04.大きなお鍋で煮えちゃうのかな
温かくて気持ちよくて、目を開けたら綺麗な人がいた。あのお屋敷の誰より綺麗な顔だよ。その人は僕を大きなお鍋に入れて……。
「たべられるの?」
「お腹が空いたのなら、すぐに用意できるぞ」
にっこり笑って言われ、意味を考える。僕を食べるために鍋で煮てるんじゃないの? この人がお腹空いたから、僕を食べる話? すぐに煮えちゃうのかな。
僕は服を着ていなくて、なんだかいい匂いがした。手を顔に近づけて、くんくんと嗅いでみる。いつもと違う。お屋敷の人みたいに、すっきりした匂いがする。
「心配しなくていい。洗っただけだ」
手を伸ばす綺麗な人は、嬉しそうに僕に触れる。痛くしないんだ。こんな人初めてかも。頷いてよく拭いてもらう。柔らかくてふかふかした布は、今まで触った事ない。黒い髪も綺麗になったかな。伸ばしっぱなしの髪を引っ張り、くんくんと嗅いだ。
平気みたい。両手を前に差し出されて、驚いた。この手はどうするの? 両手を掴んだらいいのかな。それとも真似してみる? 迷って同じように両手を前に出した。笑った綺麗な人と距離が一気に近づく。
顔がぶつかりそうだよ。それに高い。周りを見ると、僕を二人縦にしたくらい高かった。そのまま歩くから、怖くてしがみつく。
いつもの光が僕の周囲に集まってきた。ゆっくり光ったり消えたりを繰り返す。怖い状況じゃないんだね。危ない時はピカピカ忙しくなるから。安心して力を抜いた。
この人は僕をどうしたいんだろう。叩いたり蹴ったりする? それとも「要らない」って言うのかも。さっきの温かいお鍋は、僕を食べるための道具じゃないみたい。
椅子に座った綺麗な人は、僕をお膝に乗せた。慌てて降りようとしたら、このままがいいと言う。変なの。僕が臭くなくなったから?
「お待たせしました」
扉が開いて、びくりと体が揺れた。大きな体の人が二人も入ってきて、何かを持ってる。怖くて体が動かないよ。逃げられない僕の前に、いっぱいのお皿が置かれた。これは知ってる。ご飯で使うの。
いい匂いがお部屋に広がって、ぐぅとお腹が鳴いた。たまに鳴くけど、僕の中に何か住んでる。それがお腹空くと鳴くの。僕と同じでお腹空いてるんだと思う。
たくさん並んだお皿は、いろんな色の物が載っていた。ひくひく鼻を動かして匂いを確かめ、またお腹で誰かが鳴く。ぐぅ……その音に綺麗な人が笑った。
「食べようか」
僕に聞いてるの? 見つめる先で、食べ物が載ったお皿を選んだ綺麗な人は、銀の棒で上手に刺した。それを口まで持ってくる。
「あーん」
……あーん、って何? じっと見つめたら、その棒は綺麗な人の口に「あーん」って入った。あーんは口を開ける合図みたい。もう一度同じように差し出された棒は、食べ物が刺さっていた。
「ほら、あーんして」
「あーん」
見た通りに口を開け、同じ言葉を繰り返した。最後の「ん」で口を閉じたら、何か残ってる。
「っ!」
痛いっ。舌の上が痛くて、ぺっと吐き出す。何これ。ぴりぴりと痛い。怖くなって泣き出した僕に、綺麗な人はいっぱい話しかけた。
「ごめん、熱かったな。俺が悪かった。冷たいのなら食べられるか? 痛いのも消してやるから、口を開けてくれ。頼む」
半分も意味がわからないけど、泣き出しそう。どこか痛いのかな。心配になって顔を近づけたら、唇に指が触れた。
「あーん、出来る?」
痛いけど、迷って小さく「あーん」をする。隙間からぺろりと舐められた。にゃーと同じだ。嬉しくなって、僕もお返しに舐めた。
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