第47話 ドラゴン出現 ー商人ブランドールー
「店長。この種が入った樽どうしますか?」
夜も深まり閉店の準備をしていたギムシャが樽を担ごうとする。
「あああああ!? それは我輩が片付けておくから触るんじゃない!」
「え? あ、そうですか」
ギムシャがドカリと樽を置く。
「ちょおおおお!? それ大事な品なの! もういい! 今日はもう上がって良いですぞ!」
「あ、はい。お疲れっした」
ギムシャが出て行ったことで店の中が静まり返った。
「ふぅ。毎回毎回こんな思いやってられんですぞ」
机に戻り、昼間見ていた種を手で掬い上げる。
「まぁ、でも……」
ふふふ。これをハーピオンに流すだけで50万ゴールドにもなる。ジッと見ていると金塊に見えて来るな。危険を犯す価値があるというものだ。
「それにしても、昼間のあのヴィダルという男はなんだったんだ? 今まで種だけで見抜かれる事など無かったというのに」
その為にワザワザ相場の落ちる種を取引していたのだが、今後はどうしたものか……。
そんな事を考えていたら、種の入った容器が落ちそうになる。
「おっと勿体無い」
またか。昼間の時といいどうも我輩は気を抜くとダメだな。
容器を机に戻す。
「ううん。憲兵に言われたりせんだろうな。今のうちに鼻薬を仕込んでおくか?」
あぁ……また金がかかる。それだけで新たな品を仕入れられるというのに。
「うん?」
ふと机を見ると、先程の容器がカタカタと揺れていた。
「なんですぞ? もしかして、さっきもこれのせいで落ちたのか?」
容器は一定のリズムで振動していた。
カタカタ。
徐々にその感覚が短くなる。
カタカタカタ。
徐々に揺れも大きくなる。
ガタガタガタガタガタガタ。
「うぉ、なんだか不気味ですぞ。今日はもう上がって……」
怖くなって立ち上がった瞬間。
猛烈な何かが目の前を通り過ぎた
「うああああああ!?」
衝撃で吹き飛ばされる。
顔を振るって辺りを見ると、我輩の店が斜めにスッパリと切断されていた。
「み、店が!? 我輩の店がぁ!?」
手に何かが触れる。
「これは……水?」
よく見ると、床一面が水浸しになっていた。
「キュオオオオオオオオオオオオオオン!!」
甲高い鳴き声と共に目の前にドラゴンが現れる。
「ド、ドラゴン……っ!?」
腰が抜けて動きが取れなくなる。
「すごーい! キュオちゃん狙い通りだねぇ!! あはははははは!!」
どこかで聞いた声がする。ドラゴンを見てみると、その首の付け根に昼間見た冒険者の女が乗っていた。
「お、お、お前は……!?」
「これがディープドラゴン。遭遇するのは初めてか?」
ドラゴンの足元からヴィダルが現れる。昼間とは違う禍々しい眼をしたヤツが。
「な、なんで、こんなことを」
「俺達の世界に麻薬の売人などいらん」
ヴィダルが我輩の顔を掴む。
「だが……この国でお前はそれなりの利用価値がありそうだ。最後にチャンスをやろう」
「な、なんですぞ……」
「麻薬の取引には金輪際関わらぬと誓え。そうすれば命だけは助けてやろう」
「ち、誓いますぞ!!」
しめた。生きてさえいれば後はなんとでもなる。手間はかかるが他国にある出店へ種の拠点を移して……。
「ああ。そういえば1つ忘れていた」
ヴィダルが思い出したようにその瞳で覗き込んで来る。
「俺は経営者ってヤツを1番信用していないんだよ」
「な……ん」
「
ヤツの目から鎖が伸び、我輩の目に入って来る。
「ぐあああああああ!?」
「お前にはこの国の監視役をして貰う。俺達への永遠の隷属を命令する」
◇◇◇◇
「お、じゃ〜キュオちゃん次やっちゃって〜!」
「キュオンッ!」
レオリアという女が指示を出すと、ドラゴンが樽を咥えて空へと投げ飛ばす。そして、そのままアクアブレスで樽を粉微塵に破壊して行く。
「お♪ 中々の腕前ですぞ! さすがですぞ♪」
くそおおおおぉぉぉ!? なんで我輩は思ったことが口に出せない!?
「次が最後!」
そして、最後の樽も完全に破壊される。その威力で種は一欠片も残らず消え去ってしまった。
あ、ああああああ……金が……我輩の金の種がぁぁぁ……。
「そろそろ神殿へ迎え」
「キュオオオン!」
「頑張ってね〜キュオちゃ〜ん!」
レオリアが手を振った。それに合わせて身体と口が勝手に動いた。
「頑張るのですぞ〜」
「俺達も向かうか。後は任せたぞブランドール。俺達のことは決して口外するな」
「分かっておりますぞ!」
キリッとした顔を作ってヴィダル達を見送る。
クソがあああああああ!?
今後の人生を思うと、目の前が真っ暗になった。
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