第31話 瘴機種(1)
「あの先、完全に真っ暗だな」
マグマ竜との死闘を演じた空間から歩いてしばらく。
いきなり通路の途中で地獄への入り口に繋がったかのように光が途切れ、真の暗闇が通路の先に広がっていた。
音の反響具合からして、すぐ先に広い空間があるようだが、試験場内は太陽光の差さない場所。光の届かない位置から先は本当に何も見えない。
もし
「バルム、もしゴーストが出ても今度は暴れ回ったりするなよ?」
「わ、私はいつでもいたって冷静よっ」
釘を刺すカインの言葉に、バルムは視線をあからさまに泳がしながら答える。
何度も暴走されては、何かあったときに対処できなくなる。ましてや閉鎖空間で暴れられたら、岩壁が崩れて押し潰されることだってある。家族の暴走で死ぬなんて真っ平ごめんだ。
「でも明かりは欲しいですわね。何も見えないとどちらへ進めばいいかわかりませんし、カインも困るでしょう?」
「困るっていうか、二人にすげー迷惑かけちまうからなぁ」
リーシャの言葉に、カインは後頭部をポリポリと掻きつつ暗闇を見つめる。
外であれば夜でも月明かりがあるが、四方と上下を厚い岩盤に囲まれた場所では、光源がなければ完全なる暗黒世界になる。
ここまでは試験場の光る壁のお陰で通路でも広い空間でも不自由はなかった。だがこの先は、急に人工物から天然の岩肌が顔を覗かせ、何も見えない闇の空間が支配していた。
「心許ねーけど、輝石で照らしていけば歩けはするか」
距離も空間規模も把握できないのは危険を伴うが、広範囲を照らせるような光源の持ち合わせは皆無。どんな状況でも、使える道具や能力を駆使し、思考を重ねて乗り越えていくしかない。
カインは腰に着けた輝石のライトを点灯させると、光の届いた暗闇の空間と自身の微かに震える手のひらを凝視し、短く息を吐いて意を決した。
「どんなことが待ち受けてるかわからねーからな。油断せずに行くぞ」
カインは心を落ち着かせつつ先頭を歩き。闇に足を踏み入れると、光の届かない空間が三人を迎え入れた。
「かなり広そうですわね」
肌に伝わる空気の感覚から、ここが広大さを誇る場所だとリーシャは知覚する。
狭い閉鎖空間なら声が反響するものだが、リーシャの発した声は返って来ない。
カインのライトの光も剥き出しの岩肌を浮かび上がらせていた。
「これだけ暗いと、どっちへ進んだらいいか本当にわからねーな」
明かりが届かないのでどれだけ広いかわからない上、出口があっても見えないので進む方向も不明。
入り口の灯りが心許なく三人の背中を照らす中、足元に注意を払いながら周囲を探索する。
先へ進む道か隠されたお宝か。何か状況を変えるモノがあることに望み、カインは兄姉を引き連れて暗闇を突き進み。
「うおっ、なんだこれ!」
「いやんっ!」
突如、光に照らし出された巨大な黒銀色の物体に、カインは反射的にザザッと後ずさり、実はビクビクしていたバルムも悲鳴を上げた。
「黒い……箱ですの?」
「おい、変な物に近づくな」
一人冷静に近寄り、謎の物体に触れるリーシャにカインが警告を発する。
こんな場所にある物体がまともな物のわけがない。下手に行動すれば、それが命取りになることもある。
カインは姉の腕を引いて距離を取らせると、見えないそれの全貌を測ろうと腰のライトに手をかけ、上方へと向けた。
「な、なんですのッ!?」
まるでそれを合図にしたかのように、黒銀色の物体が低い音を響かせ始め。
岩壁や天井に眩い光が走ったかと思うと、空間内すべての暗闇を消し飛ばした。
暗さに慣れていた目が明るさに負け、沁みるような痛みが眼球に伝わる中、カインはなんとか薄目を開いて状況を見続ける。
「なんだよ……これ」
黒い箱だと思っていたのは、黒銀色をした巨大な金属の足。一振りで巨大な岩を砕けそうなほど太い腕と角ばった胴体。
最上部には俯くように前傾した流線形の頭部。
すべて金属で形作られた人工的な人形のようなフォルムは、外界ではお目にかかることのない奇異な見た目をしていた。
「まさか……
その正体に気づきカインが声を発すると、三人は後ろへ跳び相手から距離をとる。
「チッ、こんなのがいたのか」
カインが警戒度を最大まで上げ腰から剣を引き抜くと、
ただでさえ試験場から脱出できるか不明なところに、
「こいつが試験場のボスってところかしらっ」
一方、拳を掲げたバルムは楽しそうにファイティングポーズをとる。
初めて遭遇した未知の敵に好奇心と興奮が高まっているのだろう。
「サクッと倒して、帰って優雅にお茶と参りましょう」
リーシャも鞭を地面に叩きつけ、パンッと景気のいい音を立てる。
明るくなった周囲を見回すと、高低差のある大きな岩場がいくつも点在するだだっ広い荒野のような閉鎖空間だった。
相手は見上げるほど巨大だが、地形を上手く活かせば勝機はありそうだ。
強敵にも怯まず、むしろ意気揚々と
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