落ちこぼれ竜騎士と、はじまりの船

空色蜻蛉

01 発掘された船

 「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。

 よく通る女性の声だった。興味を覚え視線をやると、広大な格納庫の片隅で、何やら不穏なやり取りが展開されている。

 

「あと三回の間に、その竜脳ブレインを目覚めさせれば、竜船はバダインジャラン星の領主様に差し上げましょう」

「ふざけるな。それはもともと、うちの星にあったものだ」

「はい。ですから、機会を差し上げています。そもそも竜脳ブレインを起動できなければ、竜船は無用の長物。発掘した我々が責任をもって、銀河防衛竜船盟ギャラクシーフォースに届けましょう」

 

 格納庫には、黒い覆いが掛けられた巨大な物体が置いてある。その前で、バダインジャラン星の領主と、遺跡発掘者トレジャーハンターが長々と交渉している。

 領主は太った中年の男だ。彼と相対している遺跡発掘者トレジャーハンターは、機敏かつ狡猾そうな女性だった。

 

「ムーヤン! まだ強制起動ハッキングできんのか?!」

「父さん、でも初めてで……」

「言い訳はいい。お前には、最新式の高価な補助脳パソコンを買い与え、一級の教師をつけているのだぞ。できるはずだ!」


 領主は、隣の息子を叱咤している。

 無駄なことを。

 ミコトは唇をゆがめた。

 領主の息子は、成績は中ほど。ちょっとできる、くらいじゃ、いくら最新式の補助脳を付けても、竜脳ブレイン強制起動ハッキングできる訳がない。

 遺跡発掘者トレジャーハンターの女性も、分かっていて譲歩してみせているだけだろう。


「気になるか?」


 上空の桟橋から茶番を眺めていると、同僚の一人が寄ってきた。


「砂漠の片隅で、竜船が発見されたそうだぞ。普通は銀河防衛竜船盟ギャラクシーフォースに届けて謝礼をもらうもんだが、領主様が船を横取りしたいのか、遺跡発掘者トレジャーハンターを呼び止めて色々吹っ掛けてる」

「そうらしいな」

「まあ、気持ちは分からないでもない。この星は砂漠ばかりで、珍しい鉱物が出る訳でもなければ、有名人の出身地という訳でもない。自然環境開発テラフォーミングに失敗した、田舎の星ってだけだ。せめて竜船を港に飾らせてもらえれば、ちょっとは観光客が来るかもしれない」


 竜船とは、星を開拓する時に見つかる、古代文明の遺物だ。

 機械でありながら生物的なフォルム、翼を広げた竜のような姿をしているので、竜船と呼ばれる。

 竜船は、発見され次第、銀河防衛竜船盟ギャラクシーフォースに届けられる。銀河防衛竜船盟ギャラクシーフォースが竜船の整備について、技術を独占しているからだ。

 銀河防衛竜船盟ギャラクシーフォースは、眠りについている竜船を起動させ、使えるようにする。何に使うのかというと、主に宇宙にはびこる厄介な虚種アビスの掃討だ。

 虚種は、寄生獣や、植物の姿を取り、人を喰らって成長する。やがて怪物になって、星を呑み込むのだ。

 どこかで星を喰らった虚種の群れは、次なる標的を求め、宇宙を徘徊する。まるっきりB級映画の怪物そのままの虚種から、銀河を運行する船を守るのが、竜船の仕事だ。

 

「戦闘用の船を、観光目的に飾っておくのか」

 

 ミコトは呆れたが、同僚は不思議そうな顔をする。


「だって動いているところを見たことがないからなぁ。ミコト、お前は昔、バダインジャランの外にでてアカデミーに留学していたんだろ。動いているところを、見たことがあるのか?」

「……」

 

 見たことがあるどころか。

 同僚の質問に答えたくなくて、ミコトは曖昧に笑んだ。


「昔だからな。忘れちまった。そろそろ仕事に戻ろうぜ」


 今の自分は、しがない衛星港ステーションの清掃員にすぎない。

 ミコトは同僚の背を押して、通路の元来た道を戻り始めた。

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