第2話「執行」

 朝の光が薄暗い独房に差し込み、結衣は眠りから目覚めます。まだ夜明け前の静けさが漂う中、彼女は布団から起き上がります。時計を見ると、早朝の5時を指しています。


 まだ眠気が残る中、結衣は制服に着替え、身支度を整えます。朝の日課として、自己整理のための瞑想や短い祈りを捧げることが彼女の習慣となっています。


 その後、独房のドアが開き、他の囚人たちと一緒に行動するための共有スペースに移動します。早朝の廊下はまだ静かで、囚人たちの足音が響いています。彼らはまだ寝ぼけた表情で、一歩ずつ進んでいきます。


 結衣は食堂へ向かい、朝食を摂ります。時間は6時を回り、朝の日課に出遅れることなく、彼女は薄いスープとパンを静かに口に運びます。周囲では囚人たちが短い会話を交わし、朝のエネルギーが少しずつ湧いてきます。


 朝食後は、囚人たちは割り当てられた作業に取り組みます。結衣は死刑囚としての特別な扱いからか、刑務作業を行う必要がありません。彼女は自分の独房に戻り、時間を持て余すことが多いのです。


 結衣の日々は独房の中での静寂と向き合うことになります。彼女は本を読んだり、手紙を書いたり、時には日記を書き続けます。それは彼女の心の内側を表現する唯一の手段であり、思いを整理する場でもあります。


 夕方になると、囚人たちは再び独房に戻ります。時間は18時を過ぎ、夕暮れが訪れます。結衣はベッドに横たわり、一日の疲れを癒すために休息をとります。彼女は静かな時間の中で自分自身と向き合い、過去の傷を癒していくのです。


 夜が更け、女子刑務所は静寂に包まれます。時計は21時を示し、囚人たちは眠りにつく準備を始めます。結衣はこのような生活を繰り返しています。しかし、彼女がそのように過ごすことができるのも、刑期を全うするまでのことです。

 死刑宣告を受けた日から三日後、独房のドアが開き、結衣は面談室に案内されます。若い男性の刑務官が机の後ろに座っています。彼は真剣な表情で結衣を見つめ、面談を始めます。


 刑務官: 「おはよう、結衣さん。いつものように、心の中に抱えていることを話してみましょう。」


 結衣は無言で刑務官を見つめます。彼女の目には深い沈黙と抑えた感情が宿っています。


 刑務官: 「…わかります。話すことが難しいこともあります。でも、あなたが抱えている感情や思い、それらを共有することが大切です。心の重荷を少しでも軽くするために、話してみませんか?」


 結衣はまだ何も言いません。彼女の表情は複雑で、内に秘めた思いが深く渦巻いていることを物語っています。


 刑務官は結衣の無言にも耐えながら、辛抱強く続けます。


 刑務官: 「時間がかかっても構いません。あなたが準備ができるまで待ちます。話したいことがあれば、いつでも聞かせてください。あなたをサポートすることが私の役割です。」


 結衣はしばらく考え込み、まだ心の中に抱えたままの思いがあります。彼女は刑務官の言葉を受け止めつつも、言葉にできない複雑な感情が立ちはだかっています。


 刑務官は結衣の沈黙を尊重し、彼女のペースに合わせて待つ覚悟を示します。二人の間には言葉では表現しきれない共感が存在し、時間の経過とともに結衣が心を開くことを願っています。


 すると結衣は不思議に思い考えるどうして何も言わない私をここまで理解してくれるのだろう?結衣は疑問に感じていく自分は人の命を奪ったのにでも後悔はしてないし自分のしたことが正しいと思っているでもこの人は私のしたことを許している私が人を殺したことは間違いだと否定しない何故?


 そして結衣は口を開いて刑務官に聞く

 結衣:「私は命を奪った人間ですよ…なんでそんなに優しくできるんですか?普通はこんな風に接せないはずなのに……」

 刑務官は驚いた表情で答えます

 刑務官:「そうですね。確かにあなたのやったことは許されないことです。でも、その前に一人の人間として向き合うべきだと思います。だから、こうして話をしています。もちろん、罪を犯した人に対して厳しい態度で接する人もいます。でもそれは人としての正しさを貫くためであって、決して相手を憎んで罰を与えるわけではないのです。むしろ、あなたのような方こそ、正しくあろうと努力すべきなんですよ。自分の過ちを素直に認め、反省することです。それが更生の第一歩となります。」

 結衣は自分の犯した罪を悔い改めることなどできませんでした。彼女の中で何かが崩れていきます。

 結衣:「確かに私は、いろいろ恨み過ぎたかもしれませんでも、あの人を殺したあいつを殺した事には後悔ありません…」

 刑務官は少し悲しげな表情になります。

 刑務官:「それでも、殺した事は罪です。もし、あなたが間違った方向に進んでしまったら、その責任はすべて周りの人が背負わなければなりません。」

 刑務官「今日はここらへんで終わりにしましょう。後日お話をしましょう」結衣は頷き面談室を出た。


 その後結衣は何回か面談をしたが、自分の気持ちを打ち明けることはなかった。

 それから二週間後、彼女は刑の執行を受けます。彼女は最後まで自分の人生や自分が行った行為について思うことがありました。

 自分の犯した罪やこれからの未来を考えていました。彼女の心の中にはまだ迷いがあり、葛藤があるようです。

 結衣は刑務官に指輪を渡されました。それを受け取った結衣は涙目になり刑務官は驚く、笑う、睨む、泣くなど感情が無かった

 結衣は今まで泣いたことが無い。結衣は最後の最後に涙を流し、刑務官ももらい泣きをする。

 結衣は刑務官に向かって口を開いた。

 結衣:「短い時間ありがとうございました、いつも私の面談などをしてくださり本当に感謝しております。私が刑を迎えたあとあの日記を見てもかいませんそれと……」と言い結衣は処刑台に行く。

 結衣の最後の言葉を聞いた刑務官は号泣していた。そして結衣は目隠しをされ刑を執行された。

 結衣の死刑が執行された後、刑務所の保管庫には、結衣が書き続けていた日記が保管されています。死刑執行から数週間後のある日、前田刑務官はその日記を手に取ります。彼は部屋の片隅に座り、静かな環境の中で日記を読み始めます。


 前田は日記の最初のページから読み進めていきます。最初の数ページでは、結衣が苦しい日々を過ごしてきたこと、内に秘めた心の傷、そして刑務所での暮らしについて綴られています。感情の起伏が激しい結衣の日記からは、苦悩や絶望の深さが伝わってきます。


 ページをめくる度に、前田は結衣の思いに胸を締め付けられます。彼は結衣の強さと脆さを感じながら、彼女がどれほど辛い状況に置かれていたかを垣間見ることができます。


 日記の途中からは、結衣の過去やなぜ殺人犯になってしまったのかが明らかになっていきます。結衣が中学時代にいじめに遭い、工藤との出会いや彼との絆、そして彼の死によって結衣の人生が狂ってしまったことが綴られています。


 前田の目から涙がこぼれ落ちますが、彼は読み続けます。結衣の思いや過去の出来事が、彼女がなぜそのような行動に追い込まれたのかを理解する手がかりとなります。


 最後のページにたどり着いた前田は、日記を閉じます。彼は深いため息をつきながら、結衣が抱えていた苦悩や心の闇に触れたことに対して、感謝と同時に悲しみを抱きます。


 前田: 「結衣さん…あなたの思いや苦しみ、どれほど深いものだったのか、今、ようやく理解しました。この日記はあなたの声であり、人生の断片です。ご冥福をお祈りします。」


 前田は静かなる敬意を捧げながら、結衣の日記を再び保管庫の棚に戻します。彼は結衣の日記が持つ力に心を打たれながら、彼女の物語と苦悩を忘れることはありません。


 朝、冷たい独房から目覚める。鉄のベッドと薄い毛布が私を包み込んでいる。窓の外には薄明かりが差し込み、日々の始まりを告げる。


 朝食の時間がやってきた。粗末な食事が配られるが、私の胃袋は既にこの味に慣れてしまった。ただ食べて生きるだけの日々だ。


 しかし、食欲は失われてしまった。一口、二口と食べても、胃が締め付けられるような感覚に襲われる。食べることに意味を見出すことができず、ただ無理に噛み続けるだけだ。


 その後は掃除や整理などの刑務所の作業が始まる。無言のまま受け入れ、黙々と手を動かす。他の受刑者たちとはあまり話すことはない。それぞれが自身の過去や罪と向き合っているのだろう。


 昼食の時間。また同じメニューが繰り返される。飽きることなく、ただ噛むだけの食事だ。私の胃袋はこの環境に慣れ、何でも受け入れるようになった。


 午後は自由時間。独房に戻り、この日記を手に取る。ここに私の思いや苦悩、孤独を綴っている。この日記が私の唯一の友となっているのかもしれない。


 夕食が配られ、再び食べる。何も感じない味、ただ食べることだけが目的となっている。しかし、食欲は戻らない。胃は空腹を訴えるが、私の心は食事に向かうことを望まない。


 夜、独房で一人寝る。暗闇の中で思いを巡らせる。過去の出来事、家族、工藤。彼の死が私を苦しめる。でも、彼の存在が私を生かし続けているのかもしれない。


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