104.最強の愛し子(絶対神SIDE)
イルが「僕」と表現するのは、過去のしがらみだ。クソッタレの元家族の影響だった。あんな場所に生まれ、死にかけるほど苦労した原因は、俺の手際の悪さだ。そう自覚するから、いつか「僕」を卒業してくれるのを待っていた。
無理に導くのは違う。イルが自分から、完全に過去を捨てる必要があった。一緒に過ごし始めて二十八年目、まだまだ先は長い。焦る気はなかったのに、イルは突然照れながら「私」と口にした。
大好きだと告げるイルは、自らを「私」と表現する。いつだって俺や配下の愛情を手探りで確認していたのに、愛されていると自信を持って笑った。
彼女を縛っていた鎖が解けていく。顕著に現れたのは、外見だった。一気に成長した体を、ひとまずシーツで包む。今朝選んだお気に入りのピンクのワンピースが、ビリッと音を立てて裂けた。泣きそうになるイルのために、力を振るう。
体に合わせて、ワンピースを変化させた。腕の中で横抱きにした彼女は、今、十歳程度か。布の隙間から覗いて、胸が少し膨らんだと喜んでいる。その感情は俺に筒抜けだからな? 恥じらってくれ。
サフィより小さいと不満そうだが、大きければいいってもんじゃない。俺は手にすっぽりが理想だ。うっかり伝わってしまったらしく、イルはにっこり笑った。
綺麗と褒める周囲の言葉に、素直に「ありがとう」とお礼を言う。イルらしい。結局、本質は変わらないのだ。外見が変わったことに戸惑ったのは、本人より周囲だった。もし違う子になってしまったら……そんな不安は一瞬で吹き飛んだ。
「メリク、降りる」
「ん? 抱っこは嫌か」
「嫌じゃない」
でも降りる。なぜか譲らないイルに苦笑いして、そっと下ろした。靴も大きくしたので、痛くはなさそうだ。転ばぬよう底の平らな靴を履いたイルは、俺の腕に掴まった。向かい合って立ち、頭の上に手を置く。
何をしているのかと思えば、身長差が気になるらしい。自分の方が高くなったかも? そんな心が聞こえて、微笑ましさに神々が頬を緩めた。誕生日が契機なのではなく、イルの心の変化が体に作用した。
「大きくなった?」
「このくらいだな」
胸の下を手で示すと、不満そうだ。もっと身長が高いと思ったのか。笑うと拗ねてしまいそうなので、表情を引き締める。
「一気に大きくなると、バランスが崩れて大変だ。少しずつ成長すればいい。ゆっくりでいいぞ」
何歳になっても抱っこするが、今の大きさだってイルには大きな変化だ。歩く歩幅も違えば、手が届く範囲も変わった。ケガをしないよう、注意してやらないと。
「大きいとケガしちゃうの?」
「気をつければ大丈夫だ。ほら、腕を絡めて歩いてごらん」
今度は笑顔を向ける。安心する姿は、幼子だった頃と何も変わらない。可愛いに綺麗も加わって最強だった。すべての神々はイルに勝てない。そう考えると、愛し子ながら神々の頂点に立つ存在かもしれないな。
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