第2話 敗北者の末路



 「ーーーー、ーーー、ちょーーー。起きなーーー、ねえ!」


 あれ、ここどこだっけ?目の前にいる可愛らしい少女は誰だ?


 「ちょっと、異世界についたから早く起きなさいよ!この役立たず!」


 「ああ、なんだお前か。期待させやがって、俺は寝るからな」


 俺はそう言うと、再び目を閉じて眠りにつく事にした。下が平面なので寝心地が悪いが、今は眠いので寝る事にした。


 「ええっ!?寝るってここがどこだか分かってるの?ねえ、ちょっとぉ」


 元幸福の神のレナが何やらソワソワしている。しょうもない事だろうと決めつけて、放置するつもりだったが、あまりにもうるさいので注意する事にした。


 「うるさいなぁ、ここどこって異世界だろ。こっちは眠いからちょっとは眠らせてくれ。ほらあれ、アイマスク貸してくれない?」


 「そんなの無いわよ!そんな事より、どうするのこの現状!私たち殺されちゃうわ」


 「殺されるって大袈裟だなぁ。異世界とは言ってもそんな、チュートリアルから危険な訳ないだろ。それともなんだ、あの先輩の神でもいるのか?だとしても殺されるのはお前だけだろ」


 「それと同じくらいヤバイ奴がいるのよ!ねえ起きて!そしてなんとかしてぇ!」


 「あーもう!しょーがないなぁ」


 これ以上睡眠を妨害されたくないので、俺は体に力を入れ、ゆっくりと立ち上がった。


 目を擦ると、何か眩しい尖ったものが見える。あれれ?何か槍みたいな形状をしているなぁ。


 それになんか、囲まれてる気がするんだけど、まさか……


 俺は恐る恐る周りを見渡した。すると、俺の目に映ったのは俺達を囲み槍を突き立てる数人の兵士と、玉座に座る王冠を付けたおじさんだった。


 部屋は美しいスタンドガラスに大きな自画像が置かれていた。壁やカーペットがキラキラと輝いており、2階席にいる人々の格好はとても高貴なものばかりだった。


 「えっ、何これ?チュートリアルでこんな冗談やめて欲しいんだけど」


 「冗談だったらどれだけよかった事か。うぅ〜、私は本当に不幸だよぉ!」


 隣で不幸の神が嘆き始めた。その姿からはまるで神と言ったものが感じられず、泣き虫な少女という喩えが真っ先に浮かんだ。


 「退けぇぇ!」


 玉座に座っていたおじさんがそう叫ぶと、兵士たちは部屋の大きな扉の前へと去っていった。


 「召喚しておきながら、酷い仕打ちをした事は謝ろう。誠に、すまなかった!」


 おじさんが頭を下げると、周りがざわつき始めた。おそらく王とか有名な貴族とかそんな立ち位置なのだろう。


 「ふっふぅ〜ん。まあ分かればいいんだけど、これからは気をつけて」


 先程までは震えた小動物のようになっていたレナが、まるで王様かのように偉そうな口を叩いた。なんて上から目線なんだ。


 (こっ、こいつぅぅ、さっきまで泣きながら俺を頼ってたくせに、なんつう変わり身の速さなんだ。この能無神のうなしんが!)

 

 「王に対して何たる無礼、殺しましょうか」


 王の隣に立っていた騎士がそう言うと、レナは『えっ……王?王ってどんな字だったけ?ももも、もしかしてあの王様の事……なの。挨拶のオウ!の方じゃ無いの?』なんて言って動揺している、今更相手が王である事に気づいたみたいだ。


 「よせ、いきなり拘束した余が悪いのだからな」


 王様は短気で理不尽だと思っていたが、この王様は違うようだ。律儀で優しい理想の王様ってやつだ。


 「あの、王様、私達はなぜ故こんな仕打ちを受けているのでしょうか?」


 「分かった話そう。君らは悪くないからな」


 そう言って王が話したのは、俺達クラスメイトの事だった。


 この国、ミリグラム王国は、異世界転移の実験に成功した唯一の国で、この世界を脅かす悪魔と闘うために異世界人を召喚する事にした。


 そして今から約2ヶ月前、異世界転移によってゾロゾロと異世界人がやってきた。そう、俺のクラスメイト達だ。


 彼らは、レベル1でありながら凄まじい能力や武器を持っていて、王国の訓練を楽々こなした。


 一週間が経った頃、そのうちの一人が王城から抜け出し、一人で冒険に出かけた。それに続いてゾロゾロといなくなり、最終的には今は8人ほどになったらしい。


 彼らは独自のやり方でレベル上げをしているようなので、追いかける事はしなかった。それが悪夢の始まりだった。


 彼らはその最強の能力や武器を使って世界各地で様々な被害を出し、生態系を破壊したり、村や街を丸々一つ消滅させたりした。

 

 中には魔王を名乗り国を乗っ取ったり、『服従』の能力で新たな勢力を結成したり、頭のおかしな宗教を作り上げだり、他国の王の座を奪いとった者までいた。そんなこんなで、グラム王国が召喚した転移者達は悪魔の王と同じくらい危険な存在として扱われたそうだ。


 そのせいで、グラム王国はあらゆる方面から非難され、世界的な立場が危うくなったらしい。


 また、異世界転移の実験は完全に打ち切りとなり、召喚方法は闇へと葬り去られた。


 そして今日、最後の転移者が来ると予言があったので、一応の処置として俺達を拘束したらしい。


 話を聞いて思った事は一つ。


 (うん、国王が全面的に正しい)

 

 クラスメイトがどうしようもない連中だとは知っていたが、世界を救う使命を与えられた奴らが世界破壊してどうするんだ。これじゃあ本末転倒じゃないか。


 俺はクラスメイト達より8分くらい遅く異世界に行ったから、死後の世界の1分は異世界の一週間ってところだろ。


 というか、異世界だからってやりたい放題やりすぎだろオイ。


 「おいレナ、何で教師達も一緒に転移させなかったんだよ!」


 「仕方ないでしょ!私が召喚した訳じゃないんだし」


 「はぁー!?どう言う事だ。お前達が召喚した訳じゃないのか?」


 「悪魔の王については神の間でも問題になっていたの。そこで偶然たまたま異世界転移された連中がいたからそいつらにチート能力渡しておこうって事になったのよ!都合よくこの異世界の連中は異世界人は最強って思ってたからそれを使わせてもらったのよ」


 「だからってチート能力与えてどうするんだよ!」


 「だって、だって、私が決めた訳じゃ無いもん!私知らないもん!」


 「ごほん、話は終わったかな?」


 俺達は会話に夢中で王様を完全に無視していたみたいだ。王様に気を遣われていた。


 「一つ聞きたいことがあるのですが、何故大人は転移されてないのでしょうか?」


 「異世界に一定の秩序があると考えると、大人は協力してくれないと思ったからだ。大丈夫、大人のみんなは今頃元気にしていると思うから」


 「そうですか」


 「余も、一つ質問してもいいかな?」

 

 「はっ、はい!」


 王様からの質問、その質問の返答によって生死が決まる……なんて事はないよな。


 俺はビクビク震えながら王様の質問を聞いた。


 「君が持っている特殊な能力は何かお聞きしたい」


 王がそれを尋ねると、周りがざわつき始める。中には、恐怖のあまり発狂している奴もいる。まぁ、流石にソイツは周りから引かれてたけど。


 「それが俺は特殊能力を貰えなかったんです。すみません、力になれなくて」


 能力が無いなら追放……なんて展開になるのがテンプレだろう。そして強くなって王にギャフンと言わせるのが主人公の成り上がり展開って奴だ。さあ来い!


 俺は追放される事を確信すると同時に、喜びながら王の反応を待っていた。だが、王様の反応は俺の期待を裏切ってきた。


 「おお、本当か!それは良かった。また変な能力の奴に暴れられたらどうしたものかと思っておったが、なるほど能力無しか、本当によかった!」


 周りから歓声が上がる。国の荷物が増えなくてよかったとか、問題が減ったとか。また、誰かが拍手すると、それに便乗して皆が拍手した。


 「え、まじスカ」


 「大丈夫だ。これから王城で修行に励み、強くなればいい。頑張ってくれ」


 なんだろう、応援されているのにこんなに侮辱された気持ちになるなんて思わなかった。


 「ふープスプス〜!何その反応、はっはっは、モブに対する反応じゃない!プスプス!」


 隣でレナが腹を抱えて笑っている。本当にムカつく女だ、誰のせいで俺の能力が無いのか分かっているのかコイツは。


 にしてもこの展開、本当にモブルートだな。


 (はあ〜、俺も強い能力が欲しかったなぁ〜)


 せいぜい俺が持っているのは、この能無神だけ……か。


 俺は拍手と歓声の嵐の中、とてつもない虚無感に襲われるのであった。

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