2話
数分痛みを耐え続けていると、さっき見たギルドフェリーに比べて小さい船が見えてきた。
主人は船の横にバイクを停めると、こっちに振り返る。
「紐」
あらかじめ解いておいた紐を渡す。
鈍臭いと言って殴りたかったのだろうが、その経験がある2人には読めたことだった。
「ちっ。バイクを船に括り付けとけ。もしバイクが流されたらわかってるだろうな」
ハンターはよく船メインで移動するが、大物戦以外の戦闘時には主にバイクに乗って戦うのだ。この海での足を失うのはかなり痛い。
しかも、結構な値段がするのだ。
そんなバイクが無くなるとサルベージハンターの仕事ができなくなる。それに加えて経済状況が深刻な場合、引退確実だ。
もし紐が解けてしまい、バイクがどこかへ流されてしまったりすれば、比喩表現なしで躊躇なく2人は殺されてしまうだろう。
「おせーぞ。リニア」
「悪ぃな。こいつらの回収忘れててな」
「まぁ、いい。ミーティングだ。早く来い」
主人が他の男達に連れられて行ってしまうと、2人は大きく溜息をついた。
「怪我ないか? アレス」
「大丈夫そう。ヒバナこそ大丈夫?」
「大丈夫だ。とりあえず、アレスはバイクの方縛ってくれ。俺はこの紐、船にくくりつけるから」
「ん」
2人は入念に縛ると、梯子を登る。
「ほれ」
「ありがと」
ヒバナが差し伸べてくれた手を取ると、聞きなれた声がかかってきた。
「あっ! アレスちゃーん! ヒバナー!」
「あ、セーナ」
金髪の女の人が手を振っていた。
この船での唯一、私たちに優しくしてくれる『奴隷』の女性だ。
何度か助けてもらったことがある恩人でもある。
「二人で噂の隠された遺物を探しに行ったって聞いたけど、どうだった?」
「空振りだった」
「だと思った。ソースもわからない噂話を真に受けるか……よっと」
「痛っ」
セーナは、ヒバナにデコピンを食らわせた。
「仕方ないだろぉ。俺らみたいな弱者が成り上がるには、誰も信じないような噂話に賭けるしかねぇんだから」
「それで? 目標金額まではどのくらいかしら?」
「あと、98万くらい……」
自分たちの身代金、水上バイクと武器の値段。
合わせて、100万を目標に見積もった。
「サルベージハンターになれるまで、あと何年後になるかしらね」
「うっ。そ、それより、今日は何の仕事か聞いてるのか?」
周りを見渡すと、十数人くらいの奴隷がいる。
いつも連れていかれる時は、アレスとヒバナ、そしてセーナの3人くらいだ。
こんなにたくさんの人数が呼ばれることは滅多にない。
「危ない匂いしかしねぇな」
「まぁ、やることはいつもと変わらないわ。いつも通り、頑張りましょ」
「ん」
「そうだそうだ、アレスちゃん。ヒバナに虐められなかった?」
「虐めねぇよ!」
「イジメラレター」
「棒読みやめろ」
「そうなの!? ヒバナ!!」
「信じるな! 俺はやってない!!」
そう言い終わると、セーナの姿がヒバナの背後に瞬間移動した。
「覚悟しなさい!」
「は! やめ。あははははははははは、死ぬ死ぬやめろぉ」
「いい? 女の子はみんなお姫様なんだから丁重に接しなさい」
「わかった! わかったから!」
くすぐられているヒバナを眺めていると、1人の男の子が近寄ってきた。
「お前ら相変わらず賑やかだな」
そいつは腕を組んでアレスの隣に立っていた。
「よぉ。ヒバナ」
「はぁはぁ……あぁ、久しぶりだな」
ヒバナはそいつに挨拶を返すと、怪訝な顔をしたアレスがヒバナにそっと近づいて小声で話しかけた。
「……誰?」
「あー、……俺もわかんねぇなぁ」
「え、知らないのに久しぶりって言ったの?」
「だって、お前誰? って聞いたら喧嘩売ってるみたいになるだろ」
アレスは呆れた目でヒバナを見ていると、その男の子の視線が自分にあることに気がついた。
「? なに?」
「い、いや、なんでもない。……見てろよヒバナ、今回は俺も潜る。お前より活躍して、アレスの隣を貰うからな!」
「はぁ?」
「わかったな!」
男の子はそう言い切ると、何処かへと行ってしまった。
「モテモテねぇ。アレスちゃん」
「あ、思い出した。私が奴隷になりたての時に私がいつ死ぬか賭けをしようって話してた人だ」
「最悪じゃない……」
成長したアレスに惚れたでもしたのだろうか。
しかし、過去は消すことはできない。アーメン、名も知らぬ男の子よ。
「んー」
顔を顰めたヒバナが何かを考えていた。
「あらあらまぁまぁ!」
「あいつが活躍しても、抜けるのは3人の中で成績が低いアレスじゃね?」
「台無しじゃない……」
こいつの隣は絶対に譲らないという展開を期待していたセーナはがっくりと肩を落とす。
「痛い痛い蹴るな、アレス。ちょっ、セーナも止めてくれ」
「ヒバナが悪いのよ。ありがたく蹴られときなさい」
「そこまで酷いこと言ったか!?」
「それがわからないから、ヒバナは粗◯ンなのよ」
「その言葉、アレスに教えたのお前かぁぁあー!! それに違えから!」
そんなやりとりをしていると、ぞろぞろと主人の仲間たちが出てきた。
3人とも即座に切り替えて、気を引き締める。
「今から『鑑定』を行う。並べ」
主人の仲間がガラス玉を取り出すと、そこに奴隷たちが一列に並んでいく。
「セーナ、『鑑定』ってなに?」
「自分のスキルとステータスを見ることね。あれみたいな第一次魔法文明の『鑑定オーブ』とか『鑑定タレット』とかでできるわ。まあ、第三次魔法文明があった場所ならステータスって唱えるだけでも確認できるから需要は低いわね」
「とりあえず自分の能力があれでわかるってこった。アレスにもスキルがあるといいな」
「ん。ヒバナにも」
「100人の中に1人いるかいないかの確率よ。だから、期待はしない方がいいわ」
スキル。異能。呼び方は様々。
それはある日突然目覚めた。努力の末手に入れた。などの報告例が上がるが、仕組みはいまだに理解されていない。
しかし、その存在はかなり絶大。
スキル持ちというだけでギルドにスカウトされたり、奴隷の価値が跳ね上がる。
それだけ貴重なのだ。
当然、奴隷は売られる前に『鑑定』を受ける。
だが、ここにいるほとんどの奴隷は安物と分類される、スキルを持たない者ばかり。
だからこそ、この中に新たなスキル持ちがいるとはセーナには思えなかった。
「なのになんで、今更『鑑定』なんか……」
セーナがそう呟くと、前から雄叫びが聞こえた。
「スキルだーーーー! ひゃっほい!!」
「あ、さっきの人」
「嘘だろおい」
先程、ヒバナに突っかかった人がガッツポーズを取っていた。
「スキル『咆哮』か。まぁ、当たりだな。次」
さっきの人はヒバナを見ながらニヤけつつ、列を去っていく。
「……くっ、腹立つ」
「それにしても珍しいわね。まさか本当にいるとは思ってなかったわ。……ただ」
「ただ?」
「いやね、主人たちの顔からしてそれが狙いじゃないような気がするのよねぇ」
「ま、まだ、俺にも希望があるんだな!」
「ふふふ、そうね。次よ、ヒバナ」
「おう」
ヒバナはガラス玉に触れると、文字が浮き出てきた。
名前 ヒバナ
年齢 14
職業 『』
ステータス 攻撃20 防御10 素早さ30 魔力10 幸運値30
技能 『』
称号 『少女の守護者』『花火の如し』『一途な心』
「ないな……。ま、気に入った称号あったし、いっか」
「ふむ。次」
名前 セーナ
年齢 21
職業 『盗賊』
ステータス 攻撃120 防御20 素早さ250 魔力30 幸運値10
技能 『』
称号 『風に乗る者』『一途な心』
「素早さ、またあがってる」
「次」
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蟷エ鮨「縲?14
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繧ケ繝??繧ソ繧ケ縲?謾サ謦?0 髦イ蠕。30 邏?譌ゥ縺?0 鬲泌鴨500 蟷ク驕句?、30
謚?閭ス縲弱?縺ォ縺九↑螻ア縺ェ縺九→縲
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「なんだこれ」
「ああ、こいつ鑑定不可の呪いにかかってるんだったわ」
「この数字がステータスか?」
「いや、当てにならんだろ」
「それもそうか。まぁいい。次」
アレスは列から去ると、ヒバナたちがいる方へと向かった。
「一通り終わったな」
そう呟くと、立ち上がり片腕を天に伸ばす。
「いいか野郎共、今日の遺跡はインターネット文明の『中学校』だ。奴隷共を使って広く展開し、より多くの情報と電子機器を集める。準備はいいか!」
「「「「おう」」」」
「出港だ!!」
船が動き出す。
アレスは自分の髪が靡く感覚に気持ちよさを感じつつ白く泡立つ海を眺める。
「何やってんだ?」
「暇だから景色見てる」
「おぉー。風情だねぇアレスちゃん。ほーら、ヒバナもやっときな? じゃないと、アレスちゃんにいろいろ置いてかれちゃうわよ」
「はん。俺がアレスを待つ方だっての」
「おい、ヒバナ」
アレス、ヒバナ、セーナの誰の声でもない声の方向に視線が集まる。
「俺はスキルを持っている。お前が落ちぶれる日はそう遠くないみたいだぞ」
「だからなんだ」
「ふん」
ヒバナを見下したような目を向け、アレスの方へと視線を配る。
「なぁ、アレス、今からでも俺の女にならねぇか? こいつなんかより俺の方がお前を守れるし、将来性はこいつより上だぜ?」
「絶対、嫌」
「ふっ、今日の俺の活躍を見てもそう言い切れるかな。じゃあね」
そいつはそう言って、自分のグループへと戻っていく。
「なんだかこっちが恥ずかしくなってきたわね」
「なんで、今日活躍できることが確定してるんだろうな」
「負け犬の遠吠えにしか聞こえないわよー」
「そういうこというから、大人になっても彼氏の一人もできないんだろうな」
「なにおぅ!」
くすぐりの構えをするセーナとそれから逃げようとするヒバナが、対峙する。
アレスはどうせヒバナが負けるのだと確信し、さっきの男の子を遠くから眺める。
「アレスちゃん気になるの?」
勝負は一瞬だったのか、倒れるヒバナを余所にセーナが話しかけてきた。
「俺様系だったわよねぇ。どうするの? 確かに将来性はあっちの方が上よ」
セーナがそう言って笑いながら茶化してくる。
「あり得ない。私はヒバナがヒバナだから一緒にいるだけ。スキルとか将来性とかどうでもいい」
「だってよ、よかったね。ヒバナ」
「う、うるせぇよ」
そう言ってヒバナがソッポを向く。
「アレスちゃんの無自覚キラー出ました」
セーナの言葉の意味が分からず、アレスは首を傾げるのだった。
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