41.明日のためにお庭のお花を覚えた

 同じくらいの大きさに千切った葉っぱと赤い実、それから黄色の実も並べた。どきどきしながら運んだお皿を見つめる。


「あーん、してくれ」


 メリクが口を開けるから、僕は指先で摘まんだ赤い実を入れた。ちゃんと手は洗ったし、赤い実も洗ったから平気だよね。つるんと口に入れた実を噛んで、メリクが笑った。


「うん、美味しい。イルが食べさせてくれたから、余計に美味しかった」


 僕が食べさせると美味しいの? じゃあ、僕がご飯を美味しく感じるのも、メリクが食べさせてくれるからかも。そう思って口を開けた。黄色い実がころんと入ってくる。噛んだら酸っぱいのに甘いのもあって、不思議な味がした。赤と黄色の実は色が違うけど、同じ野菜なんだって。


 色が違っても家族なのかな。僕はメリクと同じ色だから、家族と同じなの。でも前の御屋敷の人は色が違ったから、家族じゃなかった。にゃーは色が違うけど、家族でいいの? 僕のこと、嫌いじゃないよね。


「うにゃーん」


 下でご飯を食べるにゃーが鳴く。今のはどっちの意味だろう。


「イルを大好きだとさ」


「メリクはわかるの? 僕も、わかるの、なる?」


 僕もにゃーと言葉が話せたらいいのに。机の下を覗いたら、にゃーが尻尾を振ってる。お耳もこっち向いてるし、平気そう。尻尾を揺らして僕を見てる時は、嫌じゃないと思う。手を伸ばしたら、ざらざらの舌で舐められた。


「ちゃんと分かるようになるさ。そのためにたくさん食べて、大きくなろうな」


 髪をかき混ぜるみたいに撫でられた。大きく頷いて、僕は口を開ける。食べるものはメリクが入れてくれて、僕も入れてあげるの。ご飯のたびにそうだから、家族はこれでいいんだよね。お店で食べてる人は一人だったり、色の違う家族じゃない人と食べてたから、自分で口に入れる。


 ちゃんと僕は周りを見て覚えた。自信満々で口を開け、お肉をもぐもぐと噛む。足元のにゃーが、ぶにゃぁああ! と変な声を上げたけど、すぐ静かになった。どうしたんだろう、食べたお魚に骨があったのかも。


「明日は庭に花を植えよう、何色がいい?」


 メリクが違う話を始めたので、僕は考え込む。目の前にあるジュースは紫、でもお花は黄色やピンク、赤が多かった。時々白や青もあったけど。


「白と赤」


 どっちも好き。あと黄色やピンクも好き。青いのも時々入ってると綺麗。いろいろと浮かんでくるのは、お屋敷の庭だった。でも街で見た花を並べたお店の方が好きだよ。小さなお花がいっぱい咲いてた。お屋敷の花は触ると怒られたから、綺麗だけど怖い。


「いろいろ咲く種がある。咲くまで色が分からないから、どれが赤で白か楽しみだぞ」


「うん、それがいい」


 お花の育て方を覚えるために、絵が描いてある本を開いた。一緒に並んでページをめくれば、知っている花も知らない花もある。このお花がお家の外に咲くの? 首をかしげて尋ねる僕に、メリクは笑顔で頷いた。お花を植えたら、お水をあげたり肥料をあげたりしないとダメで、草も抜くんだって。


 綺麗なお花の咲くお庭ができるといいな。僕でも上手にできますように。

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