第81話 苦渋の選択 ーヴィダルー
地面に倒れ伏したザビーネが苦悶の声を上げた。
「う……っ」
「ヴィダル! コヤツまだ生きておるのじゃ!」
イリアスが駆け寄りザビーネへと蹴りを入れる。
「ぐうっ!?」
「やめろイリアス」
「んん? なんでじゃ?」
「ヴィダルがね。生かすように言ったから僕は殺さなかったんだよ」
「そうなのかの?」
イリアスが不思議そうにザビーネの顔を覗き込む。
「イリアス。
「了解じゃ!
イリアスが両手を開き、青い魔法陣が現れる。
「皆聞け! 女王ザビーネは我ら魔王軍が無力化した! 戦闘を今すぐ中断しろ! 交渉に応じられる者はこちらへ来い!」
兵士達のざわめきの中、1人のハーピーが前へ出る。
1人だけ雰囲気の異なる槍使い。
この女……ナイヤ遺跡で戦った者か。
「私は現ハーピオンにおいて序列2位のリイゼルだ。我が国へ急襲をかけておきながら交渉とは……一体どういうつもりだ?」
「勘違いするな。これはホークウッド村へと攻撃を仕掛けたことへの報復だ。この戦いの非はそちらにある」
「何を……勝手なことを……!」
「ハーピオンがどのように主張しようとも判断するのは周辺諸国。この女王の演説を聞いた限り貴国は侵略を企てていたと見えるが?」
「ぐ……っ!?」
「まぁいい。俺達は何もハーピオンの主権を奪いたい訳では無い」
「どういうことだ?」
「俺達か望むことは2つ。女王ザビーネを魔王国へと差し出すこと。ハーピオンが魔王国の属国となることだ」
「……我らの国は序列間の決闘か遺言でしか次代の女王は選べない。貴様、計ったな」
「俺は何も? 恨むなら隙を見せた貴国自身を恨むのだな。反抗するならこの場でハーピー種を粛清しても良いが?」
リイゼルが唇を噛み締める。
「そんな顔をするな。俺はまだハーピー種を見限った訳じゃない。本来のお前達は誇り高く、しきたりを重んじる存在。今回の件はこの女に
「……今回の件は我らの本意では、無かった」
その言葉をリイゼルから引き出したのを見計らい、彼女へと耳打ちする。
「なら、リイゼル殿はこの状況を利用すれば良いのではないか? 貴方にとってこれはハーピオンを本来の姿へと導く好機だろう?」
「わ、私は……」
この女は僅かだが俺に似ている。主人に絶対の忠誠を誓っていた者だ。そんな者を操るには……。
「考えてみるといい。君の主、亡くなったバアル女王が何を望んでいるのかを」
「……」
リイゼルは否定をせず、顔を伏せる。
「決まりだな。これからは貴方が序列2位のまま、女王代理として国を率いるといい。近いうちに使者を送ろう。魔王国との調印の義をとり行う」
「それで、良い」
再び拡声魔法でハーピー達へと語りかける。
「聞け! リイゼル殿が条件を飲んだことで我らは撤退する。勇気ある決断を行ったリイゼル殿を罵倒することはこの俺が許さん! これからはリイゼル殿の元で国を立て直すがいい!!
」
ハーピー兵達は、誰1人反対の声を上げない。
「皆静かじゃのう」
「あれだけ力の差を見せつけられたらねぇ。文句なんて言えないんじゃないのぉ?」
本来の女王バアルの元であったなら士気も違っただろう。これほどまでの差は生まれなかったはずだ。
この状況に陥れた根源はザビーネ……いや、元は言えば魔神竜復活を利用した俺達かもな。
あれがハーピオンの歯車を狂わせた。
……まぁいい。
「リイゼル殿。ホークウッド村より連れ去った子供達も返して頂こう。ハーピオンとしても汚点は残したく無いだろうしな」
「誰か子供達を連れて来い」
しばらく待つと、十数人の子供達が連れて来られた。
「よ〜し。みんな
イリアスよりも幼い子供達はお互いをしっかりと掴み、彼女へと体を寄せた。
倒れたザビーネを担ぎ、イリアスに
「帰るぞ」
「キュオンッ!」
「ふふ。キュオちゃん大活躍だったね。じゃあねハーピオンの鳥女達ぃ」
笑みを浮かべるレオリアとは対象的に、ハーピー達は皆暗い顔を浮かべる。
ハーピオンの者達には魔王国には勝てぬという意識を植え付けた。反抗そう簡単には起きぬだろう。
「
こうして、俺達はハーピオンを後にした。
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