第13話 魔王という名の救世主 ー村人カイルー
「カイル!! こっちも取り押さえたぜ!」
「分かった! ゾロスとミリアは盾を持ってるヤツを頼む!」
2人が農具を構えて兵士へと向かっていく。
ギルガメスをレオリアが倒したことで、俺達の中にこの辛い日々が終わるという思いが湧き上がり、村人全員で兵士達への抵抗が始まった。
仲間の元を一旦離れ、俺はレオリアへと駆け寄った。
「カイルおじさん。僕、約束守ったよ」
「うん……うん……今まですまなかった。俺達はお前を助けられずに……」
「そんなこともういいよ。ふふ。見てよこの装備」
レオリアがその手を広げる。それは漆黒の装備。高貴な作りで、ギルガメスのそれとは全く違う気高さを帯びていた。
「僕、凄い人に認められて、名前も貰ったんだ! 僕の名前はレオリア・リベルタス! これからの僕はどこまでも『自由』なんだ!」
レオリアは嬉しそうに笑った。この子のそんな顔を見たのは初めてだ。俺達ではさせてあげられなかった顔……あのヴィダルという男に感謝した。
「おじさん。これから僕はグレディウスの屋敷に行く。僕が戻って来るまで、どうか死なないで」
「ああ。数は俺達のが有利なんだ。レオリアはあのクソ野郎を」
レオリアは頷くと屋敷の方角へと走り去っていった。
◇◇◇
——レオリアが屋敷へ向かってからしばらくの時が過ぎた頃。
2人がかりで兵士へと組み付きその剣を奪う。そして、奪った剣でヤツらを倒して行く。
兵士の数が減るに連れ、1対2が1対3となり、少しずつ俺達が有利になっていく。
「カイル! こっちも抑えたよ!」
声に振り向くと、ミリア達が3人の兵士を捕らえていた。
よし。このままいけば勝てる!
そう考えた瞬間。
「弓兵だ!!」
ゾロスの声と共に矢が飛んで来る。その矢が脚に刺さり、右脚全体に強烈な痛みが走った。
「ぐうぅぅぅ……っ!?」
「カイルっ!?」
周りのみんなが駆け寄って来る。ダメだ。俺のせいでみんなの顔が曇ってしまう。
クソっ。弓兵を押さえに行った仲間は無事なのか……?
何本もの弓が放たれ、みんなが勢いを失っていく。その間に新手の兵士が加わり、周囲を取り囲まれてしまった。
「ど、どうするカイル?」
ミリアが不安気な顔で俺を見た。他にも怪我をして戦えない者が増えていく。
どうしたらいい? せっかくレオリアが道を作ってくれたのに……どうしたら……?
その時。
遠くから叫び声が聞こえた。
それは兵士の悲鳴。苦しむ声。それが徐々に近付いて来る。
「な、なんだ……何が起こってるんだ?」
村のみんなが体を寄せ合って兵士達から逃れようとする中で……。
兵の1人が突然青い炎に包まれ、一瞬の内に灰になった。
「これは
声の主を探して空を見上げる。
太陽を背に黒い翼をはためかせた女が浮いていた。長い赤色の髪に紫の肌。そして……あのヴィダルという男と同じ瞳。黒い眼球に緋色の瞳。しかし、その瞳の輝きはずっと強い。一目であの女がヴィダルの主人だと分かった。
「ルノアの民よ。貴様達の姿、しかと見届けさせて貰った。その命、その魂。生かすべき価値がある」
女が俺達のまわりに火を放つ。それは、あっという間に俺達を取り囲んでしまった。
その光景に周りから悲鳴があがる。しかし、そんな俺達に女は優しく語りかけた。
「案ずるな。その炎は貴様達を守る盾。そして平和を求める民に、勝利の祝福を」
女が手を大地へとかざす。周囲の兵士達をなぞるようにその指が空中を踊る。すると、兵士達の頭上に光の玉が浮かび上がる。それは1人、2人と増えていき、やがて俺達を取り囲む者、弓で狙う者、その全てに光の玉が灯った。
「我が名はデモニカ・ヴェスタスローズ。レオリアの願いにより貴様達を救いに来た」
レオリアが? 「すごい人に認めて貰った」と言っていたが、この女のことだったのか……。
女へ向かって一斉に放たれた弓矢は、その全てが一瞬に燃え尽きる。その光景に兵士達から悲鳴が上がる。
「
女が、その魔法名を告げると、光の玉が灯った兵士に青い炎が湧き上がる。
炎はその体の内から発生していた。何度のたうち回ろうとも火を消すことはできず、兵士達は断末魔を上げながら次々と灰になっていった。
「す、凄い……兵士達が全員……」
空中のデモニカ・ヴェスタスローズが黒い翼を広げる。
その顔は、慈悲の籠った微笑みを浮かべ、俺達を見つめた。
「我が存在は弱き貴様達の為にこそ、ある」
新たな弓兵が現れ彼女を狙い撃つが、彼女はその兵士を見ることも無く手を伸ばす。その瞬間に兵士は炎に苦しみ灰となる。さらなる敵が現れようと、その全てが彼女の前では灰と消える。
俺も、みんなも、彼女から目を離せなくなる。
「貴様達を脅かす存在は、我が1人残らず灰にした」
俺達を取り囲んでいた炎が消えていく。
漆黒の翼が、太陽を浴びて高貴な光を映し出す。
その微笑みからは包み込むような温かさが伝わって来る。
「貴様達が望むのであれば、我はルノナの地の守護を約束しよう」
その絶対的な力、その美しさ、神々しさに自然と涙が溢れた。
「選べ。貴様達の望みはなんだ?」
皆、無意識のうちに膝を付いた。その愛に包まれることに喜びを感じる。
デモニカ様。どうか、我らを……。
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