最終兵器・爆殺ちゃん!


 S博士は天才である。

 天才である彼女は、今日も天才的な発明品を生み出してしまった。

 彼女はさっそくその発明品を携え、大手クライアントの元へ売り込みにやってきていた。


「ご覧あれ!」

 S博士は勢いよく、発明品にかぶせていたカバーを取り払った。

 

 カバーの下からは、一人の少女が現れた。


「そ、そいつは!」と、顧客の一人が叫んだ。「『ライト団』の団長の愛娘まなむすめ、L子じゃねぇか!」


 ライト団とは、ここら一帯を牛耳るマフィアの名前だ。


「いいえ」S博士は首を横に振る。「たしかに見た目はL子ちゃん。でも、本物のL子ちゃんではない」


「どういう意味だ?」


「これは私の発明品、『爆殺ちゃん』よ。最新のAIを搭載した、L子ちゃんそっくりなロボットなの」


「AI? ロボット? なんだ、話し相手にでもなってくれるのか?」


「残念ながら、『爆殺ちゃん』に会話の機能はついていないわ。これはあくまで、暗殺用の兵器なのだから」


「え?」


「この『爆殺ちゃん』の体の中には、時限爆弾が仕込んであるの。タイマーをセットして、時間がきたら、ボン! 半径30メートルを焼け野原にするわ」


 S博士がいま相手にしている連中は、ダーク団である。先ほどの話に出たライト団に次ぐ勢力を誇る、この街ナンバー2のマフィアである。


「すばらしい!」そう言って手を叩くのは、ダーク団の若頭のDだ。「それを使えば、ライト団を簡単に滅ぼせるってわけだ!」


 『爆殺ちゃん』を、ライト団の団長の屋敷に送りこむ。むろん、団長の愛娘そっくりな『爆殺ちゃん』は、簡単に屋敷に入れてもらえるだろう。

 あとは、時間がきたら、ボン! ライト団の団長は爆死。カリスマを失ったライト団は壊滅。晴れて、ダーク団が街のナンバー1に昇り詰めるってわけだ。


「さあさあ、この『爆殺ちゃん』、いくらで買いますかあ~?」

 S博士は、不敵な笑みを振りまきながら言った。


 結局、当初の予想を遥かに超えた金額で、『爆殺ちゃん』は売れたのであった。


「今度とも、よろしくお願いします~」

 S博士はダーク団のアジトを去って行った。


***


 Dはさっそく、ライト団壊滅作戦を決行した。

 S博士から購入した『爆殺ちゃん』を、ライト団の団長の屋敷に向かわせたのだ。

 使用人たちは、L子そっくりな『爆殺ちゃん』を、疑うことなく屋敷へと迎え入れたようだった。

 その様子を、Dは遠くから双眼鏡で眺めていた。屋敷周辺は警備が厳しいので、こうして遠くから観察するほかない。


「ははは! 馬鹿めが馬鹿めが!」Dは高笑いする。「タイマーは夜の七時にセットしてある。団長の家族がその時間にそろって夕食をとることはリサーチ済みだ。ははは! いただきますと同時に吹き飛ぶがいい!」


 なお、信頼できる部下が、本物のL子をすでに誘拐しているはずだ。その部下は「お菓子を餌に、スマートに誘拐してみせますよ」と言っていたが、本気なのだろうか。

 まあ、彼は誘拐のプロだ。心配には及ぶまい。

 

 あとは、夜の七時を待つのみである。

 

 Dはルンルン気分で、ダーク団のアジトへと戻った。


***


 夜七時まで、あと五分。


「ははは! あと五分だ! あと五分で、憎きあんちくしょうはあの世行きさ」

 

 Dは、大勢の手下と、それから誘拐したL子を伴って、アジトの屋上に来ていた。屋上からは、ライト団の団長の屋敷が見える。


「どんな気分だ?」DはL子に向かって言った。「お前の大好きなお父様とお母様はな、あと五分であの世行きなんだよ。屋敷に送りこんだ『爆殺ちゃん』が、あと五分で爆発するのだからな」


 しかし、どんなに煽られても、L子は落ち着き払った態度を崩さなかった。彼女はまだ小学生のはずだが、さすがはライト団の団長の娘といったところか。声ひとつ上げず、正面をジッと眺めている。


「ちっ」Dは舌打ちする。「不感症のガキが。まあいい。屋敷が吹き飛んでも、クールぶっていられるか、見ものだぜ」


 七時まで、あと一分。



***


 いっぽう、ライト団の団長の屋敷では、夕飯の準備が整ったところだった。

 団長と、妻と、娘のL子。それから執事やメイドといった使用人たちも、同じテーブルについていた。団長は、使用人たちに対しても、家族と同様、丁寧に接していた。ゆえに、食事も一緒にとるのだ。


「ねえ、あなた」

 妻が、正面の席に座る団長に向かって言った。


「なんだい?」

 団長は、穏やかな笑みを浮かべて応える。


「今日、用事の帰りにね、女の子を見かけたの。それでね、その子、L子とそっくりな顔をしていたの。このあたりに、L子に似た子なんていたかしら?」

 妻は、隣の席に座るL子を一瞥して言った。


「少なくとも、僕は知らないな」


「その子、怪しい男からお菓子を貰っていたわ。もしかして、あれって誘拐事件の現場だったのかな? 今になって、心配になってきたわ」


 時刻は七時になり、柱時計がボーンボーンと時報を鳴らした。


 それと当時に、遠くのほうから、ものすごい爆発音が聞こえてきた。


何事なにごとだろう!?」

 団長は驚いて、椅子から立ち上がった。


「ダーク団のアジトのほうから音がしたね。何か爆発したのかな?」

 L子は不安そうに言った。



<終>

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