第22話 評議会
フィオナの家へと行った翌日。議会が開かれる鐘の音を聞いた。
「なんで今日評議会があるって分かるの?」
不思議そうな顔をするレオリアには「フィオナに聞いた」とだけ伝えた。「ゲームで何回も聞いていたから分かる」なんて説明できないからな。
「議会場へ潜入している間は決して言葉を発してはいけない。俺の命令があるまで何者にも触れてはいけない。できるな?」
「うん。大丈夫」
レオリアの頭を撫で、自分と彼女へ擬態魔法をかける。目の前のレオリアが風景へと溶け込んでいく。背後からレオリアの気配を感じながら議会場の敷地へと入った。
扉を抜け、石造りの廊下を抜けて2階へと登る。ゲームでは議会場はこの先だったはずだ。
しばらく進むと大きな扉があり、中から人の声が反響していた。
ゆっくりと扉を開けて入り込む。円形の議会場の壁に沿って進み、中央で話す内容へと耳を向けた。内容は前回審議の議事録の確認……内政に関することが主だ。しかし、新議題が提示された時にフィオナの話題が出た。
1人の男性エルフが壇上へと上がり、他の議員の質問に答え始める。
「アルダーよ。お前の弟子が生み出した召喚魔法について説明しろ」
その話す内容は「
「召喚魔法の危険性についてはどう考える?」
「多数の個体を呼び出す召喚魔法は前例がありません。その危険性は未知数です」
議員達から消極的な声が上がる。「前例がないなら仕方ない」、「危険を犯すことはできない」、「なぜそんな物を生み出したのか」……昨日のフィオナの笑顔が脳裏に浮かぶ。笑顔でこの魔法を人の役に立てようと模索していた彼女。それを思い出すだけで胸が痛んだ。
「しかし」
アルダーが声を上げた。
「私ならば扱って見せましょう」
「どのように?」
議長の問いにアルダーは表情を崩さず答える。
「我らが領地である森の終着点。その先の海岸では、先日より海竜人共が領土侵犯を行っております。そこで私が妖精の潮流を発動してみましょう。危険性を確かめるにはリスクが無い方法かと」
「分かった。それでは今回も召喚魔法の処遇はアルダーに一任しよう。その危険性を確かめた後、有用であれば軍へ引き渡す。それでは投票に移る」
危険性を確かめるはずが、有用であれば軍に渡す……ねぇ。議事録に残さぬようこのような言い回しをするとは。この様子ではフィオナへ妖精の潮流を作らせたのも一部の評議員なのだろう。
議員達の投票は程なく終わり、「妖精の潮流」はアルダーへと引き渡される事が決定した。
恐らくフィオナはその努力の結晶をアルダーに奪われるのだろう。そして、彼女は「妖精の潮流」の核を失い、2度と使う機会は無くなる……と。
再びフィオナの顔を思い出す。子供のように目を輝かせるあの姿を。
……。
この老エルフ共は不要な存在だな。
◇◇◇
宿屋に戻って窓を閉める。真っ暗な部屋の中で全ての擬態を解除する。暗闇の中で、レオリアの赤い瞳が輝いた。
「ヴィ、ヴィダル? もしかしてそういう気分? 僕はいつでも……」
「そういう話では無い。これからの話だ」
レオリアは露骨に残念そうな顔をした。
「これからの話?」
「明日、俺は最初の一手を打つ。お前の道徳心からは理解できないことかもしれないが……俺について来てくれるか? 俺の為に罪無き人を殺してくれるか?」
それを聞いたレオリアが邪悪な笑みを浮かべる。
「うっふふふふふふふふふ。ついて行くに決まってるじゃん。僕の幸せはヴィダルの役に立つことだよ? 他のことなんて気にしない」
レオリアの頭を撫でる。彼女は気持ち良さそうに目を閉じた。
その前にフィオナへも種を蒔いておくか。
フィオナとアルダー。先程の議会を見る限り、アルダーはフィオナを利用している。フィオナが彼を信頼している分だけ、真実を知った時の悲しみは大きくなるだろう。
デモニカに渡された赤い宝玉を見る。
デモニカの名を告げると古代遺跡……魔王の間へと誘う
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