小編 ゴブリン討伐

第85話 ザビーネとの任務 ーヴィダルー

 ハーピオンが属国となる調印の儀も終わり、細かな整備も整った頃。


 ——魔王国。会議室「血族の間」。



 血族会議では1つの問題が持ち上がっていた。



「ルナハイム付近に現れるゴブリンの群れ。フェンリル族だけでは対処できない問題まで発展しているようだ」


 ルナハイムのフェンリル族。その役割は我らの経済圏における交易ルートの警備。ゴブリンへの対処が遅れると他の護衛ルートにも影響が出る。


「応援を派遣したいのだが、ナルガインの部隊は行けないか?」


「う〜ん……オレの部隊はシュバルツハルト王国との戦闘準備期間だからなぁ。人員は割けられないな」


「フィオナは?」


「私はエルフェリアの政務でちょっと……若者達が権利を主張しておりまして……」



わらわが行っても良いぞ!」


 イリアスが立ち上がり得意気に胸を張った。


「さすがイリアス様!」

「カッコいい〜!」

「ご立派になられて……」


「そ、そうかの? にゃっふふふ〜」


 彼女の側近3人が口々にイリアスを褒め称え、その度にイリアスの顔は緩んでいった。


「イリアスよ」


「な、なんでしょうデモニカ様?」


「貴様にはホークウッド村の警備を命じたはずだが? 近頃盗賊が徘徊はいかいしていると聞く。そちらの対応をせよ」


「は、はひぃぃぃ!! 承知しましたのじゃぁ!!」


「イリアス様ぁ……」

「ご自分の任務を忘れられてるなんて〜」

「なんと嘆かわしい……」


「皆そんなに言わずとも良いじゃろぉ……ナル姉様ぁ〜」


 側近達の手のひら返しにイリアスが小さく丸まっていく。最終的に涙目でナルガインに抱き付いていた



「それにしても……皆動けないなら俺が行くしか無いか」


「いいよ〜ヴィダルの為なら頑張っちゃうもんね。ゴブリンの1000匹や2000匹僕の双剣で〜ふっふふふふふふふ……」


 レオリアが双剣に手をかけ邪悪な笑みを浮かべる。


「そのことだが」


「んん? どうしたの?」


「今回レオリアはイリアスの補佐をしてくれ」


「え、え〜!? なんでなんで!? 僕無しでヴィダルをゴブリン達の元へ送るなんてできないよ!」


「考えようによっては良い機会だからな。ザビーネの能力を確かめようと思う」


 部屋の隅に立っていたザビーネに皆の視線が集まる。


 突然自分の名前が出たことでザビーネが惚けたような声を出した。


「ふぇ? ざ、ザビーネがゴブリン退治を?」


「そうだ」


「ふ、ふえええぇぇぇ!? ご、ゴブリンって数が多いんですよ!? 捕まったらザビーネ酷い目に遭わされちゃいますよ!? ザビーネじゃ勝てないですぅ!」


「そんな訳無いだろう。お前の力は理解しているつもりだ」


 かたくなにこばむザビーネを見てフィオナはため息を吐いた。


「ヴィダルがこう言っているのです。これ以上わずらわせるようなら、この場で八つ裂きにしてあげますが?」


「ふぇっ!? フィオナ様ぁ……あんまりですぅ……」


「心配するな。ヴィダルが一緒なんだ。きっと上手く作戦を考えてくれるさ」


「ナルガイン様ぁ……」


「ナル姉様の言う通りじゃぞ。恐れることは無いのじゃ」


「イリアス様まで……」


 ザビーネが大粒の涙を翼で拭っていく。しかし、何度拭ってもその潤んだ瞳が戻ることは無かった。


「こんなザビーネにお優しい言葉をかけてくれるなんてぇ……ありがとうございますぅ」


 これは感動の涙……なのか? ずっと涙を流しているせいで分からないな……。


「ふふ、ふふふふ……ヴィダルに傷なんて付けたら僕が殺してやるから」


 レオリアは普段では見せないような怒りを込めた顔でザビーネを見つめる。


 レオリア……このような顔もするのか。


「ヒィィィィ!? が、頑張りますぅ〜!?」


 ザビーネは怯えるあまり部屋内を飛び回り、最終的に俺の後ろに隠れた。


「ふむ。決まりだな。ではヴィダルとザビーネはゴブリン退治。レオリアとイリアスは盗賊へ対処せよ」


 混乱しそうな場は、デモニカの命令で一瞬にして統制を取り戻した。


◇◇◇


 魔王国を出国する際にレオリアが見送りに来てくれた。


 レオリアの寂しそうな顔を見ると、罪悪感が浮かぶ。



 以前ナルガインと行動した時も相当ゴネていたからな……。



 レオリアは俺の直属の部下だ。蔑ろにするようなことはあってはならない。


 俺へ好意を抱いてくれている彼女に対して……それにはできる限り答えたい。


「すまない。お前の仕事を奪うような真似をしてしまって」


「う、ううん……僕は別に……」


「なるべく早く終わせて帰ってくるよ」


「僕の所に?」


「ああ。レオリアの所に帰ってくるよ」


 彼女の獣耳が小刻みに動き、その顔に明るさを取り戻す。


「うん。僕もチャチャっと盗賊達殺して魔王国で待ってるからね!」


「え、笑顔と言ってることのギャップが怖いですぅ……」


 ザビーネが顔を引きらせる。


「いらぬことは言わなくていい。行くぞ」



 ザビーネを連れ、俺はルナハイムへと向かった。

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