聖騎士と黒のアリス
錦木
第1話
曇り空が続く、冬も近くのある日。
「今回も惨敗だー!」
私は叫んでいた。
なにかというと期末テストの結果。
「まあまあ
「そうだよ。むしろうらやましー」
友だちに交互にそう言ってもらうが、私の心は晴れない。
「またしても学年三位……」
ガクリと机に倒れふす。
「それにしてもすごいよね
「うんまた学年一位だって。まさに天才様」
「それに顔もいいときたもんだ。天は二物を与えずっていうけどありゃうそだね」
おのれ高遠或。
「次は絶対負けないんだから。覚えていろ」
「まさに敗者のセリフだね」
るさい。
私は肩を落として帰り道を歩いていた。
するとドン、と背中をどつかれ危うく顔から転びそうになった。
「よお、
「みなまで言わせるな……」
私は背後の面白がるような声に怒りの返事を返す。
「というか体格差考えてくれる?転びそうになったでしょ」
「いやーすまんすまん」
まだ中学生なくせしておっさんのようなガハハという笑い声をあげているこいつは
まあ、いわゆる幼馴染というやつである。
もともとでかかったがまた成長して。
クマみたいである。かわいくないほうの。
「おい今俺の顔見つめながらなんか失礼なこと考えなかったか?」
「いえ、別に」
私はすまして顔を背ける。
「中間と変わりなし。よくもわるくも」
「あーまた高遠が一位だって聞いたな」
振り向いた私の顔に勇悟は少しのけぞる。
「なに?俺なんか言った?」
「べ・つ・に!」
言っただろ今。
自分の言動には責任を持て。
「お、噂をすれば」
かろうじて視界に入るくらいの前にあまりにも人目につく存在がいた。
さらさらの黒髪、切長の目、顔は少し幼い感じもするが表情はやけに大人びている。
高遠或その人の姿があった。
こちらをチラリと見たような気がしたが興味がないふうにスタスタと歩いて行った。
「むかつくやつ……」
「おーい御堂。どす黒いオーラが漂っているぞ」
私はしかめっ面のまま歩き出す。
本当気にいらない。
吐く息が白い。
風が冷えてきた。
冬のにおいも曇り空もいけすかないあいつも。
よくわからないことで腹を立てることも。
大嫌いだ。
家に帰って自分の部屋に行くとベッドに突っ伏した。
「あー本当なんなんだろ」
決定的ななにかがあったわけではない。
それでも私は高遠或が嫌いだ。
成績で負けているから?
絵に描いたようなイケメンだから?
ひがんでいる、とはまた違う。
いうならば生理的に無理。
別に男子全般が嫌いというわけじゃないんだけど、あの男はなんか受けつけない。
やけにうさんくさいというわけか。
つくりものめいているというわけか。
「……よくわからないな」
寝転がって天井を眺める。
そのとき、なにか違和感がした。
外がやけに明るい。
もう日が落ちたというのに。
「……なんなの?」
起き上がって窓際を見ると蔵が光っている。
私は首を傾げた。
由緒正しいお家柄、というわけでもないけど私の家には大きめの蔵がある。
なんでも何代か前のご先祖さまに収集癖があり、いろいろなものが入っているので立ち入り禁止とおじいちゃんには言われていたけど。
私は靴を履いてそろそろと玄関から蔵に向かった。
扉に手をかけるとあっさり開いた。
開いている?
「もー、だれか鍵閉め忘れたのかな……」
中に入ってみることにした。
なにが光っているのか確かめなければ。
なにか燃えてるとかじゃないよね。
ソロソロと中に入っていく。
煙とか焦げたにおいはしない。
大丈夫そう。
壁の棚のなにかが光っているようだ。
「なに……ってえ?!」
私はひとりごとなのに我ながら大きな声で驚いてしまった。
金の杯が光っている。
カップというのは運動会で優勝したときなどにもらうあれだ。
実際抱えるほどの大きさをしている。
「なにこれ初めて見たんだけど……。光る機能ついてるとかじゃないよね?なんで光ってるの?」
そっとカップに触れてみる。
なんだか、ほのかにあたたかい気がした。
棚から下ろして抱えてみる。
すると、突然変な感覚に襲われた。
世界がぐにゃりと歪んで。
飴のように溶けていくような。
あれ、私倒れる?
身体から力が抜けて。
視界が暗転した。
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