第45話 ディープドラゴン討伐
「キュオオオオオオォォォン!!」
透明な翼を広げ、ディープドラゴンが雄叫びを上げる。
飛竜種と同様の姿を持つ海竜種だが、ディープドラゴンは特殊な進化をしたモンスターだ。
空を飛ぶ為だった翼は、海を高速移動する為の巨大なヒレの役割を担うようになり、炎を吐く為の体内の火炎袋は、海水をアクアブレスとして吐く為の貯水袋へと変化した。
ヤツに狙われた船は即座に破壊される。そうして何度も貿易船は破壊され、いつしか海の主としてら恐れられるようになった。
その海の主は、今まさに俺達に襲い掛かろうとその眼を光らせている。
「レオリアはドラゴンの頭を狙え。ナルガインは胴体を」
「うん!」
「分かった!」
レオリアとナルガインが二手に分かれてディープドラゴンへと駆け出して行く。
ドラゴンがその口を大きく開き、顔のエラを小刻みに震わせる。
「アクアブレスが来るぞ! 当たれば水圧で真っ二つにされる。受け止めようなどと思うな!」
ドラゴンの口からレーザーのように圧縮された水が発射される。ドラゴンはそのアクアブレスを薙ぎ払うように放つ。
「ひええぇぇぇ!? めちゃくちゃ危険な攻撃持ってるじゃん!」
レオリアがアクアブレスを紙一重で避ける。しかしその威力は凄まじく、ブレスが直撃した大地は大きく抉れていた。
「うっわぁ……確かにこれは当たったら即死だねぇ」
ディープドラゴンがレオリアへと狙いを定め、その牙を向ける。長い首がウネリを上げて彼女へと迫る。
「でも」
レオリアが2本のショートソードを交差させ、しゃがみ込む。
ディープドラゴンがレオリアを捕食しようとした刹那——。
彼女は高らかに笑った。
「燃えるねぇ!! あっははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
レオリアがドラゴンの頭に向かって
「
彼女の持つ派生技。空中で高速斬撃を放つそれは、ドラゴンの顔面に傷が深く刻み込んだ。
「キュオオオアアアアアッ!!」
レオリアを襲おうとしたドラゴンは叫びを上げて仰け反った。その隙を見逃さず、ナルガインが胴体へと技を放つ。
「
巨大な螺旋を描くように高速回転したナルガインが、海竜の腹に直撃する。
2度の強烈な攻撃を受けたディープ・ドラゴンは地面をのたうち回った。
そして、怒り狂ったかのようにブレスを吐き続ける。極限まで圧縮された水が縦横無尽に駆け回る。
「ヤツのブレスは連続発射はできない。一度吐き尽くすと次の攻撃まで十数秒のタメが必要になる。ブレス攻撃が止まった瞬間ナルガインは俺の所に来い!」
「分かったぜ!」
「僕が引き付けるよ!」
レオリアが囮となってブレス攻撃を引き付ける。やがて水の勢いは失われ、水のブレスが止む。それに合わせてナルガインが俺の元へと走って来た。
「俺を担いでヤツの顔に飛べ!」
ナルガインは俺を担ぐと槍を地面に突き刺した。そして槍系の
「
突き刺された槍を大きくしならせ、その反動と、スキルによって発生したオーラを利用してナルガインは空高くへと跳躍した。
ナルガインの跳躍でドラゴンを飛び越え、ヤツの頭上へと到達する。フワリとした浮遊感を味わった後、落下が始まった。
足元を見ると、ディープドラゴンが俺達を見上げ、攻撃範囲まで落ちて来るのを待っているようだ。
「おいヴィダル! どうするんだ!? このまま攻撃していいのかよ!?」
「俺がヤツへ飛び込む」
「お前、攻撃系スキルは!?」
「無い」
「はぁ!? お前そんなんでよく——」
ナルガインがその先を言おうとしたタイミングで、ドラゴンがアクアブレスを吐こうとさているのが目に入った。
予想よりチャージが早い。
俺の脳が咄嗟に判断を下す。
ナルガインを蹴り飛ばし、ヤツの狙いを俺だけに向けさせる。
最悪俺は片腕を失うが、ナルガインは我らに必要な人材だ。それに比べれば安い代償だろう。
安い代償? 片腕が?
……死の恐怖が無いというのも、厄介なものだな。
「お、おいぃ!? ヴィダルゥゥ!」
「お前はバランスを立て直すことに集中しろ」
落下していくナルガインからドラゴンへと視線を戻す。
よし。狙いを俺だけに絞ったようだな。
ヤツの瞳を覗き込む。
意思疎通の取れなそうな野生の瞳。だが、精神拘束を持つ俺ならやれるはずだ。
ブレス攻撃の合間縫ってドラゴンへと落下して行く。
攻撃が外れることに苛立ったドラゴンが真っ直ぐに俺へと狙いを定める。
竜の口に水飛沫が上がる。
そのエラが小刻みに動く。
アクアブレスが……来る。
この角度ならギリギリ俺の胴体は守れる。
そう覚悟を決めた刹那。
「
レオリアの得意な技名が。
ディープドラゴンの全身が放電し、ブレス攻撃のタイミングが逸れる。その瞬間にヤツへと魔法を放った。
「
俺の両眼から光の鎖が伸びそれがドラゴンの瞳へと繋がれる。
「キュオオオォォォ!!!」
抵抗するようにドラゴンが叫び声を上げる。
「ディープドラゴン。お前には俺達の駒になって貰うぞ!!」
鎖が光輝き、ドラゴンの両目に命令が刻み込まれた——。
◇◇◇
精神拘束によって支配下に置いたディープドラゴンは、落下していた俺を受け止め、ゆっくりと地面へと降ろした。
「ヴィダル〜!」
走って来たレオリアが抱きついて来る。
「もう! 無茶しないでよ……すっごく焦ったじゃんかぁ」
「レオリアのおかげでなんとか成功したよ。ありがとう」
彼女は俺の胸へ顔を埋めて来た。
「必死だったんだからね。本当にもう……」
レオリアの頭を撫でていると、ナルガインが歩いて来た。
「このドラゴン、もう大丈夫なのか?」
「キュルルル」
ディープドラゴンからは先程までの殺気が消え、イルカのような鳴き声を出していた。
「ああ。これでイリアスを救える」
手を伸ばすとドラゴンは鼻先を押し当て気持ち良さそうに目を閉じる。
ナルガインは何故か顔を背けた。
「どうした?」
「な、なぁ? なんでブレスの時俺を庇ったんだよ?」
「蹴らなければ2人とも死んでいたからな」
「お前だけ生き残る方法もあったろ?」
「血族の者は何よりも大切な存在だ。死なせる訳無いだろう」
「ふ、ふ〜ん……そんなもんかねぇ……」
彼女は何故かこちらを見ない。そのヘルムの奥ではどんな顔をしているのか、何を考えているのかイマイチ分からなかった。
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