第12話 ハルと夏希が戻ってきたのはいいけど、さっきと様子がおかしいような?
◇◆◇◆
「今日は楽しい一日だったね」
「まあね。あっという間だったよ」
もうすぐ閉園時間。
女の子とのデートも無事に終わりへと近づき、最後の記念にと観覧車に乗った。
「どうだった、人生初の女の子との遊園地デートは?」
「こんな可愛すぎる女の子と一緒だからドキドキの連続だったよ」
つい、夜景をバックにした綺麗な風景よりも君の方が綺麗だと言いたくなる衝動を抑えてしまう。
「だったら、もっとドキドキしてみる?」
「えっと、あっと……」
これが肉食系女子のアプローチなのだろうか。
相変わらず積極的な彼女に返す言葉が見つからない草食系の僕。
「うふふ。照れちゃって可愛いね」
「からかうなよな」
女の子が口元に手を寄せ、クスクスと上品に笑いかけ、隣に座る僕の手を握る。
単なる手繋ぎではなく、指と指を絡めた恋人つなぎ。
二人はこの熱い恋に夢中だった……。
「ごめんごめん。それよりもさ、次はいつ会えるの。シキちゃん」
「二週間後かな。あと、ちゃん付けはやめろって……」
「ええー、そっちの方が可愛いじゃん」
狭い室内で女の子は僕の目を見つめたまま、軽く目配せする。
ひょっとして僕を誘ってる?
そうじゃないなら、何の意図があるんだろう?
「あのさあ、可愛いと呼ばれて嬉しい男なんていないよ」
「うーん。女の子の口からの可愛いはちょっと意味が違うんだよね」
「それはどういう?」
僕は女の子の謎めいた言葉に不思議な感情を抱く。
「それくらい自分で考えてよね」
「くっ、可愛い顔して残忍だなあ」
「あのねえ、残忍とはいえ、君のためにならないんだからね!!」
二人を乗せた恋の観覧車は残忍とは真逆に、このまま時が止まるかのような甘い雰囲気がする……。
──僕らは電車で片道二時間ほどかかる場所での遠距離恋愛をしていた──。
****
「──さあさあ、今夜のお祭りは目一杯楽しみますよ」
「この日のために水着を新調して良かった」
「……とか言いながら、ハルはまたスク水なんやろ?」
「ううっ。中学生のハルにはお金がない……」
「年齢的にバイトもできんしね」
美容やファッションにお金をかけてる美冬らしい返答でもあるよ。
美冬は例え、相手が姉妹でも厳しく接するんだよね。
「じゃあさ、
「夏希お姉ちゃん……」
思いがけない夏希の優しさに心がとろけそうになるよ。
ただのなんちゃって落語家ではなく、格闘家じゃなかったんだね。
「うーん。後はどうやったらあの豚さんを綺麗に二等分できるかだよね……空手チョップでは狙いが難しいかな?」
あれ、よく噛み砕いたら、この子、言ってることが何か違うよ。
分けるってお金じゃなくて、スイカをかち割るみたく、そういう意味なの!?
「夏希、アホなことはやめなさい」
「えー、
「例え、言われたとしても!」
「ぶうー」
技の出し惜しみをしている夏希が秋星に注意され、ご機嫌斜めでプクーと膨れ面をする。
夏希に師匠がいたのも驚きだけど……。
──ところで四姉妹とも鮮やかな花の柄の浴衣が似合ってるね。
秋星の赤茶色の紅葉に、美冬の雪の花の白、夏希の青いヒマワリ、春子の真っ赤なチューリップ。
それぞれ、名前にあった浴衣を着てるのに水着って何だろう?
是非ともその場で水着姿とやらを拝みたい気分だよ。
「ふーん。何で水着なんだよ、どうせだから鼻血吹き出しながら、じっくりと堪能したいねえ?」
「お兄ちゃんのムッツリスケベさん」
「そこまでは思ってないし、言ってもない」
「いやん♪」
「だから言ってないってば」
美冬とハルが僕のひとりごとを偽装する中、僕は極めて冷やかに対処していた。
これが慣れというものかな。
「秋星お姉ちゃん、このお兄ちゃんどうやら、この祭りの趣旨がよく分かってないみたい」
「そうかあ。
何だ、このお祭りは単なる稼ぎだけじゃなく、意味があってのことなのか?
「このお祭りはね、梅雨の前に行うんだけど、水の資源に感謝するというお祭りでね」
「恵みの雨だけじゃなく、この町特産のお茶っ葉と地元の井戸水をもかけてるんだよね」
ふむ、六月にするから梅雨絡み、さらにお茶をかけたイベントというわけか。
誰が考えたか知らないけど、中々奥が深いなあ。
「夏希はコロッケにかけるのはソースかな」
「話がややこしくなるから夏希はちょっと黙ってて」
「はーい」
あの凶暴な夏希を数秒で手懐ける秋星。
姉の権力というものは恐ろしい。
「それでもって水の女神の象徴でもあるマーメイド=人魚から、水着のイメージ案が浮かんでね」
「それでね、いつの間にか浴衣の中は水着着用と言うことになったんだよ」
何だ、色っぽい水着になって泳ぐわけじゃないんだね。
まあ、お祭りだし、海開きはまだだから、海ではしゃぐわけもないから当然か。
「なっ、アタシたちがエロい水着になって泳げだと。この破廉恥オタクめがー!!」
ヤベエ、またしても心の声が漏れてしまった。
多少、美冬が捏造してるのは気になるけど。
単なる聞き間違いかな?
「ハル、お兄ちゃんになら全てを見せてもいいよ」
「うん。下手に武装してたらシキノンと決闘も出来ないし」
好戦的な三女と妄想的な四女は僕に何を求めてるのかな。
恋愛とは対象的な変質者さんかな?
「二人ともちょっと建物裏に来なさい」
「何、秋星お姉、夏希に屋台のリンゴ飴買ってくれるの?」
「違うわよ。大事な話だと言ってるでしょ」
いつものお淑やかさとはかけ離れた鋭い眼光に僕は身震いした。
風邪のひき始めとは違う武者震いという感覚かな。
****
「お、お待たせ。お兄様」
「よっ。待ちわびたか、甲羅の鳥!!」
ハルと夏希が戻ってきたのはいいけど、さっきと様子がおかしいような?
結構話し込んでたようだけど、秋星と何の会話をしてたんだろう。
あまり関わりたくないないし、変に追求まではしたくないけど……。
「何か、二人ともぎこちなくない?」
「いいえ、気のせいじゃありませんこと。おほほっ!!」
「シキノンはカレーのルーだけ仕込んでいればいいのだ!!」
やっぱりどことなく変だ。
ハルは僕を様付けだし、夏希も遠回しに何かを伝えようとしているみたい。
「ちょっと、夏希お姉ちゃんってば!!」
「何だね、シキノンなんて煮込まれるだけの具材だよ?」
「秋星お姉ちゃんの言う通りにしないと、ハルたち……」
「大丈夫。その時は夏希が真っ向から潰すから」
「……それはあんまりだよ」
夏希が片手を宙に突き出し、林檎を握りつぶすようなエアーポーズを決めた。
その行動に意味はあるのかな?
『──ピーンポーンパンポーン♪』
町内の建てつけスピーカーから流れる大きなチャイム音。
『まもなく夜八時になりますので、毎年恒例の花火大会を執り行います。参加費は無料です。奮ってご参加下さい!!』
感情のない女性のお知らせをバックにお祭りに来ていた人々の流れがガラリと変わる。
屋台メインではなく、打ち上げ花火を見たさに……。
「さあ、行こう。お兄ちゃん……じゃなくて、お兄様。花火大会が始まるから」
「シキノン、勝って兜の紐を締めよ」
「……ああ」
いつものようにお兄ちゃんと呼ばないよそよそしい態度のハルに、さっきから変なことばかり喋ってくる夏希。
僕なんか悪いことでもしたのかな。
身に覚えがないんですけどー!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます