第20話 僕と三重咲姉妹との関係は安っぽいキーチェーンで繫がってるのかな

「どうしてアタシたちが真っ昼間からこんな場所で人捜しをしないといけないわけ!」


「しかも名前も知らない赤の他人の捜索なんて!」


 照りつける厳しい日射し、近所の人気のない公園にて、白いTシャツに青いデニムのロングスカートという王道なコーデの美冬みふゆが、野球帽を深く被り、苛立ちを口にする言い分も納得できる。

 迷子のペットを捜すのとは訳が違うのだ。


 大昔に禁断の果実をかじり、知性を持った哺乳類だったが、その他人同士は果実のきっかけがなかったら、接点すらも生まれなかっただろう。


 人間とは臆病な生き物ゆえに、仲間と力を合わせ、この地球上で絶滅せず、これまで子孫を絶やさずに生き抜いてきたんだ。

 赤いラベルのきつねんうどんでも、赤の他人が相手でも協力してくれる美冬には感謝しかない。


「シキノンは己自身の妄想と戦ってるんだね」

「知らなかった。お兄ちゃんがそんなに心が病んでたなんて……うるうる」


 紺のジャージ姿の夏希なつきが分かったような口振りで宙に向かって残像を残した回し蹴りをすると、ピンクのガーリーなストライブシャツを羽織った春子はるこことハルが涙目で夏希の攻撃を、水玉模様のフレアスカートをひねって素早くかわす。

 おい、ヲタクゲーマーなのに運動神経も桁外れかよ!?


 それとこんな暑い季節に激しい運動は控えて。

 みんなには謝礼として飲み物は渡してるけど、熱中症になったら、それこそ大変だよ。


「あのさあ、本当に知らないんだね。賢司けんじのこと」

「だからさっきから何なの。いつも以上にキモいんだけど……」


 美冬がペットボトルの麦茶を口にし、背丈まで伸びた草原を手ではらいながら、賢司という聞き慣れない名前に戸惑いを感じている。


 というか公園の敷地からちょっと外れたら草が生え放題だし、みんなが遊ぶ公園のわりには管理体制が行き届いてないよね。

 ベンチも塗料が剥げて錆びついてるし、手元の腕時計と照らし合わせると、時計台の針は少し遅れてるし……まあ、田舎の公園だからしょうがないかな。


「ならさ、シキノンの頭に空手チョップを当てたらどうかな。正気に戻るかもよ?」

「じゃあ、夏希。さっさと志貴野しきのくんを元に戻して」 

「あいよー!!」


 黒いキャミソールに灰色のストライブシャツを重ね、ジーパンを履いた秋星あきほの言葉に、スイッチがオンになった夏希が両目を閉じて大きく息を吐く。


 ストローで炭酸水を吸って、大きく息を吸った分、吐いて吐いて吐いて。 

 中身はジュース設定なんだけど、どこの酔っぱらい気分な娘だよ。


「では、空手チョップ一本入りまーす」

「あのさあ、トマトケチャップの注文じゃないんだから」


 無茶ぶりの注文をするお客さんも時によっては、入店禁止の言葉のタグを貼りたくなるよね。


「ケチャップに含まれているデコピンはお肌の新陳代謝を高める効果があり……」

「デコピンで活性化出来たら苦労しないよ」


 そもそもデコピンは額にダメージをあたえるもので、誰でもお手軽に出来る技なんだ。

 その扱いやすさを武器に戦場で繰り出してるとキリがない。


「じゃあ、被験体シキノンよ。前に」

「何で僕が犠牲なんだよ」

「戦いに犠牲はつきものだよ」

「あー、誰かこの子の暴走を止めてよ!!」


 今度は夏希が自我を止めれなくなったね。 

 夏希を乗せた暴走機関車は、ブレーキもせずに勢いを増すばかり。


「何叫んでのよキモオタ。おかしいのはアンタでしょ。人捜しで公園に赴いて家出少年を捜すような企画を立てて」

「だから賢司を見つけるために」

「その相手が謎なのよ!! 大の男がこんな公園にいる方がおかしいわよ!!」

「いや、公園でナンパでもしてるかなって」

「わざわざこんな草むらに隠れて? 陰キャで内気なコミュ障であるアンタじゃないんだから」

「うぐぐ……」


 美冬の正統派な発言に言葉を詰まらす僕。

 別に変な謎かけも企画もしてないし、真実を述べてるだけ。

 そんなこと言われても、ついさっきまで、おちゃらけな彼はいたんだから。


「シキノンは未確認生物を確保しようと」

「確保って何だよ。親友に向かって」

「ハル以外にお兄ちゃんに親友がいたのも驚きだね」

「いつからハルが親友になったのさ」

「えっ、あのファミコンショップでの出会いからだよ」


 あんな頃から目をつけられていたのか。

 そんなに一途に想わなくても、他に好きな相手との出会いの方がいいような気が……。


「そんな簡単に親友になれたら自身の脳みそを疑うよ」

「ううっ、お兄ちゃん酷い。それじゃあハルがアホの子みたいじゃん」


 草むらに一人しゃがみこんで頭を抱えるハル。

 ハルも頑張って生きてるし、アホなんかじゃない。

 みんなが困ってしまうような問いかけなんだ。


「……アンタ、何、ウチの妹を泣かしてんのよ」

「誤解だし、僕の妹でもあるよね!?」


 美冬が近くにあった大岩に座り込んで、不仲説を追求する。

 せめて座るならスカートくらい手で抑えてよ。

 下着が見えそうで、まともにキミと目線が合わせられないからさ!?


「シキノン。それじゃあサクッといこうか」

「女の子を泣かせた罪は重いわよ」

「だから僕は何もしてないよ。ねえ秋星?」

「……ええ。うん、そうね」

「秋星、いくら僕に興味がなくても、塩対応すぎるでしょ!?」


 いつもとは違う秋星のそっけない態度に自尊心が揺らぐ。

 何というかあっさりし過ぎだよね。


「アンタさあ、今度は秋星狙いなわけ? 時と場合によってはここで意識を奪うわよ」

「奪うとかとんでもないよ!? 秋星も何か反論してよ!?」

「……うるさいわね」

「秋星ぉぉぉー!?」


 秋星が絞り出した声には嫌味が含まれていた。

 美冬はともかく、僕、秋星にも何か悪いことしたかな。

 あれっきり入浴中の彼女には十分に注意してるし……女の子って謎の生き物だ。


「さあ、二等辺低次元オタク。聖なる祝杯は済んだかしら?」

「これでお兄ちゃんも、心置きなく捜し物が出来ますね」


 祝杯ってそのような大層なことはしてないんだけど。

 不安要素ばかりで、心、ここに置けないんですけど!?


「いや待って。夏希の目が光って不気味なんだけど?」

「こんな時のためにハルのカラコンを付けてみた」

「YouT◯beのような下りはよしてよ……そんなことより賢司を捜してよ」


 夏希のカラコンが怪しく光り、僕の存在すらもかき消されようとする。

 目が合っただけで消滅しそうな不良な目力だよ。


「お兄ちゃん、夏希にボコられるのと、ハルにデコられるのどっちがいい? 社会への見せしめにするから」

「どっちも嫌だよ!!」


 夏希の格闘術でボロボロにされ、ハルの腕前でスマホがマニアックにリメイクされる辛い現実。

 よって肉体か、精神にダメージかの二択。


 僕と三重咲みえさき姉妹との関係は安っぽいキーチェーンで繫がってるのかな。


 考えても考えてもその先の答えが見つからなかった……。


 それよりも賢司はどこで遊び呆けているんだよ!


────────────────────


 ※第一部、『三重咲姉妹争奪編』終わりです。 

 次回から賢司にスポットを当てた第二部の始まりです。

 お楽しみに──。

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