30.過剰戦力だったな(ゼルクSIDE)

 愚かにもボスの機嫌を損ねたバカがいるらしい。呼び出されて、命じられたのは排除だった。バラバラにして切り刻む? いや同じ意味か。刻んで磨りおろすだった?


 とにかく、千切って神格を確保したら、後は自由にしていい。簡潔明瞭な命令だった。幼女姿のルミエルの暴走を抑えながら、美女姿のサフィに処分させるか。あいつ、見た目は美女だけど男神なんだよな。数千年前から女装に凝り始めた。


 シュハザは四人の中で最年長だ。冷静に指揮を取り始めた。助かるので、任せてしまえ。


 この世界はシアラという新人神の領域だ。どうやらボスの愛し子絡みで恩人らしい。あんな軽口叩くなんて、シアラも命知らずだな。前のボスなら、一瞬で世界ごと砕かれてるぞ。


 森の中に残された目印を頼りに、死体の山から繋がる痕跡を追う。ボスがいたら特定作業なしでいけたが、今は愛し子最優先だった。まあ、愛し子が見つかれば、俺でも同じ反応だろう。


「なるほど……意外と神格が高いですね」


 嫌味な口調の似合うシュハザが、にやりと笑う。口調は面倒だと告げるのに、表情が裏切っていた。つまり、そこそこだが俺達より格下って意味だ。


「さっさと片付けないと、俺らがやられるぞ」


 反省するボスなんて、一生ありえないはずなのに実在した。全世界が滅ぼる予兆かと思うくらいの、インパクトがあった。のんびりしてたら、滅ぼされる。その意見に、全員が反論なく頷いた。


「よし、片付けよう」


「手足はもらっていい? 今度の世界のパーツが足りなくて」


「え? 片足は譲ってほしい」


 死んだ神の体は、世界を構築する材料になる。滅多に手に入らない上、今回はそこそこの神格らしい。となれば、争奪戦は倒す前から始まった。


「殺してからにしなさい」


 シュハザの真っ当な意見に、俺達は口を噤む。肩を竦めたサフィが平等な分配を口にした。功績に応じて分配すると、勢い余って命令違反をするかもしれない。神格を破壊したら、懲罰対象は俺らだ。そのため公平に分ける。それに合わせて役割を果たそうという提案だった。


「いいんじゃね?」


 口々に賛同が上がり、世界の間を飛ぶ。どこぞの世界で、宇宙と表現されていた。その響きは結構気に入ってる。その宇宙空間で繋がりを辿った。隠そうとした気配はあるが、探索に特化したサフィの目を誤魔化すのは無理だ。実力差があり過ぎた。


「じゃ、さっさと片付けて戻ろうぜ。確か、千切って砕いて踏み潰すんだっけ?」


「え? 切り刻んで煮るんじゃなくて?」


「私は塊肉がいいな」


 俺達の物騒な発言に、シュハザが冷静に突っ込んだ。


「神格だけ無事なら、方法は問いません。行きますよ」


 いつものやり取りを経て、俺達はひとつの世界を滅ぼした。正確にはバラバラにして回収したんだが……珍しい動物も確保したし、二つ目の世界を構築し始めたばかりのサフィはご機嫌だ。ルミエルも気に入る人種を確保したらしい。


 俺とシュハザは切り刻んだ神を、淡々と分配した。最後の一欠片まで確認する。悲鳴をあげて嘆願したが、そんなの聞いてやる義理はない。叫ぶために開いた口から引き裂き、体内から膨張させてぶち撒けた。最後の欠片まで助命と許しを請う。その姿こそがボスの望みだ。


「バカだな。よりによってボスの愛し子に手を出そうだなんて」


 俺だって、想像だけでゾッとするぜ。

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