ランプが倒れる、その瞬間に
御厨カイト
ランプが倒れる、その瞬間に
「もう……そろそろ覚悟は決まったかな?」
「覚悟なんて……決まるはずが無いじゃない!」
「おいおい、しっかりしてくれよ。俺だってコイツらみたいな化け物になりたくないんだから」
「でも……でも……ずっと一緒に戦ってきた貴方を殺せる訳が無いじゃないの……」
絞り出すかのように呟いた私の言葉に化け物化が進んでいる事を表すヒビが入った顔で彼はフッと微笑む。
いつの間にか化け物が蔓延るようになった現代。
私は彼とバディを組んで化け物退治をしていた。
「お前、変わったな……」
「何がよ!」
「出会った頃はあんなにツンツンしてたお嬢様だったのに……今じゃこんなにも俺の事を想ってくれるようになりやがって」
「わ、悪かったわね。昔は優しくなくて」
「だが、今はその優しさが誰かを苦しめているというのも忘れるな」
「……ッ」
……勿論、分かってる。
私が躊躇しているこの間も痛みに苦しんでいる事も。
この一瞬一秒の間も自分が憎んでいた化け物達になってしまうんじゃないかという恐怖と戦っている事も。
そして、それが私の
何もかも、全部!
でも……それでも……どうしても彼に向けられたこの銃の引き金を引く事が出来ない……
「……勿論、勿論分かってるわよ!でも……貴方の人生はここからじゃない……」
「……」
「やっと借金だって全部無くなったのに、やっと娘さんだって無事に助け出せたのに、やっと貴方の人生が報われた日が来たのに……油断していた私なんかを庇った所為で……ホントごめんなさい……」
「……ハッ、なんだ、そんな事か」
「そ、そんな事って貴方――」
「いーや、そんな事だね。確かに今まで色々大変な事があったが、それも今回の戦いで全て帳消しになった。逆に言えば、俺はもうこの世に心残りは無いのさ」
「で、でも、娘さんとかどうするの?折角一緒に過ごす事が出来るようになったのに」
「娘の事なら救助した後は俺の数少ない親友の元へ送ってもらうようにもう手配してある。親友ならきっと娘の事を立派に育ててくれるはずさ」
そこで一瞬、彼は「ウッ」と顔を歪ませた。
私の手はまだ震えたまま。
流れる汗は冷たい。
「それに……やっぱり娘は
もう色々諦めたかのような表情を浮かべる彼。
やめて、そんな顔しないで。
私のそんな思いが届いたのか、彼は泣きまくってぐしゃぐしゃになっている私の顔を見て「フッ」と笑いながら話を続けた。
「あと、お前は庇われた事に罪悪感を抱いているようだが俺がお前を庇ったのはただ単純にこの世界にいる人達のためさ」
「えっ?」
「お前は強い。多分、このまま続けて行けば確実に俺以上に強くなる。という事は、あの化け物たちから救える人の数も俺がやるよりも多くなる。それなら、俺がお前を庇うのも納得の理由だろ?」
「……貴方って最期まで他人の事を考えて生きてるのね」
「そりゃそうさ!俺は死んだら天国に行きたいからな!」
「……前言撤回、貴方って最期までやっぱり欲深い人なのね」
「人間の性格なんてものはそうそう変わらんからな、仕方がないさ。……おぉ、忘れるところだった。お前を庇ったのは奴らの汚い血がお前のその綺麗な金色の髪に掛からないようにするためさ」
「……今更そんな事を言ってももう遅いし、いつも言ってるけど貴方にそういうキザな言葉は似合わないから辞めた方が良いわよ」
ニカッと見掛け倒しの笑みを浮かべる彼をこういう時でも私は一蹴する。
「何だよ、少しは真に受けてくれたって良いじゃねぇか。この間のプロポーズだって軽く流しやがって」
「だって、本気じゃないの分かってたし、貴方の事を尊敬はしているけど肩を寄せ合って生きていくのは勘弁だからね」
「フッ、冷たいな。だが、それでこそ我が相棒だ!」
幾許かの静寂が流れる。
スゥー……ハァー……
ゆっくり深呼吸をして、私は手に持っている銃のグリップを強く握った。
「もう……大丈夫か?」
「えぇ、貴方のおかげよ。最後まで気を遣わせちゃった」
「いいって事よ」
「何か最後に……そうね、娘さんに伝えときたい事とか、ある?」
「うーん、そうだな……俺みたいに良い
「……貴方って人はホントに…………分かった、ちゃんと伝えとく。それじゃ……そろそろ良いわね」
「あぁ、ちゃんと1発で仕留めてくれよ。これ以上苦しむのは嫌だからな」
「ここまで来て今更そんなヘマしないわよ!……今までホントにありがとう」
「おう、こちらこそな」
お互いに微笑み合う。
そして、この静寂に一発の銃声が響き渡った。
命の灯が今、倒れる。
ランプが倒れる、その瞬間に 御厨カイト @mikuriya777
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