第34話 穿たれる(2)
「バルム! リーシャ!」
自分を助けた兄姉の名を呼び、カインは限界まで目を見開く。
光線が影壁を突き抜けた瞬間、リーシャがカインを押し退け被弾し、わずかに遅れてバルムが掻っ攫うように妹と弟の体を抱え、光線の雨が降り注ぐ中、離れた岩場まで駆け抜けたのだ。
カインに当たるはずだった一撃はリーシャの右肩を抉り、後続の一撃がバルムの左横腹を貫通していた。
焼き切れたのか血は出ていないものの、体の向こう側が見えるという異様な光景に、カインの目は歪んだ。
「……カイン、怪我はないですの?」
「……どうやら大丈夫みたいよ。良かったわ」
「バカなこと言ってるんじゃねーよ。リーシャとバルムが酷いことになってんだろ」
膝をついている二人の怪我人から心配され、カインはやるせない気持ちが溢れてくる。
どんな困難に思える状況でも勝ち気に振る舞い、化け物じみた実力で向かうところ敵なしと思っていた二人が初めて見せる弱々しい姿に、カインの胸はグッと締め付けられた。
「可愛い弟を守るのが私たちの役目よ……これくらい大したことないわ」
そう言って立ち上がるバルムだが、明らかに足元がフラついている。
いくら常人を超えた身体能力を持っていようと、人間である以上、怪我をすれば痛みも苦痛も感じる。
三人に傷を癒す回復手段はない。街へ行けば医師もいるし回復の能力を持つ
「ここは俺一人でなんとかするから、二人は休んでろ」
「平気ですわ。肩を傷めたくらいで休んでなど──ッ!?」
問題ないと豪語するように立ち上がるものの、胸を張ったリーシャの顔が苦痛に歪む。
鞭を武器とするリーシャが、利き腕である右の肩を負傷してはまともに振ることもできないはずだ。
肉体を武器とするバルムも、出血していれば失血死も有り得るほどの大怪我で、激しく体を動かすのは命に関わる。
二人の力なしに
「
「──なッ!? まさか、アレをやるつもり!?」
カインがどうやって
「大怪我してる二人と一緒に戦い続けるより、俺一人でカタを付けて、出口に誘導して貰ったほうがリスクは低いはずだ」
「そうかもしれないけど、カイン一人に任せるには
カインの真っ直ぐ見つめてくるひとみに、弟の身を心配するバルムはそれ以上言葉を紡げなくなる。
自分が怪我をしたせいで足手まといになることは承知している。しかし可愛い弟を一人で戦わせて危険な目に遭わせたくない。
相反する思いが葛藤を生み、何かを言おうとして止めるのをバルムは繰り返していたが。
「覚悟があるのならば、カインの自由におやりなさい」
背中を押す一言は姉から発せられた。
「怪我をした私たちが戦ってミスをすれば、それこそカインを危険に晒してしまいますわ。だったら弟に最大限の力を発揮して貰うのが最善策ですわ」
自分たちを索敵している
「それに、男が覚悟を見せようとしているのですから、応援してあげるのが家族の役目ですわ」
お題目はどうあれ、弟が固い意志を示しているなら家族として見届けようと、リーシャは締めくくった。
普段は悪ふざけしているのかと思うくらい、常識からかけ離れた言動しかしない姉が、温かい笑みで兄に語りかける。
バルムも意外だと感じたのか、面食らったように目をパチパチしていたが、ややあって目頭を太い腕で覆った。
「とうとう私たちから独り立ちしてしまうのね」
「意味がちげーけど、一人でもやれるってところを二人に見せつけてーってのはあるな」
「わかったわ。男としての門出を応援するわね」
「お前は俺の母親か」
バルムの悲しげな一言に、カインが苦笑いを浮かべる。
冗談混じりの泣き真似ではあるが、兄としても妹に同意する気持ちのようだ。
「それでもサポートぐらいはさせてくださいな。時間稼ぎくらいなら今の状態でもできますわ」
たとえ怪我で全力は出せなくても、カインを手助けするぐらいはしたい。
いつもは弟にフォローされている側の姉が、フォローに回ると申し出た。そのことに嬉しさと気恥ずかしさを感じ、カインは紅潮する顔を隠すように逸らした。
「了解。準備が終わるまで、あいつの気を引き付けておいてくれ。倒した後のことも頼むぜ」
カインは背中越しに後を託し、
一人で戦うのは危険度も高いが、それに見合うだけの価値がある。
カインはこれから起きることを頭に描きつつ、時間稼ぎのために駆け出していくバルムとリーシャを目で追った。
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