小説家の職業病。

猫カイト

薬物と作家

 職業病というものを知っているだろうか?

例えば農家の人が他人の間違っている農業をみたりしてイラついたりすることを言う言葉だ。

作家にもその職業病はある。

それは色々なものをよく観察してしまうことだ。例えば人間や、物、町まで色んな物を観察しまう。それが作家の職業病だ。

「聞いてますか~先生?」

「聞いてるよ。それで何ページ欲しいんだい?」

僕はカフェで担当と打ち合わせをしていた。

「30ページほどの短編を一つ...」

「いきなり来て30ページ欲しいのか!?」

「すいません!先生しか頼める人が居なくて~」

担当は汗をかき、悪いことをお願いしたなぁと言う目をしている。

「僕は君がどやされそうと作家には関係ないんだぜ?」

そういい放つと彼は泣きそうな顔になる。

「だが、僕と君の仲だ。特別に書いてあげようじゃあないか。そのかわり給料を上げるように編集長に交渉してくれよ?」

こんな風に値を上げなければ生活出来ない人間と言う生き物に不便さを感じる。

かと言って、グレーゴルのように虫にはなりたくないが。

「えぇ、そりゃあもう!先生ありがとうございます!」

担当はお礼を言い去っていく。

どうやら本当に最後の希望だったようだ。

「これで何とか今月は生きていけそうだな。30ページか...」

僕は何を書こうか迷う。

OKしたが別に何を書くか決まっているわけではない。だが生活の為だ。仕方なくOKした。

例え書けなくても彼が無理な日付で頼み込んできたからだと言えば彼は怒られるが僕は怒られない。

だが、何もやっていなくては僕の名声に関わるので書かないわけじゃあない。

つまり僕にとってはWin-Winだ。

そんな考えをしていると、一人の女性が通りすぎる。

「彼女いいネタになりそうだ。」

そう思い僕は後をつける。

 「いつものあれ頂戴よ!」

「もうお前みたいなジャンキーには売れねぇよ。俺も回収できる宛がねぇ奴には貸せねぇよ。それとも宛があるのか?」

「そ、それなら妹がいるわ!妹に払わせるから!」

「ほぉ、宛があるなら売ってやる...誰だ!」

男は大声を上げる。

「はぁばれたか。薬物売買の場なんて見れる機会は滅多にないからネタにしたかったんだが...」

「何言ってんだてめぇ!見られちゃあ仕方がない!」

男は懐から小さめのナイフを取り出す。

「ほぉ、本当に売人ってのはナイフを常備してるんだな。」

「なめてんのか!殺られてぇのか!?」

男は僕の態度に激昂しているようだ。

「待て待て待て。何も僕は君を通報しようってんじゃあ無いんだ。ただ取材したいだけさ。」

「薬物売買を取材する奴なんて聞いたことねぇよ!」

「いや海外のテレビではよくあるみたいだぜ?

顔を隠すので取材させてくださいってやつ。」

「ならおめぇは隠してくれるのかよ?」

「隠すわけ無いじゃあないか。」

元々君という人物は登場しない。

出るのは薬物の売人という役柄だけだ。

「なめてんのか!」

男は何かに怒りナイフで切りつけようと突進してくる。

「おいおいおい、そんな走って転んでもしらないぜ?」

僕はそう言い男の足を引っ掻ける。

男は顔から倒れる。

そして持っていたナイフが額にささる。

「音的にナイフが刺さったかな?どんな風に刺さったんだ?見せてくれよ。」

僕は男を仰向けにする。

男の額はナイフで傷が大きくついてしまっていた。

「あちゃーこれは跡が残るな。」

「ひぃ!」

女はその顔に驚いたのか逃げようとする。

「待ってくれよ。」

僕は男の鞄から薬を取り出して女の方に投げる。

「君のおかげで珍しい体験が出来た。持っていけ。」

「も、持っていけってあんたの物じゃ」

「おいおいおい。これは落ちてる物だ。もう誰の物でもないだろ?」

「そ、そういって警察に薬を盗んで逃げたって通報するつもりじゃ...」

「そんなわけないじゃあないか。彼が警察に捕まれば僕は薬物売買を止めなかったって言われて罪に問われるかもしれないだろ?僕は通報しない。そして彼は薬物売買の主犯だ。勿論彼もしない。なら君がしなければ何も無かったことになるじゃあ無いか。」

女は納得したのか素早く去っていく。

「あ、あんな狂った奴といたら何が起こるか分かったようなもんじゃない!」

「いいネタが出来たな。」

僕はネタが出来、さっそく原稿にとりかかる。


「こんなの乗せられませんよぉ。」

「そりゃあそうか。」

僕は笑いながらやはりなと思う。

「しかし、良くできてますねーリアルで本当に見てきたみたいじゃあないですか。先生薬物やってませんよね!?」

「そんなわけないだろ。あんなのやって傑作が書けるならやるけどね。」

「せんせぇー」

「嘘だって。このネタはいい取材協力者がいてね。」

 

彼の今回の行動は小説家の職業病なのか、彼の性格ゆえなのかそれはよく分からない。

だが職業病にはお気をつけを。

いつそれがあなたに悪影響をもたらすか分からないのですから。








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小説家の職業病。 猫カイト @Neko822

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