35.大きなお家みたいな船に乗った
朝になったら、荷物をまとめて黒い穴に放り込んだ。でもいくつかは持っていく。僕のジュースや毛布が入った袋を抱えたメリクは、枯れた草色の服を着ている。薄茶って言うんだって。茶色の薄いの? 薄くはないと思うけど。
首を傾げる僕の服は青色だった。お空の色を強くした感じだよ。そうしたら、薄いは弱い色と表現できると教えてもらう。それなら分かる。強い色は濃いと言うみたい。じゃあ、僕の服は濃い青の色だ。お金の金属を払って、宿の人にばいばいした。
水を背中に乗せた魚の絵が遠ざかっていく。あの看板のお魚、いつか本物が見られるといいな。
「イル、船に乗ろう」
「ふね」
「あれだ」
指さした先には、大きなお屋敷があった。海の上に建ってるみたい。不思議だけど、あそこに泊まるのかも。わくわくした僕はぎゅっと指を握る。
「動くんだぞ」
こっそり、秘密のお話しみたいに教えてもらう。動くの? あんなに大きいのに? 隣を歩く大きなニャーを見て、想像してみた。大きな船に足が生えて歩き出す……凄いけど、なんか気持ち悪い。あまり見たくないかも。
「うーん、歩かないし足も出ないな」
「どうやって、うごくの?」
「あのまま動くんだ」
あのまま、足もないのに? きょとんとしている僕の黒髪を撫でるメリクは、船の近くに寄っていく。すぐ近くの小さな建物に入って、木の札を買った。僕とメリク、にゃーの分も。それぞれに首に下げて、船に近づいた。
見上げるほど大きいのに、これが動く……。動いている姿が分からない僕の頬を突いたメリクが、「あんな風に動く」と指さした先で。確かに大きな船が動いていた。僕達の前にある船より小さいけど、足がないのに動いている。凄い!
「じゃあ、乗るぞ」
札を見せて案内されたお部屋に行った。宿と同じでベッドと机がある。にゃーも同じ部屋になった。なんだか、ふわふわするよ。床は硬いのに、どうして柔らかい気がするんだろう。小さな丸い窓があって、そこから覗こうとしたけど届かなかった。
うにゃー。鳴いたにゃーがぺたんと座り、僕を見上げる。首を傾げたら、メリクが背中に乗せてくれた。落とさないようににゃーが立ち上がり、窓に近づく。外は見る限り海だった。青い水が遠くまで広がって、白い泡が揺れてる。今日はお天気がいいから、海も青かった。
「気持ち悪くないか?」
「うん」
ゆらゆらするの、不思議だけど平気だよ。船が出港すると言われたら、メリクが外へ見に行こうと誘った。にゃーはお留守番で、僕とメリクだけで行く。階段を上った先に、入る時に通った広い板の庭があった。甲板と呼ぶ庭だよ。広くて木は生えてないけど、床が木なの。
抱っこされて覗いたら、僕がいっぱい並んでも届かないところに海があった。見ていると、引っ張られそう。
「動くから気を付けろ」
落ちると登れないから、ぎゅっと首に腕を回した。大きく地面が揺れて、ごごごと音がする。さらに大きく揺れたと思ったら、お店がある地面が遠くなり始めた。
うわぁ……動いてる。地面じゃなくて、甲板。これは船で動くお家みたいな場所。僕は生まれて初めて船に乗って、海に出たの。黒い髪の人がいっぱいいるところへ向かう。楽しみで笑った。
「うん、そうしてる方が可愛い」
ちゅっと頬にキスをされたので、僕もお返しした。
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