天の声シリーズ

TK

寝倉君 僕ってかなりの人見知りなので

私は天の声!趣味は人間観察。

今日観察するこの男は、ピッカピカの新社会人1年生!

今日は、入社日初日みたいやな。

懲役40年のお勤め、頑張りや!


「彼は中野上大学から来た寝倉君です!あの大学を出ているなんてすごいよなぁ。みんな、彼にいろいろと教えてやってくれ。じゃあ、自己紹介をしてもらえるかな?」


「はい。根倉です。よろしくお願いします。

中野上大学出身と紹介されましたけど、まあそんなに凄くないですよ。上には上がいますからね。

それに、受かった時の点数もかなりギリギリでした。そこまで頭が良い人間ではないと思います。

あと、僕ってかなりの人見知りなので、ご迷惑をおかけすると思います。昔から友人も少なくて・・・。

よろしくお願いします」


「・・・」


うーん、これはダルいわ。

たしかに中野上大学ってトップオブザカレッジじゃないけどさぁ、別に卑下するような大学でもないやろ。

せっかく褒めてくれているんやから、素直に喜んでおけばいいんよ。

点数がギリギリだったとか、そんな情報誰も興味無いわ。

あと、人見知りっていうネガティブなパーソナリティの紹介はいらんねん。

お前が人間関係を構築するのが下手そうなことくらい、見りゃなんとなくわかるって。

周りの人はそれをわかった上で接しようと思ってんのに、ハッキリと人見知りって言われるとなんか気まずいわ。

自己紹介の場なんやから、何でもいいからポジティブな話をせんかい。

どんなにつまらん話でもな、内容がポジティブなら愛想笑いできるねん。

きっとこの男は、自分への期待感を下げることが癖になってるんやろうなぁ。

最初から自分を下げておけば、後で過度にガッカリされることもないからな。

これが彼なりの保身術なんやろうけど、新入社員としては可愛げがなくて嫌やねぇ・・・。


***


「このあと13時にお客様が来るから、それまでに資料の作成お願いね」


「はい。わかってます。今日の朝礼で言ってましたからね」


「・・・うん。よろしく頼むよ」


「わかってます」ってなんやねん。そこは「わかりました」とか「了解です」でええねん。上司もな、別にお前が朝礼で言ったことを忘れると思ってないわ。

ただ、もし忘れてたらヤバいから、一応確認のために一言声かけただけやん。

吹けば飛ぶような小さなプライドを守るために、「言われなくてもわかってますよ感」を出しやがってコイツは。

自己紹介の場では自分を卑下してたくせに、軽く確認されることすら我慢できないんかい。

それにな、「今日の朝礼で言ってましたからね」は結構ウザいで。

「あなた、自分の発言忘れてますよ」みたいな雰囲気出すなや。

でも、直接バカにされてるわけでもないから、指摘しにくいねんそれ。

だからな、こういうことあっても上司は何も言えんわけや。

ったく、ほんま接しにくいでお前は・・・。


***


「・・・あの、お忙しいところすいません」


「ん?どうした寝倉君」


「資料ってどこのファイルに保存しておけばいいんでしたっけ?」


「あっ、それはね、ここのファイルに保存しておけばOKだよ」


「うん。そうでしたよね。では、そこに保存しておきます」


「・・・うん。よろしく頼むよ」


だ・か・ら、「最初からわかってました感」を出すのやめんかい!

っていうか、もうそのスタンスは通用せんぞ?完全にお前から質問してるんやから。

素直に忘れたことを侘びて、教えてもらったことに感謝せんかい。

いやまあ、別に大したミスをしたわけでもないし、物凄い恩義を受けたわけでもないのはわかるで?

だから、「すいません」「ありがとうございました」の二言をサラッと言うだけでええんよ。

上司からしても、この程度のことで大袈裟な言動取られても困るしな。

ただなあ「そうでしたよね」で終わるのはないわ。

ストレートに言うと、めっちゃキショいわその保身術。

ちょっとでも自分の立場が脅かされそうな展開になると、すぐその展開を潰そうとするやん自分。

みんなも同じような瞬間を経験するけどな、いちいちその保身術使わんねん。

なんでかって言うと、カッコ悪いからや。

おちょこサイズの小さな器しか持っていないことを自ら曝け出すのって、めちゃくちゃダサいやん?だからみんなやらんねん。

寝倉君、その保身術マジでキショいからやめよな?


***


「・・・あの、お忙しいところすいません」


「ん?どうした寝倉君」


おっ?またわからないことが出てきたんかな?次はどんな展開になるのか心配やわ・・・


「これ、京都旅行のお土産です!いつもお世話になっておりますので、その御礼にと思って買ってきました。あっ、でも、お口に合わなかったらすいません・・・」


「・・・そうか!ありがとう!頂くよ」


なんや、自分、可愛いところあるやん。

ただ、お世話になってるって思ってるんならな、それは日々小出しに表現せんかい。

人はな、一度に大きな施しを受けるよりも、日々の小さな気遣いに信頼を寄せるもんや。

あとな、「お口に合わなかったらすいません」はいらんで。

京都土産なんて大抵美味いわ。自信を持って出せばええねん。

まあなんやかんや言うたけど、コイツは大丈夫そうやな。人として大事なもんは失ってないみたいや。

根倉君、頑張りや!


ほな、またな。


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天の声シリーズ TK @tk20220924

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