第18話 二導影(2)
『汝ら進みし穴の先、悪魔住まいし地なり』
くぐもっているのにハッキリと聞こえた低い声に、カインは警戒を解いて相手を見据える。
「どうやら本物みたいだな」
『命惜しくば、おとなしく引き下がるがよい』
片腕を上げ挑発するように三人のほうを指差す
その言い回しと態度にカインはフンと鼻を鳴らし、腰に手を当ててズズイッと一歩前へ踏み出した。
「行くなって言われてハイそうですかって、引き下がる俺たちじゃねーんだよ」
自分の実力を低く見積もられたと感じ、カインは不機嫌に片目を見開く。
「見くびられたものね。私のこの筋肉が見えないのかしらっ」
ついさきほどまで逃げようとしていたことなぞ忘れ、左腕で力こぶを作り、バルムは右手でパンパンと叩いて強調する。
「おほほっ。あなたの脅しなんて、私の鞭で打ち砕いて差し上げますわ」
リーシャは高笑いと共に鞭を両腕で左右に引っ張り、これ見よがしにパシンッと景気のいい音を響かせた。
好戦的な者の多い
その事実は、かつて
実験動物のように思われているのは気に食わない。だが、輝石という見返りは大きい。
カインたちはすべてを承知した上で、あえて挑発に乗ることにした。
『愚かなる者たちよ。降りかかる災いに、その身を焦がされるがいい』
大胆不敵な三人に、
姿は見えなくなったが、どこかからか監視を続けていることだろう。
他人に見られ続けるのは趣味ではないが、邪魔をしてくるわけでなければ、別段気にする必要もない。
「私が恋焦がれるのは素敵な男子だけよっ」
「誰もお前の恋のことなんて気にしてねーと思うぞ」
口元に両拳を添えて恥ずかしがるバルムに、カインは半眼をプレゼントしつつ影の消えた場所を見つめる。
煽られた勢いで言い返した感も否めないが、現在進行中の
「
「私の筋肉だったら、いくらでも見てていいわよぉん」
むしろガン見して欲しいと、リーシャは髪を掻き上げ、バルムは両腕を後頭部に回して全身の筋肉をアピールした。
「腕輪を見つけ出すことは前哨戦に過ぎなかったってことだな。さて、鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだな」
余裕の笑みを浮かべる兄姉を背に、カインは左拳を右手で握りポキポキと小気味よく鳴らす。
「うふふっ。どんな敵でも、どんと来なさいっ!」
「おほほっ。困難な状況でも、ねじ伏せて見せますわ!」
腕をシュッシュッと振りファイティングポーズをとるバルムと、鞭をグルンと一回転させるリーシャは、人間のみならず
「腕のないゴーストばっかり襲ってきたりして」
「時には諦めることも肝心ねっ!」
「美容のために無理はいけませんわねっ!」
カインがボソッと呟いた瞬間、手のひらを返し谷を背に逃走を図ろうとする二人。
その服を両手でグッと掴み、逃げないようにした弟に、兄と姉は頬を引きつらせた。
「自分たちの実力を試す面白い機会じゃねーか。ワクワクするなっ」
バルムとリーシャをからかうことができる絶好の機会を得て、カインは満面の笑みを浮かべると、ズルズルと二人を引っ張りながら谷の中へ入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます