第77話 燃え落ちた村 ーヴィダルー
村の近くの交易路で馬車を降り、ホークウッド村へと続く渓谷を進む。
「この先だ。ホークウッドはそれはそれは夕焼けの綺麗な村でなぁ。鍛治職人達の鉄を叩く音と夕焼けが合わさるとそりゃあもう……」
バジンガルがその羽毛をソワソワと揺らしながら足早に進んで行く。
「バジンガルのおじさん。嬉しそうだね」
「数ヶ月ぶりの帰宅だと言っていたからな。当然だろう」
先を歩いていたバジンガルが急に立ち止まる。
「も〜おじさん張り切りすぎだよ! 僕達を置いてくなんて……」
レオリアが文句を言うが、バジンガルは何も応えない。
「どうした? 何かあったのか?」
「村が……」
村?
バジンガルの視線を追うと、渓谷の先で炎に包まれている村が見えた。
「わ、ワシは先に行っておるぞ!!」
バジンガルは翼を広げ、崖から飛び立った。
「レオリア! 俺達も急ぐぞ!」
「うん!」
俺達もバジンガルの後を追い村へと向かった。
◇◇◇
辿り着いたホークウッド村は
「クライガル! ミスミさん! どこだ!? 」
バジンガルが家族の名を叫びながら村を駆けずり回る。
「レオリア。生き残りがいないか調べて来い。俺はバジンガルの側にいる」
「分かったよ!」
レオリアが走って行く。
バジンガルは悲痛な声を上げながら村中を駆けずり回っていた。
「チビ共!! メリル!!」
燃え盛る家に飛び込もうとするバジンガルを無理矢理引き止める。
「やめろバジンガル! 家屋に入ればお前まで焼け死ぬぞ!」
「ここはワシの家なんだ! 中でみんな助けを求めてるハズだ!!」
「ダメだ。この火の手ではもう……」
「う、うあああああああぁぁ……」
錯乱している……。あまりやりたくはないが仕方ない。
「俺の目を見ろ」
無理矢理バジンガルの目を見据え、魔法名を告げる。
「
「あ……う……」
彼の瞳に魔力が宿り、ゆっくりとその目を閉じる。火の手の回らない場所までバジンガルを運び、木の下へと寝かせた。
周囲の様子を確認する。
馬のヒヅメや足跡は無い。大群で攻めて来たのなら部隊の痕跡があるはずだ。そうなると、少数で攻めたか。空を飛べるバードマンに対してそんなことをできるということは……。
「ヴィダル! 生き残りがいたよ!」
レオリアの声の方へと向かうと、全身傷だらけのバードマンが横たわっていた。
「酷い傷……この人……」
「言うな。意識させてはいけない」
男の体を起こす。
「大丈夫か?」
「い……痛い……苦しい……」
見たところ戦士という訳でもない。痛みには慣れていないか。
傷付いたバードマンへと「精神支配魔法」をかけ痛覚を麻痺させた。
「あ、ありが、とう……楽になったよ……」
「一体誰がこんなことを?」
「ハーピーだ。村のみんなを殺して、子供達を連れていった……」
ハーピーが人を
「なぜ襲われたか分かるか?」
「長老様に、大剣の場所を聞いていた……」
俺達と同じ……グラムを狙ったか。
「指揮していた者の名前は分かるか?」
「ザビーネという女が……」
「……そうか。疲れたろ? 後は俺達に任せて休んでくれ」
「あ、ああ……」
バードマンは、目を閉じるとそのまま動かなくなった。
「ヴィダル……」
「俺達と同じだ。ザビーネという者が聖大剣グラムを狙った」
「バジンガルのおじさんはどうしよう」
「俺が事実を告げる。下手に希望を持たせても残酷なだけだ」
「う、うん。そうだね……」
俺ならどうしただろうか? 村の者が聖大剣を渡すことを拒むのは容易に想像できる。
俺なら……。
村の者の逃げ場を無くすだろうな。追い詰め、恐怖を与え、逃げ道を塞ぐ。そうした上で交渉を持ちかける。その命と引き換えにグラムを手に入れるだろう。
……。
「レオリア。この行いは俺達と同じだと思うか?」
レオリアは村を見渡した後、首を横に振った。
「ううん。きっとヴィダルなら、悪いことはするだろうけど、こんなことはしないと思う」
「そうか」
俺ならしない。
……。
このように攻め込まれる口実を与えるようなことはな。
「レオリア。俺はハーピオンへ仕掛ける」
「え?」
「手段を選ばないというのなら、俺達も同様だろう。だが」
もう一度周囲を見る。
燃え盛る村。
息絶えた人々。
攫われた子供達。
悲しみに打ちひしがれる者。
ここまでお膳立てしてくれるとはな。
「中途半端な者には相応の対価を支払って貰う」
「ふふ。ヴィダル怖い顔してる」
レオリアは、俺が何をするのか悟ったのか笑みを浮かべた。
ハーピオンのザビーネ。
お前には俺が教えてやるよ。
全てを奪われる屈辱をな。
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