第34話 フィオナ討伐部隊  ー冒険者クロウー

 ——貴族と商人の国、グレンボロウ。貴族アルフレドの屋敷。



「良く来てくれた」


 若い貴族のアルフレド様。彼の視線の先には俺の他にSクラス冒険者ばかりが集まっていた。


「うわ。有名人ばっか。すげぇ……」


 フェンリル族の勇者と名高い男。レイガー。


 大陸屈指の実力を持つという高位魔法使い。ビィム。


 その技は海をも割るという全身鎧の槍使い。ナルガイン。


「はは。君の噂も我がグレンボロウに響き渡ってるよ? 『ドラゴン殺し』のクロウ君」


 アルフレド様に言われ、思わず顔が熱くなる。


「いやぁ……はは。俺なんて……Sクラスになったばかりですし」


 レイガーが俺の肩を叩く。二足歩行の狼のようなフェンリル族。狼の顔を持つ彼が、俺を安心させるようにその顔に笑みを浮かべた。


「そう謙遜けんそんするな。お前の話は私も聞いている。邪竜イアクを討伐したのだろう? ヤツの固有能力は『不死』。どうやって倒したのか私も知りたいぐらいだ」


「いや、実はあれ不死に見せていたけど、固有能力「再生」だったんですよ。だから再生できなくなるまで切り刻んで……」


「うわぁ〜アンタ、ウブな見た目してやることエグいね」


 魔法使いビィムが呆れたような顔で俺を見た。年齢としては俺よりずっと上のはずなのに、その見た目は俺とそんなに変わらない。そんな人にウブとか言われると不思議な感じがした。


「アンタもボーっとしてないでなんか言いなさいよ!」


 ビィムがナルガインに詰め寄る。全身に鎧を着込んだ男。竜の顔のようなフルヘルムに、2メートル近くの体躯を持つ彼は、その存在感だけで異彩を放っていた。


「いや、オレは初めて会うヤツらと親しく話すのは、ちょっと……苦手で……」


 ……ナルガインはその見た目に似合わず人見知りだった。


 主にビィムが中心になって話をしていると、アルフレド様が咳払いをする。


「君達を集めたのは他でも無い。近く開始されるエルフェリアとの戦でを討伐して貰いたい」


「何で俺達が?」


「クロウ君。この国は貴族と有力商人の集合体。それぞれが出資している軍に一騎当千の英雄は生まれ無いのさ」


 アルフレド様がテーブルに広げられた地図を指す。そこにはエルフェリア領の森から少し離れたバーナンド草原にピンが打たれていた。


「我らはこのバーナンド草原にエルフェリア軍を引きり出す。君達には敵軍の長、召喚士フィオナを打ち倒して欲しい」


「フィオナぁ? エルフェリア召喚士の代名詞って言ったらアルダーじゃない。なんでヤツが出てこないのよ?」


 ビィムが怪訝そうな顔でアルフレド様を見つめる。


「……アルダーはフィオナによって殺害されたとの情報がある」


「な……っ!? アルダーは上位召喚魔法を複数持ってるのよ! なんで負けるのよ!!」


 アルフレド様は深呼吸してから、再びビィムを見据えた。


「送り込んだ密偵によると、フィオナは『妖精の潮流フェアリー・タイド』なる召喚魔法を使う。召喚される精霊の数は数万にも登るという……」


「つまり……。そのフィオナ1人で戦局が左右される恐れがあると?」


 レイガーが口を開く。その目は獣のように鋭い物へと変化していた。


「そうだ。なぜ高い金を払ってまで君達に頼むのか、分かるだろう?」


「アルフレド様達の戦力は大丈夫なんですか? 俺達が戦ってる間に負けちゃったりしたら……」


「そこは安心してくれ。テレストラ・ルナハイム・そして我がグレンボロウ同盟の戦力は3万。敵軍を数で押す」


「……召喚士対策は?」


 ナルガインの鎧から、低い声が反響する。


「テレストラのノーム達からゴーレム兵を借り受ける。盾としては申し分ないだろう。さらにルナハイムの遊撃隊。フェンリル族の持つ俊敏さで召喚士共を先に潰す」


 アルフレド様が俺達を見渡した。


「我らの軍がフォローする。前金も支払おう。受けてくれないだろうか?」


「私はルナハイム族長様からの命を受けてここに来ている。断るという選択肢は無い」


 レイガーは狼の顔を深く頷かせた。


「お金よお金! それさえ払ってくれればなーんにも文句は無いわっ!!」


 ビィムが元気の良い声を上げる。


 噂には聞いてたけど、本当に金が好きな人なんだなぁ。


「クロウ君は? 危険を伴う依頼だが……」


「俺もこんなすげぇ人達とパーティ組んでみたいです! やります!」


 これに成功したら俺の知名度は飛躍的に上がる。今は知る人ぞ知る冒険者だけど、そうなれば一流だ。やってやるぞ!


「ナルガインはどうするの?」


 全員の視線がナルガインに集まる。彼は、話を振られたことに驚くと、大袈裟に頷いた。


「え? やるよ。もう全員受ける前提で話進んでると思っていたぞ」


 なんだか気の抜ける人だな。すごい腕だと聞いたけど、本当に強いんだろうか?


「あ」


 ナルガインが急に声を上げた。


「どうしたナルガイン?」


 アルフレド様が不思議そうに彼を見る。ナルガインはそのフルヘルムの上から頬をポリポリと掻いた。


「オレは前金無しでいい。変な義理持ちたく無い」


「ちょ!? アンタ! 私達も前金無しにされたらどうするのよ!!」


 ビィムが烈火の如く怒り出す。それを見たアルフレド様は苦笑いを浮かべた。


「ははは……そこは各人の希望に合わせよう」


 アルフレド様は再び真剣な顔付きで俺達を見据える。


「私は、今回の作戦の全権を任されている。成功すればこのグレンボロウでも発言力は上がるだろう。そうなれば冒険者ギルドへも還元できる。どうか協力して欲しい」


 アルフレド様が深々と頭を下げた。


 それを見て思わず笑いが込み上げてしまう。


「な、なんだい? 私は真剣に……」


「いえ、貴族様なのに腰が低いのでつい。すみません」


 アルフレド様はこういう所があるからみんなから慕われるんだな。ギルドの人達もみんなアルフレド様には好印象を持っていたし。


 みんなが真剣な表情になる。そこからは歴戦の冒険者たる風格が漂っていた。



 俺も、こんな風になりたいな。



 こうして俺達はフィオナ討伐部隊という名目でパーティを組むこととなった。

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