メリーコーブの巫女編
第40話 戦後処理
バーナンド草原の戦いからさらに1週間の時が経った。
——エルフの国エルフェリア。フィオナの執務室。
「あ"あ〜立ちっぱなしだから脚が痛いよぉ〜ヴィダルは大丈夫?」
「俺は問題無い」
レオリアが俺にもたれかかって来る。
「ヴィダルから離れなさい」
フィオナがレオリアを引き剥がした。
「あぁ"ん? 何すんだよぉ〜!?」
レオリアがドスの聞いた声を出すと、フィオナも顔を歪ませる。
「わきまえなさい小娘。ヴィダルは幹部なのですよ?」
「僕は側近だからいーの! トンガリ耳の年増エルフは関係無いでしょ!?」
「私はま、まだ120歳です!」
「わ、結構行ってるねぇ〜」
「このクソガキ……っ!?」
2人の挑発はヒートアップし、ついにはケンカを初めてしまった。
何をやってるんだ2人とも……。
彼女達はしばらく謎の組み手のようなもので戦っていたが決着はつかず、同時に執務室のイスに座り込んだ。
「はぁ……それにしても、茶番とは言え魔王軍とエルフェリアの会談疲れましたね。デモニカ様は退屈していないと良いのですが……」
フィオナが額に手を当てる。
確かにかしこまった形式は退屈だろうな。レオリアもずっとあくびを噛み殺していたほどだ。
チラリとレオリアを見る。彼女は俺が何を考えているのか察したのか、顔を真っ赤にしながら居眠りを否定していた。
◇◇◇
小国3ヶ国を掌握した後、エルフェリアの代表であるフィオナ達と魔王デモニカが戦後処理の会談を行った。
会談終了後、デモニカは評議会議長の案内でエルフェリア内の視察を行っている。国民にデモニカの姿を見せ、戦勝の象徴にしたいというフィオナの計らいだ。
「しかし、これで戦後処理の流れはできた。感謝するよフィオナ」
「魔王による3国の管理。評議会の老エルフ共は問答無用で賛成とさせましたが、若者を納得させるのが当面の私の役目ですね」
「侵攻をかけた3ヶ国からの賠償。それとエルフェリアの今後得る恩恵を強調してくれ」
「貴方の言う国家間のバランスという名目で納得してくれるのが1番楽なのですが」
勝利したエルフェリアは多額の賠償金をグレンボロウ、テレストラ、ルナハイムへと請求。その後はこの4ヶ国で強固な経済圏を確立することとした。
テレストラはゴーレム技術の提供。グレンボロウは各国への流通担当。ルナハイムはその兵力を生かして流通経路の護衛事業。そして、エルフェリアは各国に資源を輸出する。
結果として戦勝国であるエルフェリアが最も恩恵を享受しつつ、各国も不平等に感じないレベルの経済優位性を持たせる。
資源の乏しい3ヶ国はエルフェリアから安く資源を輸入できる。これは彼らにとって麻薬のような物でもある。他国からの資源輸入を想定しない経済体制になった時、彼らはエルフェリアから離れられなくなるのだから。
最後に、3ヶ国は魔王軍の管理下へと置くことにした。これによりエルフェリアが他の大国より突出して国力を持つのを防ぎ、かつ他国侵攻時に3ヶ国の戦力を自由に引き出すことができるようになる。
「僕、全然分かんなかったよ。どういうことなの?」
今まで黙っていたレオリアが困ったように首を傾げた。
「小難しい話をしてすまないな。なんと例えたらいいか……」
自分の中で極力分かりやすい言葉を考える。
・エルフェリアは仕送りをする父。
・テレストラは便利な道具を作って家族に提供する長男。
・グレンボロウは運ぶ為の馬車を走らせる次男。
・ルナハイムは馬車を守る三男。
・そして魔王軍は3人が安全に住めるよう管理する母。
「つまり、俺達はそういう関係性になったということだ」
「分かったような……分からないような……」
レオリアが余計混乱したように目を回す。
……俺に教師は向いていないな。
「さっきフィオナが言っていた国家間のバランスって言うのは?」
「戦争とは周辺国との軍事的均衡が破られた時に起こる。俺達の準備が整うまでは他国に動かれたく無いからな」
「あ、それなら分かるかも! グレンボロウが攻めて来た時のことだよね?」
「そう。今回はその逆を懸念している。エルフェリアが大きくなりすぎると、大国は警戒する。そして、軍事力で俺達を上回ろうと彼らも同盟を模索するようになってしまう」
「ふふ。そんなことまで考えるなんて、ヴィダルは本当に周到ですね」
フィオナが薄らと笑みを浮かべる。
「全てを灰にするのであれば力を持って焼き尽くせばいい。だがデモニカ様の希望はあくまで征服。征服とは他国を倒して終わりでは無い。全てを支配下に置いた後、デモニカ様の元で新しい世界が始まるんだ」
そう。その時こそ、俺の目的が果たされる。この世界を俺の理想郷とする目的が。
「新しき世界。良い響き。自分達が支配者だと思い込んでいる愚か者達に絶望を味合わせたいですね。あの老エルフ達のように」
「僕は難しいことは分かんないけど、ヴィダルの手伝いをするのが望みかな」
フィオナも、レオリアもそれぞれ経緯は違えど、デモニカへ忠誠を誓っている。俺に協力してくれる。そんな血族達を見るだけで、胸が熱くなる気がした。
「ところで、2人はこれからどうするのですか?」
「各国との経済交渉はデモニカ様が行うことになっている。俺達は……幹部候補を使えるようにするさ」
「ナルガイン……ですか。確かルノア村で保護していると言っておりましたよね」
「ああ。再生の火による彼女の変異はまだ不完全だ。精神的負担を取り除きながら彼女の枷を探す」
ナルガインに完全変異をもたらすのが新たな俺の役割だ。
「ヴィダルは十分働いてくれています。私が代わりに」
「いや、フィオナには内政に注力して貰わなければならない。俺に任せてくれ」
フィオナはしばらく俺のことをジッと見つめていたが、やがて諦めたようにため息を吐いた。
「……仕事が好きな人。無理をして倒れないで下さいね?」
「平気だ。俺は地獄の120日連続勤務を経験して……」
「え?」
フィオナが不思議そうな顔をする。
……しまった。つい昔のことを口走ってしまった。
「なんでもない。体調には気を付けよう」
俺の返答に一応の納得をしてくれたのか、フィオナは微笑んだ。
「レオリア。ヴィダルに迷惑をかけないように」
「はぁ!? いつ僕がヴィダルに迷惑かけたのさ!?」
「彼に火傷を負わせたのに?」
「うっ……!?」
「戦闘中は常にヴィダルを気にかけなさい。貴方しか現場でこの人を守れないのですよ?」
「……分かったよぉ」
涙目になるレオリアの頭を撫でる。
フィオナへと後は任せ、俺達はルノア村へと帰還した。
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