記録
「明日は全国的に雨の予報が続きそうです。外出の際は傘が必要となるでしょう」
そう言いながらも、アナウンサーの表情はどこか晴れ晴れとしていた。横から男の人が出てきて、「次に最新のニュースをお伝えします」と言った。きっと彼らはカップルなのだろう。制服のズボンを腰まで上げながら僕は考える。明日が晴れれば新宿へ行き、明日が雨なら、彼氏の家でみっちりあれをやるのだ。きっとこのアナウンサーは要求不満なのだろう。トーストを噛りながら僕は結論を導き出した。たぶん間違いない。男の人が××が○○を殺害した事件についてうんたらかんたらとか、ラーメン屋でおきた火災事故についてどうたらこうたら言っていたので、僕はテレビの電源を落とした。
「つまらないんだよ」
僕は学校へ自転車に乗り登校し、玄関で靴を履き替えた。いつもどうりネームプレートには「田中ヒデキ」と書いてあった。確かに僕は田中ヒデキだった。
そんな僕を通り抜ける人もいた。彼女は「おはようヒデキ」と、僕に挨拶した。僕もおはよう、と返事した。彼女は「山下メグミ」と書かれたロッカーから靴を出し、外履きを中に入れてからその靴を履いた。
「さて」彼女は前髪を払った。「昨日の手紙、無視しましたね?」
そうだな、と僕は言った。
「逃げないでください」彼女は僕の肩を引いた。そして僕の目をジッと覗いた。「どうして?」
玄関は様々な音で満たされていた。そしてその大半は我々をチラッとだけ見、また何もなかったかのように教室を目指した。
「あのな」僕はそろそろ限界だった。「こんな所で話をするのはもうやめよう」
「それもそうですね」彼女は意外なほどあっさり納得した。「早く行きましょう」
「そうだな」二人分の靴音が鳴った。「早くしないと」
そして我々は、また同じ場所に向かって歩き出した。
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