真実は
地元の村外れに、あべこべ地蔵と呼ばれる地蔵があった。
幼少期、
「悪い事をしたり、罰当たりな事をするとあべこべになってしまうからね」
と教えられて育ったが、当時でもいまいち恐怖心が沸かなかった。文言が抽象的過ぎて、どうなるのか想像しにくかったからだ。
昨年、村で10年ぶりに同窓会が行われた。
現在は東京で物語の制作に関わる仕事に就いている私は、酔っ払った勢いで、
「しつけのための怪談なら、もっと具体的に怖く作れよ!」
と、あべこべ地蔵を蹴飛ばした。
周囲には笑っている者もいれば、謝罪した方がいいと本気で私を心配する者もいたが、翌日の仕事が早かったのでどちらも無視して帰路につく。
歩いて帰宅している最中、3度車に轢かれかけた。
3度目に私を轢きかけたドライバーの、
「馬鹿野郎! 赤だぞ!」
という言葉を聞き、大量の冷や汗が頬を伝う。
いや、違うんだ。
物理的な恐怖からでもなければ、何度も車に轢かれかけることが祟りだと思ったわけでもない。
そう、違うんだ。
私はどうして赤信号を渡っていただけなのに轢かれかけ、怒号を飛ばされたのだ?
あまりの恐怖にたじろぎ、誰かに連絡をとろうと左ポケットのスマホに手をかける。
「ひっ!」
……なぜ、左?
私は右利きだし、スマホは毎回確実に右ポケットのはずだ。
赤信号は渡れで、青信号は止まれだろう?
心音を確認しようと右胸に手をあてるが、鼓動は手に伝わらない。
その間に後ろから接近した車が、左車線を通り抜ける。
――だめだ、分からない。
おかしくなったのは自分の方か、世界の方か?
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