12.愛さなかった報いを(三毛猫SIDE)
この世界を管理する神になって数千万年。まだ二つ目の世界は預かっていない。神の世界では未熟者扱いだった。
なのに、これはどういうことだ? 五つの世界を管理する強者の対である愛し子が落ちてきた。何らかの意図があるのかと見守ったが、あまりに環境が酷かった。あれは違う。偶然あの家族の元へ生まれただけだ。そう判断して、毎日通うことにした。
赤子の頃から精霊達が集うのは、この子の対になる神が高位だからか。それとも純粋すぎる魂に惹かれたのか。一緒にいると安らぐのは私も同じだった。赤子のうちは屋敷にいたが、扱いは酷かった。寒い部屋に放置されるのはもちろん、泣いても誰も駆けつけない。
だがお陰で、時間を問わず付き添うことができた。牛の乳を飲ませ、精霊達が温める。一緒に温めるため、私も猫の形を取った。屋敷に侵入し、自由に歩き回るのに最適な動物だ。身軽で突然姿を消しても怪しまれない。毛皮で赤子を温めても変に見えないだろう。
そうして大切に育てたが、二歳が近付いても迎えは来なかった。対になる神にとっての数年は誤差だが、赤子には命取りだ。何をしているのか、眉を寄せた頃になりようやく現れた。圧倒的強者であり、押し潰さんばかりの神格を持つ絶対神だ。
本来、絶対神とは創造主を意味していた。だが創造主が姿を消してから、最古参の三柱の神を絶対神と表現するようになったと聞く。その一柱が現れたのだから、驚くのも当然だろう。
愛し子を保護した代償に願いを叶えると言われ、二つ目の世界が欲しいと口に出しかけた。だがすぐに思い直す。もし新しい世界を得るなら、実力で勝ち取るべきだ。
愛らしく純粋なこの子を見守ったのは、羨ましかったから。愛される運命の子が、傷つけられるのを見たくなかったから。その思いを汚してまで得たい対価はない。だから見守る権利を要求した。圧倒される神格の違いがあっても、見守るくらいは許して欲しかった。この子が幸せになるまで。
名付けもされなかった事実に怒るが、愛し子の保護を優先した。温かい食事や寝具、安全な部屋、風呂に入れることも。愛情を示す絶対神の表情は柔らかく、時折痛みを耐えるように歪んだ。その痛みも受け入れる姿に、彼に協力したいと思った。
「では、軽く不幸をばら撒いて来るとしますか」
愛し子を買い物に連れ出す絶対神は、動くなと命じなかった。意味ありげに笑っただけ。先行してちょっかいを出すくらいは許される。死ぬより酷い目に遭わせたい、死なせてくれと願うほど苦しめたい。その思惑は完全に一致した。
お留守番は精霊達に任せよう。結界を張った部屋を出て、空中を走る。あっという間に到着した足元に、立派な屋敷があった。あの子がいなくなったことすら、気づいていないのだろう? 愚かなことよ。
あのお方がラスイルと名付けた御子を、我が子として迎えていれば……せめて預かり物として大切にしたなら。今頃は身に余る栄誉と財を得ていたであろうに。
にやりと口角を持ち上げ、やっと訪れた報復の機会に心を震わせる。さあ、あの子が味わった辛さをお前達に返してやろう。たっぷり時間をかけて味わうがいいさ。
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