第39話 落ちる国々 ーヴィダルー

 バーナンド草原での戦いから数時間後。



 ——グレンボロウ。


 アルフレドの屋敷。



 エルフェリアから送られて来た使い魔によればグレンボロウ同盟軍の大敗で戦いは幕を閉じた。しかし、エルフェリアと魔王軍がグレンボロウへと進軍しているという情報は国内外へ届いていなかった。



 応接室のテーブルにバーナンド草原の地図がが広げられ、兵士を模した駒が置かれていた。


「わざわざお越し頂きまして申し訳ございません」


 テレストラの指導者、セドリックとルナハイムの部族長バルドが怪訝な顔をする。


「アルフレド殿。いくら国家間の移動魔法ブリンクが開通したからといってこう急に呼び出されると困りますぞ」


「それで? 今日の報告というのは……」


 バルド達の話を遮るように言った。


「そのことですが、我が同盟軍はエルフェリア軍……いや、魔王軍に敗北致しました。グレンボロウは彼らの軍門に下ります」


「なんですと!? グレンボロウの貴族達は納得しておるのですか!?」



「……そんな話をする為にわざわざ呼び出したのか?」


「いや、お前達を呼ぶこと自体が目的だったのだが……指導者本人が出向くとは。俺達は運が良い。いや、よほどアルフレドは信頼されていたのか」


「は?」


「アルフレド殿、何を言って……」



 2人が顔を曇らせた所で、扉の向こうからが聞こえて来た。


 レオリアは首尾よくやっているようだ。



 ……時間稼ぎは十分か。



精神拘束メンタル・バインド



 俺の瞳から光の鎖が伸びる。伸びた鎖がセドリックとバルドの瞳へと繋がれる。


「ぐぁ……あ……」


「な、何を……」


「近日中に魔王軍が貴様達の国へと攻め入るだろう。その際、魔王デモニカ・ヴェスタスローズへ忠誠を誓って貰う。死人は出したく無いだろう?」


「そ、ぐぅぅ……そんなこと、誰が……」


「そうか? 指導者様達もこのまま死にたくは無いと思うが?」


「誰か!? 誰かいないのか!?」


 バルドが叫びを上げるが、扉の向こうからは一切の返答は返って来ない。


「無駄だ。貴様達の連れは俺の部下が既に仕留めている」


「貴様ぁ!? アルフレドでは無いな!?」


 バルドが剣を抜く。


炎鬼斬えんきざん!!」


 その刃が炎を帯び、俺へと向かって来る。


「まだ動けるか。流石はルナハイムの族長……元戦士が就くだけはあるな」


 腕を炎に焼かれながら、バルドの剣を掴む。燃え盛るような熱と痛みが腕を駆け巡った。


「貴様……なぜ炎が!?」


「悪いががあってな」


 油断したバルドから剣を奪い、その顔面を壁に叩きつける。


「うぐ……っ!?」


「できれば自動判断できる駒が欲しかったが仕方ない」


 バルドの顔を掴み、その瞳を見据える。



「俺の眼を見ろ」



 バルドの瞳。精神拘束の鎖が食い込んだ瞳。


「精神拘束と精神支配を2重がけしてやろう。自我が崩壊しても恨むなよ」


「やめろ……やめ……」


 バルドの両目が恐怖によって震える。


精神支配ドミニオン・マインド


 魔法名を告げた瞬間。バルドが力無く項垂れる。


「バルド殿!?」


 セドリックがバルドに駆け寄る。バルドの瞳は光を無くし、うわごとのように同じフレーズを呟いていた。


「……デモニカ様……デモニカ様に忠誠を……」


 ……フェンリル族にとって族長の判断は絶対だ。これでも使い物にはなるだろう。例え壊れていたとしても。


 2重掛けは相手の精神を破壊するのに有効か。精神力が高かったとしても、直接攻撃として使用できる。1つ学んだな。


「セドリック」


「は、は、はい……」


「お前の役目はなんだ?」


 セドリックが何かを言おうとした瞬間、精神拘束の効果が現れる。彼は、を口にした。


「ま、魔王様に国を引き渡すことでございます……」


 セドリックが恐怖に引きった顔で答える。テレストラはこれで問題無い。精神拘束がある限り、セドリックは恐怖を忘れることは無いだろう。




◇◇◇


 唯一生き残らせた魔法兵に転移魔法を使用させ、バルドとセドリックを送り返した。


 2人の姿が無くなると、レオリアがオロオロとした表情で俺の手を取った。


「だ、大丈夫ヴィダル? この手……すっごく痛そうだよ!?」


「回復魔法で戻らなければデモニカ様に頼んで再生の火を受けるさ。一度燃やし尽くされ再生すれば、元に戻る」


 安心させる為に言ったのに、彼女は泣きそうな顔をする。


「ごめんね、ごめん。ごめんなさい……僕がもっと早く兵士達を片付ければこんなことに……」


 しまったな。俺が傷付くことで彼女が責任を感じるとは思わなかった。


 レオリアの瞳が潤んでいく。それを慰めるようにその頭を撫でた。


「気にするな。レオリアは良くやっているよ」


「ごめんね……僕、もっと強くなるからね」


「期待しているよ。ほら、もうここでの仕事は終わった。俺達の居場所へ帰ろう」


「……デモニカ様、怒るかな?」


「計画は成功だ。何を怒る必要がある? もしそうなれば俺が全力で止めるさ」


「……ありがとね」



 そう。計画は成功だ。


 これで経済的価値のあるグレンボロウ、ゴーレム技術を持つテレストラ、従順な兵を抱えるルナハイムを手に入れた。エルフ達は勝利を味わい、次の勝利を目指す。


 大国エルフェリアはヒューメニアをはじめとした他国の規模を超える。


 だが。


 大国間のバランス調整。軍の編成。幹部の育成。それに統治体制の確立と外交……これから忙しくなるな。


 俺達の居場所は村から国規模へと広がり、守る物も多くなる。



 そして、準備が整い次第打って出る。他の国へと。



 この世界全てを魔王デモニカ・ヴェスタスローズの元に。



―――――――――――

あとがき。


 ここまで読んで下さいましてありがとうございます。次話は新たな魔王軍の幹部として迎えられた「ナルガイン」。を中心とした物語をお楽しみ下さい。


 次章「メリーコーブの巫女編」へと続きます。


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