第3章 花火大会を見ても四姉妹には飲まれるな

第11話 それでここのお店で時間を潰してたんだね

「それで意中の相手は見つかったのか?」

「何でそんな話になるのさ?」


 近所のハンバーガーショップで少し遅めの昼食にしてるけど、相席がお馴染みの賢司けんじだからか、静かに食べることもできない。

 口って消化器官のためにあるんじゃないの?


「そのために四姉妹とデートしたんだろ。俺が菓子折りを持って、必死こいて姉妹に頼んだんだぜ。それくらい察しろよ」

「そうだったんだ。道理でおかしいはずだよ」


 そうじゃなければ、僕と敵対していた美冬みふゆとデートできるはずもないし、夏希なつきに至ってはただの格闘の練習相手にされたはず。

 春子はるこは学校帰りでも楽しんでくれたし、秋星あきほは長々とした遅刻をしても待ち合わせ場所に居てくれた。


 何よりもこれで行く先々でこの賢司に出会ったのも納得がいった。

 全ては計算済みの計画で、このイケメンは危ないストーカーではなかったんだ。


志貴野しきのとデートしないと本人自らが生霊として深夜に化けて出るとまで言ったからな。そりゃ、姉妹全員腰を抜かしてビビリまくりさ」

「あのさ、僕をダシに脅迫しないでよ」


 横隣の女子高生が『あのイケメンウケるーw』と笑う中、知って知らずか賢司の瞳がメラメラと音もなく燃え始めた。


「何でだよ、その方が燃えるだろ?」

「人の恋心を燃やさないでよ」


 僕の恋は燃えるゴミなんかじゃないよ。

 例え、焼いても炭火焼きにしても、そう簡単には捨てられないものなんだ。


「おっ? ということは姉妹の中で好きな相手が見つかったか。どれどれ、パパに話してごらん」

「いつから賢司の父さんになったんだよ?」

「たった今さ。その方が打ち解けやすいだろ」


 賢司が長い髪をかきあげながら、皮肉にも僕のお父さんアピールを始めた。

 こんな軽薄な親父だったらとっくにグレてるかも。


「ただの脅迫にしか聞こえないんだけど……」

「そうか、俺にそんな気はないんだけどな」

「大アリだよ!!」


 アリの巣ゴロリな言葉を返した僕がハンバーガーを呑気に食べる彼に真相を教える。


「それよりもさ、志貴野さあ?」

「今度は何さ?」


 ともかく今の僕に言いたいことはない。

 ドリンクカップに入ってるアイスコーヒーをストローですすりながら、今度は賢司の話をじっくりと受け身の形で聞くことにした。


「お前、俺の時は沢山喋るんだな。ひょっとしてそっちの趣味か?」

「そんなわけないでしょ。ただ単に話しやすいだけだよ」


 店内に効いたエアコンの空調が僕の体を程よく冷やす。

 外からはセミの鳴き声も聞こえるし、いよいよ夏到来という感じだね。

 何か肝心なことを忘れてるような気もするけど……。


「それに僕が女性恐怖症なことは話したよね」

「はて? 白亜紀に生まれた覚えはないんだが」

「ふざけないで真面目に答えてよ!!」


 恐竜がいる時代から人類がいたら、出会って一口でガブリだよ。

 人間とは最強の霊長類のわりには脆くて弱い生き物だよね。


「それで四姉妹の特徴は掴めたのか?」

「うん。ちょっとだけならね」


 ハンバーガーを平らげた親友が別にハンバーガーを手に取る姿に呆れながら、思っていた本心を打ち明ける。


「まず長女の秋星。基本真面目で恥ずかしがり屋。たまに脳がバクる」

「ああ、いかにも長女らしいだろ」


 秋星の性格に頷いた親友が二個目のハンバーガーを瞬時に平らげる。

 女の子が好きなのもだけど、食欲も旺盛だね。

 それから早食いは体に悪いし、体内での栄養の吸収率も下がるからよく噛んで。


「続いて次女の美冬。いつも上から目線でツンツン。でも作法はわきまえてる」

「おまけに家庭的で料理も旨いからな」


 あの罵倒した冷たい目線に耐えられる男子なんてまずいないだろうね。

 でも美冬の手料理はガチのプロレベルだよね。 

 料理と化粧に関しては他の姉妹とは異様すぎる手際の良さだし。


「三女の夏希は脳筋。筋肉とたわわが無かったらただの変質者」

「はははっ、酷い言われようだな」


 巧みな格闘技を体に食らい、あまりの痛みでその場で悶絶することもしばしば。

 夏希は空間に居るだけで危険な攻撃カードだよ。

 正々堂々のカードバトルじゃなく、ルールに違反したら実際にボコられそうで怖い。


「四女の春子、ハルはヲタクだけど、一番僕に好意的で話しやすい」

「まあ、そのフレンドリーさが武器だからな」


 ハルとは初対面の時からキモからずに話に乗ってくれたんだ。

 まあ、お店で男の子のフリをして騙したことは賢司には明かさないどね。

 そういえば、この前はバイトは休みだったみたいで、不思議と店にも顔を出さなかったよね。


「ふむふむ。お前さん、きちんと姉妹のことを見てるんだな」

「シェアハウスの住人なんだから当然だよ」

「いや、ただの住人で普通そこまで解析できないって」


 それが出来る賢司の脳味噌はAIで出来ていて。

 いや、何でもかんでも創作小説でもAIで作れたら苦労しないよ。


「それで誰がお気に入りの娘なんだ?」

「お気に入りでも何でもないよ!!」

「何だよ。あれだけ気をきかせても進展なしかよ……」


 僕の尊重は無視かよのイベントに頭が痛くなってくる。


『ピロン♪』


「んっ、LI○Eか。どうした、見ないのか?」 


 どうしたもこんなLI○Eを送ってきたら、恋愛経験のない僕はヒイてしまうってば!?


「何だよ、何かやましいことでもあんのか? ちょっと拝見」

「あっ、ちょい!?」


「……ああーん? 本日の夕方、四姉妹全員と花火大会のお誘い?」


 LI○Eを読んだ賢司の動きが一瞬だけ止まる。


「でもまあ、これでこの店に待機する必要もなくなったし、一緒に花火大会ナンパ術編を学ばなくて良くなったな」


 スマホを取り上げた賢司が驚きながらも僕と顔を見合わせてニカッと無邪気に笑った。

 そうか、それでここのお店で時間を潰してたんだね。


「フフッ。俺が心配しなくてもお前さん十分モテ期じゃん」


 そのスマホを手元に返した僕らのテーブルに香水のほのかな香りがしてきた。

 この強調性の控えめな匂いはあの次女かな?


「ねえ? レディーをいつまで待たせんのよ。カスの分際で?」

「美冬、カスは言い過ぎだよ。あんな彼でも良い一面もあるんだから」


 美冬がテーブルに来るなり、毎回同様の罵声をぶつけてくる……まあ、会う度言われてるし、いい加減慣れっこだけどね。


「じゃあ、どこがいいんよ。具体的に言ってみ?」

「……えっと、ちょっと顔がカッコイイとこかな」

「それ外見だけじゃん」

「何よ。正直に答えた私が馬鹿みたいじゃない」

「こんな地味キモオタに恋する時点で大バカだっつーの」


 先ほどから秋星と美冬が僕の容姿について好き勝手言ってる。

 僕の顔面偏差値は福笑いと一緒なのかな。


「そっか、シキノンはおバカなんだね」

「ゲーマーならではの称号ですね」


 夏希と春子も加わり、変なイメージに固まる僕の人相……うむむ。

 あと夏希、シキノン言うな。


「お前らなあ、姉妹揃って本人の前で好き勝手言わないでヨーロピアン」

「……あのさ、賢司、僕の呟きを大声で言わないで」


 あとヨーロピアンとか呟いてないし。

 どこぞのヨーロッパ貴族だよ。


「何の、俺とお前の仲だろ」

「友達でも言っていいことと悪いことがあるよ!!」

「まあまあ、チーズバーガーでも食べて落ち着けよ」

「食べかけなんて入らないよ!!」


 多少キレ気味だった僕は賢司との食事を強引に終えて、四姉妹と最寄りの花火大会に行くことになった……。

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