメージねぇ……。てか、今まで邪神ちゃんチュートリアルは事前設定したみたいに決まった事しか表示されなかったよな?どんな風の吹き回しだ?」
【たまたまだよ、たまたま。少し前に面白い事になってる君を見つけたからね、目を付けてたんだ!他の皆は早々にリタイアしてたり、安全な所で縮こまってたりしてるからさぁー。面白そうなのは君のいるそこ、【アレイオス大樹海】の面々くらいだね。
なーにが甘露だ、あの傘に張り付いた目玉から涙流すのか……。
【で、楽しませてくれた君にすこーしだけサービスって訳。僕、最初に教えたよね?「全ての物事には必ず意味がある」って。魔眼だって既に使っているだろう?使う際にどの程度の範囲で、どの程度の威力で、って想像しているだろう?想像、つまりイメージだって立派な
「想像も物事って割とこじつけな気がするんだが。思考盗聴でもしてんのか?てかまた言うだけ言ってどっか行きやがった!でもありがとうな!助かるわ!」
まだ色々と聞きたいことはあったけどな。魔眼のLvを上げるには本当に転生者の一部を取り込むしかないのか、とか。
だがそれでも今のやり取りでの収穫は大きい。
ここ、【アレイオス大樹海】って言うのか。大樹海……かぁ。まぁイトナから逃げる時いくら飛んでも森の終わりが見えなかったからな、木が多すぎて常に薄暗いし。
とにかくアドバイスをくれた事には変わりない。
よっしゃ《影魔法》、完全完璧パーフェクトに習得してやるよ!
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