05.もっとたくさん食べろ
綺麗な人は驚いた顔をしたけど、すぐに笑って撫でてくれた。頭の上に手が来る時は怖い。でも撫でる動きは気持ちいいから好きになった。
「今度は熱くも痛くもないぞ。ほら、あーん」
心配でじっと見つめる僕の指を掴んで、食べ物にくっつけた。痛くない。これなら食べられそう。素直に口を開けたら、びっくりした。
口の中で、じゅわっとしてとろっとする。もぐもぐとたくさん噛まなくてもなくなった。まだ食べていたかったのに、消えちゃう。ずずっと鼻を啜った僕に、また食べ物が出された。
「もっとたくさん食べろ。もう一度だ。あーん」
言われるまま口を開けたら、今度は違うのが入ってきた。ふわふわして、つるんと喉に消える。食べ物っていろいろあるんだね。僕は硬いのや苦いのしか知らないけど、これは好き。
何度も繰り返して食べると、だんだん苦しくなってきた。お腹の上が中から押される感じ。お腹や胸の辺りを撫でていると、綺麗な人は銀色の棒を机に置いた。
「お腹いっぱいみたいだな。美味しかったか?」
「おいしぃ?」
初めて聞いた言葉だよ。食べた後に使うのかな。なぜだろう、綺麗な人が泣きそうな顔をしてる。ごめんね、僕あまり言葉を知らないの。どうお返事したらいいか、分からないんだ。
「まだ時間が足りないか。だがこれからは一緒だ」
僕をお膝に乗せたまま、綺麗な人はそう笑う。一緒……聞いたことある。仲良しだと一緒なんだって。お腹がいっぱいになったら眠くなってきた。頭が重くてふらふらする。
「寄りかかって」
綺麗な人の顔がもっと近づいて、僕はくたりと体を預けた。怒らないよね? 叩いたりしないで。もう臭くなくなったから、痛いこともしないで欲しい。
寝て起きたら、また一人だったらどうしよう。怖い。ぎゅっと服を掴んで、体を丸めた。寒いのも嫌、痛かったりお腹空くのも嫌い。
「あっ、にゃー!」
にゃーがいない。寝る時はいつも僕を温めてくれたのに。浮いている光が、いつもと違う光り方をした。何かを伝えてるの? その光をじっくり眺めた綺麗な人は、僕達を交互に確認してから頷いた。
「三毛猫だな。わかった、連れて来るから安心してくれ」
みけねこ? 光がゆっくり瞬いて、僕はそれを見ながら目を閉じた。柔らかくて温かい腕に包まれ、がっしりした肩に寄りかかる。柔らかい布で包まれた感じがして、へにゃりと顔が緩んだ。
にゃーみたい。僕に痛いことしなくて、温かくて気持ちいい。光も同じだね。僕が痛かったり悲しかったりすると、半分持っていってくれる。
「三毛猫ねぇ……嫌な予感がする」
綺麗な人の言葉が聞こえたけど、意味が分からないまま。僕は気持ちよさに負けて眠った。目が覚めても一緒にいてね。まだ「ありがとう」を言ってないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます