小国同盟編
第31話 血族会議
——エルフェリア内戦から1ヶ月後。
俺とレオリア、そしてフィオナはルノア村へと集まっていた。
デモニカの屋敷は客室の余計な家具類が撤去され、円形のテーブルが設置されていた。
フィオナの対面に座る。レオリアに座るよう促したが、彼女は側近からのプライドなのか、俺の後ろから頑なに動こうとはしなかった。
デモニカが中央の席へゆっくりと腰を下ろした。
「まずはフィオナ。エルフェリアの状況を」
「評議会は全て
「兵力は?」
「17000の兵は私の元に。5000は傀儡。後は若者達が育つのを待つばかり」
フィオナが上品な笑みを浮かべる。彼女がエルフェリアを手に入れてからたった1ヶ月だというのに、その姿は既に一国の
「ヴィダル。他国への侵攻はいつ頃開始できると見る? 貴様の考えを述べよ」
「現状ではエルフェリア民のフィオナへの信頼は厚い。しかし、侵略戦争を仕掛けるとなると再び国が別れる恐れがある。世論を
「見て来たような物言いですね」
フィオナが不思議そうに首を傾げる。
「あながち間違ってはいない。そこで1つ考えた」
デモニカは背中の翼を払うと、椅子へ深く腰掛けた。そして、脚を組むと射抜くような眼差しを俺へと向ける。
「小国から侵略戦争を受ける。近隣の小国にエルフェリアの内情を敢えてリークすることで他国は内戦について好奇と見るだろう。同盟を組んだ上でエルフェリアへ侵攻すると考えられる」
資源豊かなエルフェリアの森。その周辺国と言えば貴族と商人の国「グレンボロウ」だ。大国エルフェリアとヒューメニアに挟まれ、自国資源の乏しい国。動くことは容易に想像できる。
「それを迎え撃つという訳ですか。なぜ?」
フィオナがその黒いドレスの
「民に勝利の喜びを味合わせる。一度その興奮を体験させれば国内の結束は強まる。小国相手の防衛戦から始まり、反撃に転じて領地の獲得や多額の賠償金と言った戦果を上げる。そうなれば、我々が勝利を重ねる限り国内の分断は起きない」
「あ、悪魔みたいなこと言うねヴィダル……」
後ろのレオリアが戸惑ったような顔を浮かべる。それを安心させるように彼女の手を取った。
「怖いか?」
「ううん。僕は感心しただけ。何も文句は無いよ」
「これが俺達の戦い方だ。それとフィオナ。戦争前にエルフェリアには魔王軍と『同盟』を組んでもらう」
フィオナは意図に気付いたようで、静かに頷いた。
「ほう。その理由は?」
フィオナが主人へとその意図を伝える。
「エルフェリアを
そう。今のエルフェリアの民は魔王の存在を知らない。エルフェリアの国力を表立って動かす為にはこのプロセスがどうしても必要になる。
「同盟を組んでおけば、エルフェリアという国は魔王軍と同じ目的を共有する存在となる。さらに戦争に勝利した民はその味に酔いしれるだろう。そうなれば他国への戦争も起こしやすい」
「ふふふ……優秀な血族達で我は嬉しいぞ」
デモニカが椅子の上に、片足を乗せる。その顔は一見無邪気に見えたが、その表情はすぐに消え、氷のように冷たい顔となった。
「分かった。ヴィダルとレオリアは他国誘導の為の暗躍。フィオナは引き続きエルフェリア軍の配備をせよ」
◇◇◇
会議を終えフィオナが立ち上がる。
レオリアは俺が動かないことで戸惑った顔をした。
「どうしたのヴィダル?」
「レオリア。フィオナ。お前達は先に帰ってくれ」
「デモニカ様と2人きりになれるとでも? 私も残ります」
フィオナが鋭い目付きで俺を見る。
「君、デモニカ様とヴィダルが2人きりになるのが嫌なんでしょ? ダメだよ〜」
レオリアが呆れたように言い放つとフィオナは顔を歪ませた。
「そんなことは思っておりません。小娘の分際で分かったような口を聞かないで」
「あ? 耳削ぐぞ?」
レオリアがショートソードへと手をかけた。
なぜこの2人が争っているんだ……。
そんな2人を見たデモニカが、先程までからは想像も付かない優しげな眼差しを向ける。
「すまないフィオナ。少し我らだけにしてくれないか?」
「申し訳ございませんデモニカ様。失礼致します」
フィオナは一瞬俺の方を見ると、外へと出ていった。
「外で待ってるからねヴィダル!」
レオリアも続いて出て行く。扉が閉まると外から何か言い争っているような声がした。
「ふっ。
デモニカに
「それで? 我に何か話があったのだろう?」
「戦になった時。デモニカに頼みがある」
他の者の前では主人に頼み事などできないからな。
「
「何?」
「同盟を組んだ当主自らがエルフェリアの統率者を守る。シナリオとしては十分だと思うんだが……どうだろうか?」
「なるほど。だが、それだけでは無いのだろう? わざわざ切り札の1つを
「冒険者の中から選定をして欲しい」
デモニカは何も言わず、静かにその理由が語られるのを待っているようだった。
「今後俺達は戦のことも考え無ければならない。複数の戦場で戦わなければならない時も来るだろう。そうなった時。前線で指揮を高める者が必要だ」
3人目の幹部。それは何よりも「強い」者が欲しい。デモニカに永遠と前線に立ってもらう訳にはいかないからな。
「ふふ。良いだろう。
「フィオナには申し訳無いが……」
「物理的には我が守ってやる。
子供のように頭を撫でられる。その感触が心地良いような、むず
普段レオリアに同じ事をしているが、あの娘もこんな気持ちなんだろうか?
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