6.捜索、そして合体
俺は空から、リオは地上から探す。
「黒谷さーん、芦屋くーん、いたら返事してくれー!」
「そうですよー!大人しく出てきた方が身のためですよー!」
「その声掛けだと俺ら悪役だよね!?確かに身の安全のためには出てきて欲しいけども!」
あれから体感で2時間くらい。未だに黒谷さんも芦屋君も見つけられていない。
尚、その間に既に俺は4回、リオは1回襲われ、魔眼を撃って牽制、逃走している。
色々試してみた結果魔眼の範囲は最小で直径10センチ、最大は今の所直径3メートル程だが、広くするとMPの消費が馬鹿にならない。直径1メートルと直径3メートルだと9倍も面積違うもんな。同じ重力をかけようとするとMP消費も9倍とまではいかないがゴリゴリ減る。
「何か探知系のスキルが欲しかったですよねぇー。」
「そうなんだよなぁ。植物ばっかりで視界悪いし、何より接敵を減らしたい。襲われる頻度高くないか?」
「それはほら、クロウさん美味しいから……。」
「食べられるならせめて生じゃなくて料理して欲しいかな?踊り食い、丸呑み、噛みちぎりとか嫌だぞ俺。」
「その時は私の《灼熱の魔眼》にお任せ下さい!じっくりこんがりやっちゃいます!味わかんないけど。あ、羽は貰っちゃいますね。」
「めちゃめちゃ俺の事狙ってるじゃん。頭のてっぺんからもみじまで余す所なく頂こうとしてるよね?物理型の肉食系女子とか流行らないと思うから辞めた方がいいよ?」
時々すげー怖いんですけどこの子。早く黒谷さんと芦屋くん見つからないかな。切実に。
その後、道中で見つけた小川で喉を潤して小休憩。SPが回復するまで雑談していたら、
「……れ……!たす……!」
遠くの方から響く声。
「リオ!今の聞こえたな?先行くぞ!」
「はい!行ってみましょう!後から追い付きます!」
素早さは俺の方が数値だと3倍近く高いからな。一人で空をパタパタと行った方が早い。
「おーい!どこだ!大丈夫かー!」
「来てくれた!ここです!ここ!もうMPも切れてて打つ手がないんです!助けて!」
そこには、キャタピラーを蔦で拘束している草……花がいた。5枚の大きな黄色の花びらにぽつぽつと蘇芳色の斑点が浮かんでいる。どこで喋ってんだ?キャタピラーはぐねぐねとのたうちながら、自分を縛る蔦をブチブチと噛みちぎって、そのままむしゃむしゃと食べ始める。お前雑食だったんか!
「とりあえず《重力の魔眼》と。これで大丈夫だ。あとは仲間に焼いてもらうよ。」
「ギチチッ!ギィッ!」
ははは馬鹿め!体全体にかけなくてもちょっと強めに上半身を範囲指定すれば糸も吐けなくなって動けなくなるのは分かってるんだよ!MPは節約しなきゃな!
「ふぅ、助かったぁ!ありがとうございます。魔眼を使うMPが無くなっちゃって、蔦で拘束したのはいいけどSP削られるし蔦は出したそばから食べられるしで、ここで終わりかと思いました。」
「あぁ、気にしないでくれ。人探しの途中でふらふらしてただけだから。そろそろリオも来るかな?」
「え?リオ……?」
「俺の仲間だよ。人探しの間行動を共にしてる。」
丁度、近くの藪からリオが出てくる。
「クロウさん、早いですよー。見失ってちょっと迷いかけました。」
「丁度よかった。リオ、そこのキャタピラー焼いて食おうぜ。経験値になるし、探し回ってお腹空いてきただろう。」
「はいはーい!やっと私もレベルアップですね!捜索優先で戦闘は逃げてましたからねぇ。ここから私の快進撃が始まっちゃいますよー!それでは早速、《灼熱の魔眼》。」
「ギチギチ!ギシャァァァァァ!!!!!」
「ちょ!ちょっとストップ!待って!今リオって言いましたか?てか、え?骸骨!?生きてるの?」
骸骨が出てきて混乱する花。ビビるよな。分かる分かる。でもリオの名前に反応したって事はもしかして……?
「仲間を呼ばれる前に仕留めちゃうのでちょっと待っててくださいねー。生きている、という基準をどこに定めるかですが、勿論生きてますよー。心臓は無いですけどね!HPはありますから!」
キャタピラーから目を離さずにそう答えるリオ。さすが《火属性脆弱》持ち。《灼熱の魔眼》でHPがゴリゴリと削れていく。俺の貧弱攻撃力とは文字通り火力が違うね。羨ましい。
【経験値を獲得しました。《ベビーバード》のLvが3から4に上がりました。】
「やった!レベルアップです!あれ?1だけだ。クロウさんって最初キャタピラー1匹で2つレベル上がってませんでした?3人いたから経験値量減ったのかな?」
「俺も上がったな。あとひとつでレベル上限だ。」
「やった!僕も上がった!て違う!リオ!君、
やはり芦屋君だったか。見つかって何よりだ。あとは黒谷さんを見つけるだけだからな。だが花か。うーむ。
「え?桃李君?……本当に?声違うんですけど。桃李君ってもっと声低かったですよ。あなたみたいな女性の声じゃないです。」
「知らないよ!目が覚めたら花になってて、声もこうなってたんだよ!疑うなら、あの日一日の行動を時系列順に言ってくから!いいかい――」
そう言って朝から電車で事故に遭うまでの行動を言っていく桃李(暫定)君。
「むむ、確かに合ってます。本当に桃李君みたいです。いえ、女の子みたいなので桃李ちゃんですね。ちっちゃくなりましたね!ふふん!私が一番大きいです!」
「やかましいわ!いくら大きくたって君、骨じゃんか。どうすんだよ!亜人になれるの?」
ダンシングフラワーのようにくねくねと動きながら怒る桃李(確定)君。
まぁ確かに、大きさだけで言えば桃李君は25センチ程度、俺の半分程度しかないもんな。その俺もリオにはトリプルスコアくらい突き放されてるが。
「まぁまぁ、とりあえず見つかったのだから一安心だ、あのキャタピラーを食べながら話をしよう。俺は腹が減ったよ。」
こんがり焼けたキャタピラーは美味しいんだぞ!割と苦いけどな!
「クロウさんでしたよね、改めて、芦屋桃李です。トーリって呼んでください。助けて頂きありがとうございました。あのままだったらキャタピラーの餌でしたよ!いやー、怖かった。」
「さっきも言ったが気にするな。俺も食われかけたし、それに元々俺達は君を探していたからな。助けられたし見つけられた。一石二鳥だ。」
「沢山探したんだよトーリちゃん!どうして!返事!しなかったの!」
「痛い痛い痛いつつくな!あとちゃん呼びするな!返事はしてたよ、してたけど僕ここから動けないから、下手に返事するとキャタピラーが寄ってきて……。魔眼を使えば追い払えたけどMPが切れて食べられかけてた。」
「トーリちゃんはどんな魔眼を貰ったの?」
「それは俺も気になるな。こちらもステータスを見せるから、トーリも見せてくれないか?」
「僕が貰ったのは《凍結の魔眼》でした。ほら、リオ喰らえ。」
いきなり《凍結の魔眼》を発動するトーリ。花の中央に人の目玉に酷似したものがぎょろりと現れ、青白く光る。
キッッッモ!!魔眼無くてもそのビジュアルだけで逃げたくなるぞ!鮮やかな花弁と相まって中々にSAN値が減りそうな見た目をしている。
「えっ?……ひっ!見てくださいクロウさん私の体が!麗しきボディが!凍っちゃいましたよ!……ちょっとちょっとトーリちゃん、凍らせるならこっちの大腿骨に硬い氷の塊作れないかな?」
ただでは転ばないリオ。骨なのに一番タフだよな君。しれっと鈍器パワーアップさせようとしてるし。あと君、《打撃脆弱》持ちなのに鈍器使用して大丈夫か?その骨で殴りかかったらポッキリいかない?自分の体から離れて素材になるとその特性消えるの?
「これでちょっと凍らせてやると慌てて逃げていくんですよキャタピラー。」
「なるほど。他にはどんなスキルが?《ステータス閲覧》。」
―――――――――――――――――――――――――――
名称:トーリ
種族:
Lv:2/5
HP:10/10
MP:2/14
SP:5/15
攻撃力:4
防御力:5
魔法力:8
抵抗力:7
素早さ:0
ランク:G
パッシブスキル
《光合成Lv1》《言語理解Lv―》《火属性脆弱Lv10》
アクティブスキル
《土魔法Lv0》《凍結の魔眼Lv1》《ステータス閲覧Lv1》
《模倣Lv1》《植物操作Lv1》《縛り上げLv1》
称号スキル
《邪神の子Lv―》《転生者Lv―》《――――》
――――――――――――――――――――――――――
【《
【魔力を含んだ雑草の一種。種だけでなく球根でも際限なく増えるため、駆除の際焼き払うだけでは不十分。】
【種や球根には魔力や栄養が溜まっているため錬金、生薬に使われることが多い。】
種族は
【パッシブスキル:《光合成》日の光を浴びている間、HP、MP、SPの回復速度が上がる。】
【アクティブスキル:《土魔法》大地に干渉し、望んだ現象を引き起こす。敵から身を守るのに長けた魔法。】
【アクティブスキル:《凍結の魔眼》視界内の指定した範囲の熱を奪う魔眼。範囲、奪う熱量によって消費するNPが変わる。】
【アクティブスキル:《縛り上げ》糸等で相手を拘束し、行動を阻害する。】
「トーリちゃん雑草じゃん!素早さ0ってなんか可哀想ですね、同情します。」
「すぐ進化して植物人間にでもなってやる……!足も欲しいし腹が減るから味しないのに食べなくちゃいけないのやだ!ちゃんと自分の口で食べたい!」
「トーリ、口ないもんな。」
そう、トーリは植物であるが故にそもそも口がない。なので彼は大きなウツボカズラのような植物と蔦を《模倣》で再現し、《植物操作》を使い蔦でキャタピラーを掴みウツボカズラに放り込んで溶かして食事をしていた。
「食事をする度にMP使うの嫌ですよ、僕。あーあ、《模倣》で植物以外も再現出来たら良かったのに。」
「手が沢山あるのいいじゃんトーリちゃん!作業が同時並行で沢山できるよやったね!」
「何がやったね!だよ。脳みそは一個しかないから5本超えると自由に動かすの格段に難しくなってくるんだぞ。」
「え、トーリちゃん脳みそあるの?植物なのに?私は骸骨だから無いよ!」
「ものの例えだよ馬鹿!
食事を終え、さぁ次は黒谷さんの番だ、と捜索を再開しようと考える。が、問題はトーリの移動方法だ。
「なぁ、トーリ。君をどうやって移動しようか?」
「それなら簡単ですよクロウさん!掘り起こしちゃいましょう!」
言うが早いか、骨を使ってトーリの周りの土を掘り始めるリオ。
「ちょっとリオもっと丁寧に掘って!怖い怖い怖いってほら!今根がブチって言ったよ!ブチって!」
「まーまートーリちゃん、私にまかせてよ。ほら抜けた。」
掘り起こしたトーリを振って軽く土を落とし、検分するリオ。もっと優しくしてあげて。
「これは……説明にあった通り球根ですね。らっきょうとかに近いかもしれません。ここに魔力と栄養が……。」
「クロウさん助けて!キャタピラーよりこいつの方が怖い!
」
「リオ落ち着け!ほら、羽あげるから羽!」
「冗談ですよ、球根が本体なのでこれは貰えません。でもこうやって私が持ち歩くくらいしか方法なくないですか?」
「そう……だよなぁ。俺が掴んで飛んでもいいけどよく襲われるし。」
「襲われるのも嫌だけど掴まれて収穫物みたいに持ち運ばれるのも嫌ですよ僕。弱点むき出しだし。……リオ、ちょっと肋骨の中借りていい?」
「やだトーリちゃん何する気ですか!いくらトーリちゃんと言えど乙女の体内を!」
「何が乙女の体内だ中身ないだろ。悪いようにはしないから動かないでよ?……これでよし。」
トーリはリオの肋骨の中で蔦を伸ばし絡め、本体である球根を包み込んだのちに心臓部に固定し、更に伸ばした蔦でリオの肋骨を覆った。最後に背中や胸にトーリの黄色い花がぽつぽつと咲き、完成したらしい。
「おおー凄い!トーリちゃんトーリちゃん、もっと伸ばして編んで服みたいにできない?骸骨でもさすがに裸は恥ずかしかったんだよね。」
「今は無理だよMPが足りない。それに4本じゃ大変だし何より僕は編み物ができないからね。」
「そっか残念……そのうちまた頼むね。植物のドレス、おしゃれでいいよね!森だと迷彩になるし!」
「前後の花で視界は確保してるし少しは胴体へのダメージをこの蔦が肩代わりしてくれると思うよ。心臓部は僕の本体あるから守って欲しいけどね。」
「私、頭蓋骨が弱点だし体の骨はMPがあればいくらでも作れるから、最悪クロウさんに頭掴んで逃げてもらえばいいんだよね。」
「絶対に体捨てて逃げるなよ?いいか?絶対だからな!僕自分じゃ動けないんだから!」
こうして、無事に(?)トーリの移動手段を確保した俺達は再度黒谷さんの捜索に乗り出した。
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