第9話 可愛いのは認めるけど、どう考えても問題児しかいないよね?
「ふふふーん♪」
「おかしい。何もかも狂ってるよ」
白い夏物のセーラー服を着た
決して上手いとは言えないメロディーは誰もが知るアニソンだったが、僕の心はそんなに悠長じゃない。
この女の子は音程もだけど、常識も外れてどこか変だよ。
「ちょっと
「それに何も趣向を選ばなくてもこの空間が好きでいる人もいるんだし」
「まあ、それも一理あるけど……」
「どうしてお見合いデートの場所がここなんだよ?」
僕とハルは場所は町内で唯一ある店舗のゲーム販売店『アカサカファミコンショップ』に学校の帰り道がてらに寄っていた。
華も恥らわない赤毛のショートボブ、見た目美少女な中学生と夕日を背に一緒にね……だよ。
周りの野郎たちがリア充め、爆発しろとかほざいてるが、僕は自爆テロでもないし、リア充の関係でもないからね!
「えっ? お兄ちゃんも好きでしょ。沢山の女の子に囲まれて」
「だからって普通ゲームショップなんかをデート場所にするか? しかもギャルゲーコーナーに足を踏み入れて?」
隣でイケイケな美少女イラストのゲームソフトを握っていた眼鏡オタクが手を滑らせて、そのソフトを床に落とす。
ソフトが乾いた音を立てて転がる中、何で、そんなの嘘だろ……みたいな表情をして固まっていた。
そうだよね、現実の女の子に振り向いてもらえず、だったら架空の女の子から相手にでも……と求めてたのに、本物の美少女が目の前にいて、いけ好かない冴えない男を連れてギャルゲーを選んでるんだから……。
何だよ、恋人いるならこのコーナーにいなくてもいいだろうとか小声にしてるけど、別に好きでこうしてるわけじゃないんだよ。
「好きな人のことなら何でも知っておきたいんだ。それに主導権を握っていいって言い出したのはお兄ちゃんの方なんだからね」
「……はい。仰る通りです」
どうしてこんなことになったのか。
話は数時間前に戻る──。
◇◆◇◆
「はあー、何言ってるのさー!?」
「おい、そんなに叫ぶな。見事に熟したイケメンの鼓膜が割れてしまう」
「いや、熟すも鼓膜も関係ないんじゃ?」
学校の昼休み、ランチの合間に
あの陰キャが何やら騒いでるぜ、何だ、アニメかゲームのサブカル話で盛り上がってんの? とざわめき出す教室内の他のみんなみたいな。
僕は見せ物のオタクじゃないんだよ。
「志貴野が気にしなくても俺にはありなんだよ!!」
「それでどうして僕が四女の春子とお見合いデートしないといけないんだよ?」
納得がいかず、机を叩こうとして我に返る。
いけない、学校ではオタクだけど普段は真面目で通ってるキャラなんだ。
下手に腹の内を探られるわけにはいかないよね。
「うーん。お前の所の父ちゃんが色々とうるさくてさ。俺に交渉を持ちかけたのさ」
賢司がオーバーに手を振りながらも自慢げな顔で事の成り行きを話す。
その余裕はどこから来てるんだろう。
「実際に
はい、色恋の盛んなイケメンからカップル発言出ましたが、あの姉妹で選べる相手なんかいるのかな?
可愛いのは認めるけど、どう考えても問題児しかいないよね?
どうせ美少女なんて皮一枚だけの生き物なんだ。
外面が良いに越しても内面が駄目ならお互いの関係は長続きしないでしょ。
「それで証拠としてLI○Eで写真を送って来てくれとさ。通話では誤魔化されるし、仕事が忙しくて電話をする時間もないみたいだからな」
「それなら普通に僕に……」
話してくれても……と言いかけて口籠る。
僕には撮影が下手くそでも、写真や画像をいい風に加工する技術がまるでない。
そこを狙って僕をターゲットから外したのかな……。
「口下手の息子に訊いても曖昧にされるだけだろ。こういうのは第三者からの意見が大事なのさ」
「イケメンで適応力もピカイチとか。天は万物を二つもお与えになるのか……」
神という者は時に悪い運命を悪さで固めるという手腕が好きらしい。
あの宗教人もこう思いながら信者を集めたのかな。
「何、十字に胸を切ってるんだよ?」
「ギリスト教にすがりたくなるよ……」
「そうなのか? 俺には冬もまだなのにクリスマスケーキを五等分に切る練習をしてたのかと。ちょうど五人になるからさ……って俺は部外者なのか?」
そう、君は邪魔なんだ。
僕にも自由を得る権利はあるはず。
「賢司、多少おかしな思考でもイケメンなら許されると思うから……」
「……たっ、多分(小声)」
「励まされてるわりには何か煮えきれない反応だな……」
今、イケメンを前にし、僕の心境は複雑な感情が入り混じっていた。
コーヒーに入れるのはウィンナーではなく、生クリームみたいに。
****
──というわけで急に四女とのお見合いデートが始まったんだけど、その場所がゲームショップで、しかもいかがわしいコーナーを物色だなんて、僕の両親に知られたらどう思われるか分かったもんじゃない。
「ねえ、このメモリーズオンなんて面白そうだよね」
「いや、そのゲームは面白いなんてもんじゃないよ」
「えっ?」
「何せ、想いを寄せていた初恋の相手がこの世にいないからね」
「へえー、異世界転生しちゃうんだね」
誰がいつ主人公を転生させると言った?
会話が変な方向に絡んでいく。
ヲタクあるあるな会話に同じオタクとして同じく頭を悩まされる。
「まさにハンカチ無くては語れない号泣もののゲームだから、迂闊にはお勧めできないよ」
パンに挟んでる食材が卵じゃなくて、マスタードソースだったという見た目に惑わされる内容だ。
「へえー、お兄ちゃんってゲームに詳しいんだね」
「まあな。大抵のジャンルはプレイしたからね。それよりもどうせなら新作のゲームもチェックしていかない?」
「うん、いいよ。スベラトーンの新作が出たんだよね」
「おおっ、あのペンキ塗りつぶしゲームと来たか。中々の食らいつきだね。ゲーマーとして悪くない反応だよ」
そういえば今日はこの場所に賢司は現れないんだな。
まあ、ハルとはゲームを通じて仲良くなれそうだし、この方が気楽かもね。
****
「……俺ならいるけどなー!! 駆け抜けてー♪」
スマホを激しく高速タップする賢司は志貴野らに絡むことも、その情景を片手にLI○Eに画像を送ることも忘れ、話題の新作アプリ、女学園アイドルのリズムゲームに夢中だった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます