第5話
好きを伝えたくて、伝わらなくて。
マッチングアプリは続けていた。相変わらず男達とは一回しか会っていない。
正直もうやめてもいいかと時折思うけれど、貴女の写真のおかげでこんな男と会ったのと話すと、嬉しそうに笑ってくれるから、やめるにやめられないのよね……。
少しくらい、曇ってくれてもいいのに。
そんな想いをほんのり込めて、好きを視線で伝え続ける日々。
──
何十人目かも分からない、マッチングアプリの相手。
そんな彼と普通に会って、普通に食事をし、普通に会話をしていた。
「俺の友人に、カメラマンがいるんですよ」
「……っ」
口に何も含んでいなくて良かったと、タイミングの良さに感謝した。
「
「……」
「すみません、興味なかったですね」
「いえ、あります」
冊子に、展示会。
彼女がそういう活動をしているという話は聞いたことがないけれど、何とも夢に溢れた言葉。
ほんの数日前に、私をモデルにした甘梨の写真がコンテストに落ちたと聞かされていたから、余計にそう感じる。
『せっかく撮らせてもらったのに、ごめんなさい』
力なく笑う彼女を、抱き締められない自分が歯痒かった。
私にできることなんて、話を聞いて、美味しいご飯を食べさせてあげることくらいと思っていたけれど……こういうの、教えてあげたら何か、彼女の役に立たないか。
大将さんからお話を聞かせてもらえばもらうほど、その想いは強くなる。
丁度今、彼の友人達はアマチュアの作家達と共同で展示会をやっているとのことで、次の休みに行くかと日程を確認していたら──良かったら一緒に行きませんかと、誘われた。
「少し迷いやすい場所でやっているんですよ。初めてだと時間によっては見られなくなるかもしれませんし、都合がつけばですが、友人からもっと詳しい説明を聞けるよう話をつけることもできるかもしれません」
どうでしょうと訊かれ、少しの間考える。
頭の中は、甘梨のことでいっぱいだ。
「……ご迷惑でなければ」
翌週に会う約束をして別れ、その間に甘梨と会って別れる。サプライズと、邪な感情から、詳しい話はしなかった。
彼女から何の連絡も来ないまま、約束の日、大将さんにエスコートしてもらい、展示会の視察と主宰であり彼の友人でもある鷹夜さんとの面会を果たす。
「アマチュアもプロも関係なく、一緒に活動してくれる方はいつでも募集してます。多ければ多いほどお客様に楽しんでもらえるだろうし……懐も少しは助かるかなって」
カメラマンも色々大変そうだ。そういう面を見たことはないけれど、甘梨も何か、困っていることがあったりしないか……。
名刺に冊子と色々頂き、大将さんに駅まで送ってもらう。今後どうするのか訊かれて、どうしたいのか考えるのはやっぱり甘梨のこと。
「……少し、考えさせてください」
話をしようと思えば、直接鷹夜さんとお話しできる。
前回今回と接してきて、大将さんが素敵な方なのは分かった。私に構わず、他の女性の為に時間を割いた方が良い。
下げた頭を戻した時、彼の瞳には僅かに落胆の色が見えた。
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