第24話 議長襲撃

「これがエルフの僕!?」


 擬態魔法ディスガイズでエルフへと擬態したレオリアは、自分の姿を何度も確認していた。猫耳は消え、尖ったエルフ耳に。その姿は何とも可愛らしい若年のエルフそのものだ。


「ど、どう? 可愛いかな?」


「似合っているよ。凄く」


「あああぁぁ〜幸せぇ」


 恍惚の表情を浮かべたレオリアが体をユラユラと揺らす。それを横目に俺も自分自身の姿を再確認した。


 エルフ耳にリオンの服を模したエルフェリアの服。これで準備はできたな。


「レオリア」


「うん?」


「殺害行為を行う時、部位欠損は狙うな」


「えぇ!? 何で? 戦い方制限されちゃうよぉ〜」


「そんな戦い方だとには見えないからな」


「ちぇ。分かったよぉ」


 フードを目深に被り、俺達は評議会場へと向かった。



◇◇◇


 評議会場裏手で待機していると、議会終了を告げる鐘の音が聞こえる。


「昨日確認した通りだ。議長は裏手より帰宅する。護衛は任せた」


「あひ。ひははひふはは……ごめん。ちょっと興奮して来ちゃって」


 興奮した様子でレオリアが笑いを抑えた。以前の彼女からは考えられない表情。しかし、今はそれも愛しく思える。


「気にするな。先程の件だけ守れば後は好きにしていい」


 レオリアにそう告げると、護衛4人に連れられた議長が現れた。


 護衛の装備はロングソードが2人にスピアが2人。フルヘルムで顔は見えないが、あの装備に議長の護衛という役職。それなりに力はあるか。


「行くぞ」


「うん。行くよっ!」


 俺が擬態魔法ディスガイズで風景に溶け込むのと同時に、2本の剣を構えたレオリアが飛び出した。


 その姿を見て議長が狼狽うろたえる。


「な、なんだお前は……?」


「あはははははは!! 老いぼれ議長! その命貰い受けるぅふふふふ!!」


 レオリアが高く飛び上がり、護衛1人の肩へとそのショートソードを突き立てる。


 鎧の継ぎ目へと突き刺さった剣から、血飛沫ちしぶきが上がる。悲鳴を上げようとした喉元はもう1本の剣で掻き切られた。


「あふふふふふひひぃ。1人ぃ」


 一瞬の出来事。1人が殺害されたというのに、辺りは静寂に包まれた。数秒の後、事態を認識した護衛達がレオリアを取り囲む。


「お前は議長を」


 リーダーらしき護衛が告げると、槍を持った1人が議長の前へと移動する。


「2人がかり? 腕に自信無いのかな?」


「貴様ぁっ!!」


 2人の兵士がレオリアへと攻撃を仕掛ける。統制の取れた動き。剣の兵士が攻撃し、その隙を槍兵が庇う。


 レオリアが両手のショートソードで剣をいなすと、次の瞬間には槍が襲う。


「へぇ! 面白いじゃんっ!!」


 彼女がショートソードを振ると剣士が受け止め、槍兵が攻撃を放つ。


 槍を避けるとすぐにつぎの攻撃がレオリアを襲う。



「このまま押し切るぞ!」

「おぅっ!!」


「あははっ」


 剣の兵士がロングソードで突きを繰り出した瞬間、レオリアがショートソードのつかで剣を下へと弾き、剣先を足で踏み付けた。


「な……っ!?」


「槍兵がいるんだからさぁ。突きなんて目、慣れちゃうよ?」


 兵士が驚いた隙を見逃さず、彼女はフルヘルムの付け根、首元をショートソードで突き刺した。


「あ"ぎ」


 何かを言おうとした護衛は、言葉を発せず動きを止めた。鮮血を顔に浴びたレオリアは舌で口元を拭う。


「押し切れなかったねぇ。はは」


 レオリアが目を見開いて笑みを浮かべる。


「う、あああああぁぁぁ!!!」


 槍兵が叫びながらレオリアへと攻撃する。


「あははははははははは!!!」


 コンビネーションを失った攻撃はあっさりと避けられ、すれ違い様にその首を掻き切られた。


 俺は議長の後ろを取り、その口を押さえ込んだ。


「んむっ!? んんっ!!」


 議長の顔を無理やり戦うレオリア達へと向ける。そして、小声で議長の耳元へと囁く。


「護衛が殺される瞬間。よく目に焼き付けるんだな」


 レオリアが2本の剣を持つ両手を広げ、最後の護衛へと声をかける。


「これで1対1だよ。ほらほらおいで? 君を立派な戦士として殺してあげるからさ」


 レオリアの挑発に最後の護衛が雄叫びを上げる。そして槍を構えてスキル名を叫んだ。



疾風突しっぷうづきっ!!」



 護衛が高速でレオリアへと突撃する。その槍先がレオリアへと突き立てられる刹那——。


「よっ」


 レオリアが軽く振るったショートソードによって、槍は真っ二つに切断された。


「う、嘘だろ……」


「残念! あははははは! でも良いスキルだったよぉ?」


 技を破られた護衛が脚を震わせ立ち尽くす。それを見てレオリアは


「何ビビってんの? でも僕は手を抜かないよ。君がスキルを使ったから僕もそれに答えさせて貰う」


 彼女が両手を交差させしゃがみ込む。そして冷たい声で技名を発した。



連環煌舞れんかんこうぶ



 レオリアの声と共に複数の斬撃が放たれる。護衛の鎧は切断され、その体の至る所から血が吹き出す。数秒の後、その体は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「正面から放ってあげたよ。君の遺体を見た者は、勇敢に戦ったと思うだろうね」


 彼女は一切の笑みを浮かべず、その剣を鞘へと閉まった。


「ん"ん——っ!?」


 錯乱する議長の顔を掴み、俺のを見つめさせる。


「お、お前達……!? こんなことをしてどうなるか分かっているのか?」


「分かっているさ。お前達老エルフの時代は終わりを告げる」


「な、何を言って……?」


 議長の目を見据え、魔法名を告げる。


精神支配ドミニオン・マインド。お前を襲撃した者は。助けに来た者にはそう告げろ」


「わ、若い……エルフ……」


 議長の瞳が怪しく光り、ぼんやりとした表情を浮かべる。


「帰るぞ」


「は〜い」


 去り際に後ろを振り返ると、血溜まりとなった石畳みの中央で哀れな老人が座り込んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る