13.金があっても買えないもの(父親SIDE)
取引先がいきなり手を引いた。だがさほど大きな相手ではない。後で泣きつくに決まってると笑った翌日、別の取引相手が……その次の日もまた。
じわじわと取引先が消えていく。全員が嫌悪の表情で、二度と取引をしないと言い放った。何が起こっているのか。執事に調べさせた結果、小屋で飼っているガキの話が漏れたのだと知る。小汚く色もおかしな子どもを虐げたくらいで、何を大袈裟な。
呆れたが、ついに実害が出始めた。商人達がそっぽを向いたのだ。品物の売買を停止されれば、物が入らない。手元にある金貨をちらつかせても、彼らは売らなかった。神罰が落ちると脅すように口にする。ならばと国外の商人を呼び寄せるが、体良く断られた。
貴族が集まる夜会やお茶会への招待が減り、数週間でぴたりと止まった。今や、我が子爵家に出入りする商人も、付き合う貴族もいない。
あのガキの面倒を見ないことが、そんなに悪いことか? 父親の髪色と母親の瞳の色を受け継ぐのが、正しい姿だ。にも関わらず、この世界の道理から外れた黒髪金瞳の魔物を愛せと言うのか。
腹立たしい。だが見せかけだけでいいなら、屋敷の隅に置いてやろう。そう思ったのに、小屋にガキの姿はなかった。なるほど、逃げ出した先で誰かに保護されたのだろう。そいつが我が家を貶めた。
妻はお茶会に呼ばれなくなった日から、閉じこもっている。付き合いを断たれた息子は、学校に通うことも出来ず落ち込んだ。我が家の財政は収入が断たれたことで、一気に悪化している。すべてあのガキのせいだ。
見つけ次第殺してやる。そう思ったのに、探させても見つからない。それどころか、使用人が退職し始めた。我が家を落ち目と判断し、逃げたのか。奴らを捕まえて仕置きを考えたが、命じた執事も退職届を置いて消えた。
商人が来ないため、食べ物を買いに街へ出る。しかし、どの商会も首を横に振った。目の前に金を積んでも、大声で脅しても効果がない。それどころか、警備の衛兵を呼ばれて放り出された。小さな商店にも話が回ったらしく、彼らも物を売ろうとしない。
備蓄していた小麦や芋も、もうすぐ底をつく。屋敷を維持する費用があっても、作業する者がおらず荒れ始めた。唸るほどの金が手元にあるのに、誰も売らないし賃金で働かない。こんなことがあるのか。
シーツを変えないベッドは臭い始め、服は薄汚れてきた。あちこちに埃が舞い、食事は焼いただけの芋や煮ただけの麦、それすらも数ヶ月で消える。
「誰が我が家を貶めたのか」
問うた答えは、思わぬところから齎された。神託だ。あの色違いのガキは、神々が
汚い黒と禍々しい金の瞳の、両親に似ないガキが?! 神の愛し子――この神託で気づいた。貴族や商人、街の平民も、同じ神託を受け取ったのだ。唯一神を崇めるこの世界で、もう居場所は残されていないと。
絶望が胸を満たした。逃げ場も居場所もないなら、滅びるだけだ。大量の金貨を詰めた金庫の前で、膝を突いて崩れ落ちた。あの子どもは生まれついての、疫病神だ。そう呟いた途端、全身に激痛が走り意識が遠のいた。
死ねると思ったのに、強盗に入られ金貨を盗まれる。妻子は金になると連れ去られ、どこかで売られただろう。使い道のない俺は、バラバラに刻まれた。なのに、未だに痛みと意識が存在している。死ねば楽になるはずだろう、頼むから殺してくれ。
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