第33話 穿たれる(1)
「いな……い?」
無事でもなく、潰されて悲惨なことにもなっていない。
誰かがいた痕跡すらなく、二人の体そのものが消え去った不可思議な光景に、
「──おほほっ。そんな単調な攻撃で私たちをどうにかできると思わないことですわねっ」
離れた位置から聞こえた姉の声に、カインはバッと顔を向け、音のもとをたどる。
せり上がるようにそびえ立つ、前方の岩場の上。背の高い
「私たちの筋力であれば、あの程度の攻撃、避けることなんて造作もないわっ。腕の鍛え方が足りないんじゃないのっ」
腕を組んだバルムも、リーシャの後ろから尊大な態度で現れる。
二人とも負傷している様子はない。どうやら拳が当たる寸前、共に難なく離脱したようだった。
「まったく、ヒヤヒヤさせやがって……」
余裕だけでなく、挑発まで混ぜたセリフで相手を嘲笑う二人に、カインは安堵の溜め息をこぼす。
今の
カインがそう感じるほど、過去に遭遇したどの
「バルム、リーシャ。ちまちまやっても埒が明かねぇ。一気に叩くぞ」
剣ではリーチも短く効果も薄いと判断し、カインは影剣を消す。
消耗は大きくなるが、手数を増やすか強力な一撃を与えるしかない。
「私たちにまっかせなさい」
「別に倒してしまっても構わないですわねっ」
弟からの指示に、嬉しそうに黒銀の巨体へと向かっていくバルムとリーシャ。二人の活気に満ちたオーラがカインの肌を撫でる。
カインには、さきほどの連打攻撃を避ける手立ても防ぐ手段もない。ゆえに〝やられる前にやれ〟が最善の道と、
「うふふっ。スピン・トルネード!」
バルムが拳を握り両腕を上げ相手の背後へ回り込むと、全身を回転させながら
「おほほっ。セイバー・ラッシュ!」
そこにリーシャの光る鞭が伸び来て、無防備になった
ドゴンドゴンと鞭が当たる音には似つかわしくない打撃音が響き渡る。
次から次へと襲ってくる光に、立ち上がることができずにいる
過去にバルムとリーシャが
カインはありえない光景に底知れぬ不安を抱きつつも、自分にやれることを成そうと、高めていた
「カオス・ロア!」
リーシャが鞭を引いたと同時、カインの声と共に
まるで黒いカーテンのような影の覆い。時間をかけて練り上げた
『高エネルギーを検知。装甲強度、機体速度を最大まで上昇します』
視界を遮る目くらましにも見えるそれに危険を察知したのか、
しかし影の包囲から出ようとしても、分厚い壁に阻まれるように弾かれ、巨体の脱出は叶わなかった。
ならば開いている上に逃げようと、
「押し砕けろ」
闇のカーテンから溢れ出た影の奔流が、
コップの内側を真っ黒な氷で押し固めるような攻撃に、生き残れるものはいないと、カインは勝利を確信し口の端を上げる。
「バルム、リーシャ。ちょっと休んだら、出口を探──」「まだ終わってないわよ!」
危機感を煽るバルムの声に、カインは「え?」と呆けた表情を浮かべ。耳に届いた低い駆動音に、ハッとして音の発生源をたどった。
闇の消えた場所。
「なっ……あれを喰らって消滅しないなんて嘘だろ……」
自信のあった技でも倒せなかった
ダメージを与えられなかったわけではない。所々に開いた穴からは、見たこともない金属の部品のようなものが顔を覗かせている。
しかし、瞳を赤く光らせ凛とした姿で立ち続ける姿は、物語に出てくる魔王を想起させた。
「──カイン!」
何かを察知したのか、バルムが離れた位置にいる弟に吠えた。
放心しかけていたカインはハッとして意識を引き戻すと、いつの間にか
ゾワッとした悪寒がカインの背中を走った瞬間、
「くっ……」
広範囲に及ぶ横殴りの光の雨に、とっさに回避行動をとるものの、圧倒的な物量には敵わず、体を光が掠めていく。
「グランド・ウォール」
体捌きでは凌ぎ切れないと判断し、カインは慌てて影で防壁を生み出す。
しかし充分な
防壁のど真ん中を貫通した光が、カインの胸に迫った。
「──ッ!?」
声にならない声が漏れ、一条の光が体を貫く。
顔は苦痛に歪み、光の抜けた穴からは肉の焦げる嫌な匂いが立ち昇った。
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